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(13)ネコ・猫パニック
俺への気持ちは……
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そんなことをしても後の祭りだというのは分かっている。
分かっているけれど、天莉はそうする以外に何も思い付けなかったのだ。
そんな天莉の迫力に驚いたのか、今まで頑なに尽のひざの上から退こうとしなかったバナナが、慌てたように飛びのいてしまう。
だけど、そんなことにも頓着していられないくらい、天莉の心は千々にかき乱されていた――。
「私……私……」
自分のせいで尽との結婚が――ひいては〝偽装の契約関係〟が御破算になってしまったと気が付いた天莉は、ショックで上手く言葉を紡げない。
尽は、そんな天莉をそっと抱き寄せると、天莉の耳元。静かな声音でそっと問いかけた。
「ねぇ天莉。お願いだからさっきの言葉は嘘だって言って?」
「さっきの……言葉?」
尽の懇願するようなバリトンボイスが、天莉の中へゆっくりと浸透してくる。
両親の目の前で尽に抱き締められていて……。
そんな二人のただならぬ空気感を、父母が何も口を挟めずに固唾を呑んで見守っていることにも気付けないまま。
天莉はつぶやくように尽の言葉を反芻した。
「俺への気持ちは……本当に横野以下?」
尽にそう付け加えられた天莉は、あの言葉が思いのほか尽を傷つけていたのだと、今更のように気付かされて。
「そんなわけ……ありません。私の中で常務は……もうとっくの昔に博視なんか足元にも及ばないくらい大切な存在になっています。……嘘をついてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。私、ただ……不安だったんです」
「……そうか」
天莉はずっと、偽装の関係のはずの尽のことを本気で好きになってしまっただなんて、尽本人にだけはバレてはいけないと思っていた。
だけど――。
「……それを聞いて安心した。天莉、俺のことを大切だと言ってくれて有難う。俺も天莉のことを誰よりも大切な存在だと思ってるからね。それから……不安にさせてすまない。その辺もちゃんと払拭してもらえるよう頑張るから……俺のことを見捨てないで?」
不安にさせていることを謝罪してくれた上、そうさせないよう努めてくれるとまで言ってくれた尽の、心底ホッとしたような表情と柔らかな声音に、そう言うのは全て杞憂だったのかな?と思えて。
(見捨てられたくないのは私の方だよ……)
愚かな嘘をついた本当の理由は、両親の前では語れない。でも尽と二人きりになれたら、ちゃんと説明しよう。
天莉が尽の腕の中でそう思ったとき、ニャーンと鳴いて、バナナが二人の間へ割り込むようにして尽のひざの上へ戻ってきた。
バナナの強引さに思わず苦笑して、そこでハッとしたように天莉は今更ながら両親の存在を思い出す。
「あ、あの……常務……」
恥ずかしさに懸命に尽の腕から逃れようと手を突っ張ったら――。
「ねえ俺の可愛い子猫ちゃん。さっきから俺のこと、言いつけ通り名前で呼べてないの、気付いてる?」
尽がギュッと腕に力を込めて天莉の耳に唇が掠めるくらいの至近距離で言葉を吹き込んでくる。
それはきっと、天莉だけに聞こえるくらいの囁きだったのだけれど。
「帰ったらお仕置きだね」
ククッと笑って、真っ赤になって耳を押さえた天莉を解放すると、尽は何でもなかったように居住まいを正した。
分かっているけれど、天莉はそうする以外に何も思い付けなかったのだ。
そんな天莉の迫力に驚いたのか、今まで頑なに尽のひざの上から退こうとしなかったバナナが、慌てたように飛びのいてしまう。
だけど、そんなことにも頓着していられないくらい、天莉の心は千々にかき乱されていた――。
「私……私……」
自分のせいで尽との結婚が――ひいては〝偽装の契約関係〟が御破算になってしまったと気が付いた天莉は、ショックで上手く言葉を紡げない。
尽は、そんな天莉をそっと抱き寄せると、天莉の耳元。静かな声音でそっと問いかけた。
「ねぇ天莉。お願いだからさっきの言葉は嘘だって言って?」
「さっきの……言葉?」
尽の懇願するようなバリトンボイスが、天莉の中へゆっくりと浸透してくる。
両親の目の前で尽に抱き締められていて……。
そんな二人のただならぬ空気感を、父母が何も口を挟めずに固唾を呑んで見守っていることにも気付けないまま。
天莉はつぶやくように尽の言葉を反芻した。
「俺への気持ちは……本当に横野以下?」
尽にそう付け加えられた天莉は、あの言葉が思いのほか尽を傷つけていたのだと、今更のように気付かされて。
「そんなわけ……ありません。私の中で常務は……もうとっくの昔に博視なんか足元にも及ばないくらい大切な存在になっています。……嘘をついてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。私、ただ……不安だったんです」
「……そうか」
天莉はずっと、偽装の関係のはずの尽のことを本気で好きになってしまっただなんて、尽本人にだけはバレてはいけないと思っていた。
だけど――。
「……それを聞いて安心した。天莉、俺のことを大切だと言ってくれて有難う。俺も天莉のことを誰よりも大切な存在だと思ってるからね。それから……不安にさせてすまない。その辺もちゃんと払拭してもらえるよう頑張るから……俺のことを見捨てないで?」
不安にさせていることを謝罪してくれた上、そうさせないよう努めてくれるとまで言ってくれた尽の、心底ホッとしたような表情と柔らかな声音に、そう言うのは全て杞憂だったのかな?と思えて。
(見捨てられたくないのは私の方だよ……)
愚かな嘘をついた本当の理由は、両親の前では語れない。でも尽と二人きりになれたら、ちゃんと説明しよう。
天莉が尽の腕の中でそう思ったとき、ニャーンと鳴いて、バナナが二人の間へ割り込むようにして尽のひざの上へ戻ってきた。
バナナの強引さに思わず苦笑して、そこでハッとしたように天莉は今更ながら両親の存在を思い出す。
「あ、あの……常務……」
恥ずかしさに懸命に尽の腕から逃れようと手を突っ張ったら――。
「ねえ俺の可愛い子猫ちゃん。さっきから俺のこと、言いつけ通り名前で呼べてないの、気付いてる?」
尽がギュッと腕に力を込めて天莉の耳に唇が掠めるくらいの至近距離で言葉を吹き込んでくる。
それはきっと、天莉だけに聞こえるくらいの囁きだったのだけれど。
「帰ったらお仕置きだね」
ククッと笑って、真っ赤になって耳を押さえた天莉を解放すると、尽は何でもなかったように居住まいを正した。
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