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*梅雨の長雨―恋慕―
シャワーとか……浴びる?
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***
「このままじゃ風邪。ひいちゃうね」
唇を離すと同時。
タツ兄が照れたように瞳を揺らしながらそんなことを言って。
その初々しい態度にあてられて、私も照れ隠し。うつむきながら小さくうなずいた。
「えっと……なのちゃん、着替えとかは……」
ちらりと手にしたままの荷物に視線を向けられた気配に、「ごめんなさい、こんなことになるとは思ってなくて何も……」と、小さなハンドバッグの持ち手を握りしめたら、タツ兄が、「僕の服でもいい?」とうかがうように聞いてきた。
幸いショーツまでは濡れていないと思う。
私は「貸してもらえると助かります……」って答えながらタツ兄が靴を脱ぐのを手伝って。
「あの、松葉杖は……」
地面に横倒しになったままの杖を持ち上げながら問いかけたら「家の中では使ってないんだ」と返された。
「じゃあここに立て掛けておくんでいい?」
水滴の付いた松葉杖を玄関わきの壁に寄せながらタツ兄を見上げたら、「うん、お願い」って言いながら、彼がヒョコヒョコとケンケンをしながら奥の方へ消えて行く。
私はそんなタツ兄の背中を見るとはなしに見送りながら、自分はどうしたものかと玄関先に立ち尽くして。
とりあえず服から水が滴り落ちるほど濡れてはいないけれど、ぐっしょりと水気を吸ってしまった靴下は脱がないと駄目かな?とかぼんやり考える。
(裏地が太ももにまとわりついて気持ち悪いな……)
そんなことを思いながらワンピースのスカート部分をつまんで眉根を寄せていたら、
「えっと……もしよかったら……その……シャワーとか浴びる?」
ヒョコッと奥の間から顔を覗かせたタツ兄に問い掛けられた。
このところ自分はシャワーばかりで、いま浴槽にお湯が溜まっていないんだ、と申し訳なさそうに付け加えながら、「それでも熱いお湯を浴びると違うんじゃないかと思って」とタツ兄が言うから……。
何だかそれってとっても恥ずかしいお誘いに思えてしまった私だ。
だって、なおちゃんとはお風呂と性行為は必ずセットだったから。
(タツ兄にはそんな下心ないのかな?)
なおちゃんとの数年間で、すっかりエッチが生活の一部みたいになってしまっていたはしたない私は、タツ兄相手にそんなことを思ってしまう。
「タツに……、たっくんは……入らない、の?」
身体が冷えている云々で言えば、彼もじゃないかな?って思った私だったけど、思い返してみれば、タツ兄は実際レインコートを脱ぐとそれほど服は濡れていなくて。
髪の毛だけが濡れそぼっていたのはレインコートのフードから滴り落ちた水滴がタツ兄の顔を濡らしていたからだろう。
むしろ、さっき私を抱きしめてくれた時に私の服から水気を吸ってしまったかも知れないくらい。
「僕は……平気だよ」
言われて、私は少し考えた。
「このままじゃ風邪。ひいちゃうね」
唇を離すと同時。
タツ兄が照れたように瞳を揺らしながらそんなことを言って。
その初々しい態度にあてられて、私も照れ隠し。うつむきながら小さくうなずいた。
「えっと……なのちゃん、着替えとかは……」
ちらりと手にしたままの荷物に視線を向けられた気配に、「ごめんなさい、こんなことになるとは思ってなくて何も……」と、小さなハンドバッグの持ち手を握りしめたら、タツ兄が、「僕の服でもいい?」とうかがうように聞いてきた。
幸いショーツまでは濡れていないと思う。
私は「貸してもらえると助かります……」って答えながらタツ兄が靴を脱ぐのを手伝って。
「あの、松葉杖は……」
地面に横倒しになったままの杖を持ち上げながら問いかけたら「家の中では使ってないんだ」と返された。
「じゃあここに立て掛けておくんでいい?」
水滴の付いた松葉杖を玄関わきの壁に寄せながらタツ兄を見上げたら、「うん、お願い」って言いながら、彼がヒョコヒョコとケンケンをしながら奥の方へ消えて行く。
私はそんなタツ兄の背中を見るとはなしに見送りながら、自分はどうしたものかと玄関先に立ち尽くして。
とりあえず服から水が滴り落ちるほど濡れてはいないけれど、ぐっしょりと水気を吸ってしまった靴下は脱がないと駄目かな?とかぼんやり考える。
(裏地が太ももにまとわりついて気持ち悪いな……)
そんなことを思いながらワンピースのスカート部分をつまんで眉根を寄せていたら、
「えっと……もしよかったら……その……シャワーとか浴びる?」
ヒョコッと奥の間から顔を覗かせたタツ兄に問い掛けられた。
このところ自分はシャワーばかりで、いま浴槽にお湯が溜まっていないんだ、と申し訳なさそうに付け加えながら、「それでも熱いお湯を浴びると違うんじゃないかと思って」とタツ兄が言うから……。
何だかそれってとっても恥ずかしいお誘いに思えてしまった私だ。
だって、なおちゃんとはお風呂と性行為は必ずセットだったから。
(タツ兄にはそんな下心ないのかな?)
なおちゃんとの数年間で、すっかりエッチが生活の一部みたいになってしまっていたはしたない私は、タツ兄相手にそんなことを思ってしまう。
「タツに……、たっくんは……入らない、の?」
身体が冷えている云々で言えば、彼もじゃないかな?って思った私だったけど、思い返してみれば、タツ兄は実際レインコートを脱ぐとそれほど服は濡れていなくて。
髪の毛だけが濡れそぼっていたのはレインコートのフードから滴り落ちた水滴がタツ兄の顔を濡らしていたからだろう。
むしろ、さっき私を抱きしめてくれた時に私の服から水気を吸ってしまったかも知れないくらい。
「僕は……平気だよ」
言われて、私は少し考えた。
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