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なおちゃんの弱さ
今は誰とも会いたくないんだ
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がチャッと開錠音がするなり、向こうからやや強引にドアを引かれて、あっという間になおちゃんが中に入ってくる。
「菜乃香っ!」
顔を見たら恨み節のひとつでも言われるかと思っていたし、私自身そうしたかったのに、なおちゃんは何も言わずに私をギュッと抱きしめてきて――。
玄関扉も閉まり切っていないこの状況で、余りにも性急にそんなことをされた私はどうしていいか分からなくて固まってしまう。
「何であんな中途半端なまま電話の電源切るんだよ。心配しただろ!」
言われて、私はなおちゃんが私のことを心配してここまで来てくれたんだと思い知った。
「だって……あれ以上話しても仕方ないって思った、から」
言ったら「馬鹿……。んなわけあるか」ってつぶやかれて、腕にギュッと力を込められてしまう。
「なおちゃん、お仕事は……」
作業服姿のなおちゃんに気がついて恐る恐るそう問いかけたら「こんな状態で行けるわけないだろ。――お前だって休んでるじゃないか」と苦々しげにつぶやかれた。
私を抱きしめるなおちゃんの身体が小さく震えているのを感じて、私はハッとさせられる。
緒川直行という男性が、強そうに見えてとても弱いところのある人だと思い出したからだ。
なおちゃんは図太いようでいて、とても繊細なところがある。
四月に人事異動がある直前の三月末。彼が仕事を休みがちになることに、私は付き合い始めて割とすぐ、気付かされた。
あれは確かなおちゃんとこういう間柄になって二年目の春。
なおちゃんの〝それ〟がすごく酷くて――それまでは仕事後には毎日のように会えていたのに、「今は誰とも会いたくないんだ。ごめん」と言われて一ヶ月ほど会えなくなってしまった時期がある。
実際その頃、一ヶ月ぐらい傷病休暇という形でなおちゃんは仕事も休んだ。
普通の彼氏・彼女の関係なら、そんな時、相手がなんと言おうと家に乗り込んで行くことが出来るのに、私たちはそさえ許されない関係だったから。
それは、なおちゃんが私を拒絶して自宅に引きこもってしまったら、全く会えなくなってしまうんだと、私に現実を突きつけてくる期間でもあった。
電話も、「菜乃香からは掛けないで欲しい。俺から連絡するのを待っていて欲しい」と言われて。
そんなことを言いながらも、なおちゃんは「菜乃香の存在だけが俺の救いだから」と言って、まるでそれを証明するように夜になると毎日のように電話を掛けてきてくれた。
それがなかったら、私の方も心配で潰れていたと思う。
「菜乃香っ!」
顔を見たら恨み節のひとつでも言われるかと思っていたし、私自身そうしたかったのに、なおちゃんは何も言わずに私をギュッと抱きしめてきて――。
玄関扉も閉まり切っていないこの状況で、余りにも性急にそんなことをされた私はどうしていいか分からなくて固まってしまう。
「何であんな中途半端なまま電話の電源切るんだよ。心配しただろ!」
言われて、私はなおちゃんが私のことを心配してここまで来てくれたんだと思い知った。
「だって……あれ以上話しても仕方ないって思った、から」
言ったら「馬鹿……。んなわけあるか」ってつぶやかれて、腕にギュッと力を込められてしまう。
「なおちゃん、お仕事は……」
作業服姿のなおちゃんに気がついて恐る恐るそう問いかけたら「こんな状態で行けるわけないだろ。――お前だって休んでるじゃないか」と苦々しげにつぶやかれた。
私を抱きしめるなおちゃんの身体が小さく震えているのを感じて、私はハッとさせられる。
緒川直行という男性が、強そうに見えてとても弱いところのある人だと思い出したからだ。
なおちゃんは図太いようでいて、とても繊細なところがある。
四月に人事異動がある直前の三月末。彼が仕事を休みがちになることに、私は付き合い始めて割とすぐ、気付かされた。
あれは確かなおちゃんとこういう間柄になって二年目の春。
なおちゃんの〝それ〟がすごく酷くて――それまでは仕事後には毎日のように会えていたのに、「今は誰とも会いたくないんだ。ごめん」と言われて一ヶ月ほど会えなくなってしまった時期がある。
実際その頃、一ヶ月ぐらい傷病休暇という形でなおちゃんは仕事も休んだ。
普通の彼氏・彼女の関係なら、そんな時、相手がなんと言おうと家に乗り込んで行くことが出来るのに、私たちはそさえ許されない関係だったから。
それは、なおちゃんが私を拒絶して自宅に引きこもってしまったら、全く会えなくなってしまうんだと、私に現実を突きつけてくる期間でもあった。
電話も、「菜乃香からは掛けないで欲しい。俺から連絡するのを待っていて欲しい」と言われて。
そんなことを言いながらも、なおちゃんは「菜乃香の存在だけが俺の救いだから」と言って、まるでそれを証明するように夜になると毎日のように電話を掛けてきてくれた。
それがなかったら、私の方も心配で潰れていたと思う。
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