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(15)初めてのマリアージュ

あ、まずいかも?

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***

 じん――直樹?――が言った通り、甘いどら焼きと、日本酒との相性は抜群で。

 ぬるめにかんをつけた日本酒はとろりとしていて、果実のように熟成された芳醇ほうじゅんな香りが、いつも飲んでいる酒とは少し違って感じられた天莉あまりだ。

 加えて。

「綺麗な琥珀色……」

 それも古酒の特徴らしい。
 熟成年数が増せば増すほどこの色が濃くなるのだとか。

 青み掛かって感じられるほどに澄み切った色の若い日本酒しか飲んだことがなかった天莉は、琥珀色にゆらゆらと揺れる色みに目を奪われる。
 白地の中に藍色で蛇の目模様が描かれた利き酒に使う猪口ちょこは、中に入った酒の色をこれでもかと言うくらい天莉に意識させた。

「気に入ったかね?」

 すぐ横に座る尽から、うっとりするようなバリトンボイスで問い掛けられて、天莉は素直にコクッとうなずいた。

「ラムレーズン入りのどら焼きも、このお酒も……私には初体験の連続で……味覚も嗅覚も視覚もびっくりしっぱなしです」

 別に可笑しいことなんて何もないのに、ふふっと笑いながら答えてしまったのは、もしかしたら少しアルコールが効いてきたのかも知れない。

 空きっ腹にお酒はいけないという思いはあったから、先にラムくんドラをはむはむしてお腹を膨らませたつもりだったのだけれど。

(どら焼きの方のお酒も結構強かったんだもん……)

 全体的にしっとりしたラムくんドラは、噛みしめる度ラムレーズンだけではなく粒あんからも、ラム酒の気配がふんだんに感じられるどら焼きだった。

(でもそれがすっごく美味しかった……)

 空っぽだった胃腸は、ラムくんドラの甘味としての側面はもちろんのこと、アルコール入りという部分もしっかりと吸収してくれたらしい。

 じんに勧められるまま、猪口ちょこに注がれた日本酒を何杯か口にしたことも、天莉あまりの酔いに拍車を掛けた。

 天莉は猪口ちょこの中で揺れる琥珀色の液体を見詰めて、器の中に残ったものを喉の奥に流し込む。

「はぁー、美味しっ」

 鼻に抜ける熟成香がどら焼きの甘さと相まって、本当に口当たりがいいな……と思った。

 隣に大好きな尽がいると思うと、緊張のためか、ついついお酒を飲むピッチが上がってしまう。



***


「今まで家で飲み食いすることがなかったから余り頓着しなかったが、せっかく天莉と一緒に暮らしているんだ。皿とか茶碗とか湯飲みとか……ついになってるやつに買い替えようか」

「ほぇっ?」

 頭にほわりと膜が掛かっているようで、じんの言葉がすぐには頭に入ってこなかった天莉あまりだ。

「ほら、どら焼きが載ってる皿。揃ってなくて何か面白くないだろう?」

 元々個包装されていたどら焼きだ。

 別に皿などなくてもよかったのだけれど、何となくそのまま盆に乗せるのは気が引けて、天莉は似たような大きさの小皿を二つ、棚から取り出して使ったのだけれど。

 どうやら尽はその器が揃いじゃないことを言っているらしい。

「でも……今の所そんなに不便は感じてないよ?」

 ですよ、がまともに言えなくて天莉は(あ、まずいかも)と思った。
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