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(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

残された時間

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「ん? 平気も何も……。元々俺は親からの条件で三十五までに結婚相手を見つけないといけなかったからね。実際猶予ゆうよが迫ってる。それこそ相手を自分で見付けてか、親が見付けた相手をめとらされるかの二者択一だから。――別に問題はない」

 確か天莉あまりが去年社内報で見るとは無しに見た高嶺たかみねじんの年齢は、三十三歳と書かれていたはず。
 彼の誕生日がいつかは分からないけれど、今は三月に入ったばかり――。
 もしも尽が二月八日生まれの天莉同様早生まれならば、すでに三十四になっているか、もしそうではないにしても、年内にはそうなると言ったところだろう。

 確かに結婚相手を見つけて婚姻までこぎつけるとなると、期限が一年くらいしかないというのは……それこそお見合い以外では厳しそうではある。

「あの……っ、高嶺たかみね常務のお誕生日はいつなんですか?」

 そんなことを考えた天莉は、思わずそう問いかけて――。

「ん? 俺の誕生日は四月五日だが――。ああ、三十五までにあとどのくらい残されてるのか気になったのか」

 天莉からの質問にククッと笑うと、尽が「もうじき三十四になるが、プレゼントはキミでいいよ?」と天莉を見詰めてくる。

 眼鏡の奥の眼光が冗談を言っているようには思えなくて、天莉はドギマギして。

 どうしていいか分からなくて、パスタをフォークにクルクルクルクル巻き付けて誤魔化そうとしたら、「そんなにたくさん巻いて、キミの小さな口に入るの?」と笑われてしまった。

「たっ、高嶺たかみね常務が笑えない冗談をおっしゃるからですっ!」

 思わずそんなじんを睨み付けてそう返した天莉あまりだったのだけれど。

「冗談とは心外だな、天莉。俺は結構本気で言ってるんだけどね?」

 今までは息子の自主性に任せてくれていた両親から、三十四歳になったら自分たちが勧める相手との見合いを否応なく受けてもらうと宣言されているのだと、尽が真剣な顔で吐息を落として。

「そうなる前に、俺は天莉を両親に紹介したいんだよ」

 そう言った。

「――それに、どうも天莉は勘違いしているみたいだけど……キミのご両親に対しても、俺は元より〝お嬢さんとお付き合いさせて頂いています〟だなんてまどろっこしい挨拶をするつもりはないんだけどね?」

「えっ?」

「結婚の許しを得るために挨拶へ行くのに、何でわざわざ交際宣言をする必要がある? そんなところはすっ飛ばして、『お嬢さんをにください』一択だろう?」

 眼鏡越し。

 真摯しんしな表情で見つめられた天莉は、尽はこのとんでもない申し出を、本気で言っているんだと理解した。
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