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(19)天莉に近付く者たち

もしかして江根見さんと

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「ひ、ろし……。な、んで?」

「ったく、俺がいねぇとすぐこれだ。話はあとだ。行くぞ!」

 博視ひろしは、今まで天莉あまりに近付く男がいなかったのは、自分が虫よけしていたお陰だと言わんばかりの口ぶりで告げて。
 有無を言わせぬ調子でグイグイと強引に天莉の腕を引っ張って大股で歩き出す。

 天莉はそうされながらも振り返り様、「すみませんっ」と沖村に声を掛けるのを忘れなかった。


***


「ねぇ博視ひろし! いきなり何なの! あんな態度……沖村さんに失礼でしょ!?」

 天莉と違って博視は対外的な仕事をする部署――営業課――の人間だ。

 天莉同様首からさげた『株式会社ミライ』の社員であることを現す社章入りの名札には、ハッキリと『営業部営業課 横野』と記されている。

 そんな名札を付けた状態での暴挙。

 沖村は天莉の名札も目敏めざとくチェックしていたような人間だ。
 博視のものも、同様に見られた可能性がある。

 『ミライ』の人間であることを冠した状態で、他社――しかも親会社――の人間にあんな態度。

 天莉には尋常とは思えなくて。

 掴まれた腕を振り払うようにして博視に抗議したら、物凄く不機嫌な顔をして睨み付けられた。

「は? お前がハッキリ突っぱねらんねぇみてぇだからわざわざ助けてやったんだろーが。天莉の癖にいちいち口答えしてくんなっ!」

 そのついで。小声でポツンとごちるように「紗英さえかよ」と不機嫌に言われた天莉は、思わず瞳を見開いた。

「……もしかして江根見えねみさんと上手くいってないの?」

 何となくそんな予感はしていたけれど、その苛立ちを自分にぶつけられても困ると思いつつ天莉がそう問いかけたと同時――。

「もしそうならお前、俺んトコに帰っ……」
「やぁーん。玉木先輩せんぱぁーい。私の婚約者と二人きりで何コソコソ話してるんですかぁ~?」

 博視の声に被せるように、紗英さえ甲高かんだかい声が投げ掛けられた。

紗英さえ

 恋人の登場と同時に博視ひろしの表情が一瞬だけ曇って……すぐさま極上の笑顔に変わる。

「いつ会場に着いたの? 連絡くれたらすぐ迎えに行ったのに。……体調はどう? 平気?」

 そっと紗英の腰に触れていたわるような仕草をする博視からは、先程一瞬感じられたうれいのようなものは完全に立ち消えていて。

 天莉あまりはさっき博視が言い掛けた不穏ふおんな言葉は聞かなかったことにしよう、と思った。

 そもそもハッキリ言われていたとしても答えは「No」と決まっていたのだけれど。

(博視、江根見えねみさんにはあんなに優しく接するのね)

 自分とも、付き合いたての頃はあんなだったかな?とふと考えて、ぼんやりとそんなだった気もするな、と思った天莉だ。

 ここ数年のぞんざいな接され方の記憶が強烈過ぎて、イマイチはっきりとは思い出せないけれど、付き合っていたんだもん。楽しい時もあったよね?と思って。
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