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お母さんの言葉
父親のこと
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「ただいまー……」
いつもなら「ただいまっ!」とハキハキとした声で開けられる実家の玄関だけど、今日はとてもじゃないけどそんな気になれなかった。
お母さんはお父さんにもなおちゃんとのことを話したのかな。
お父さんに知られたら絶対面倒だ。
そう思ったけど、いつも十七時には帰っているはずの父の車が、まだ車庫に入っていない。
もしかしたら今日は居ない日?
祖父の会社で大型トラックの運転手をしている父は、祖父の計らいで基本的には日帰り出来る距離ばかりを走行している。
姉が幼い頃は、広島に拠点のある自動車メーカーの営業マンをしていた父は、土日に不在なことが多かった。
父親っ子だった幼稚園児の姉が、父親不在の寂しさからか、様子がおかしくなってしまったらしい。
情緒が不安定になり、今まではカラフルに伸び伸び描いていた絵が、太陽を隅っこの方に小さく小さく描くようになったり、色使いが黒一色になってしまったり、誰の目から見ても明らかに「変」になってしまったそうだ。
幼稚園の先生からそんな指摘を受けた母が、子供らに絵の描き方を教えていた知人に姉の絵を見せて相談したら、「両親から、特に父親からの愛情に飢えてる子供がよくこんな絵を描くよ? 心当たりない?」と指摘されたんだとか。
その話を受けて、父はすぐに車の営業を辞め、元々持っていた大型自動車の運転免許を活かす形で、義父(私からすると祖父)のやっていた会社に転職したらしい。
父親は、私が生まれた時には既に大型トラックの運転手で、私はお父さんがそれ以外の仕事をしていたことがあると言われてもピンと来なかった。
ただ、家にある車が何度買い替えても同じメーカーの車ばかりだったのは、父が勤めていた時の同僚から車を買っているためだと、子供心に聞かされたのを覚えている。
同僚たちがいなくなってからはあちこちの車メーカーの車に買い替えられるようになったけれど、小さい頃は本当、同じメーカーの車ばかりだった。
そんな父だったけど、私たちが小学校にあがる頃には、たまに泊まりがけで走るような距離――大抵行き先は鳥取県――の仕事に出ることがあった。
そういう時は夜帰ってこない。
恐らく今晩はそれだ。
「今日はお父さん、出雲?」
キッチンに立って夕飯の支度をしている母に、何の気なしを装って聞けば、「うん、そう」とつぶやくような返事があって。
お母さんの声も沈んで聞こえて、私は心臓をギュッと掴まれたような息苦しさを覚える。
姉は私が今日ここへ来ることを知っているから、わざと寄り道をして帰るって言ってた。
『私は邪魔しないようにするからしっかりお母さんと話し合いな』
姉にそう言われたのを思い出して、私はギュッと拳を握りしめた。
「ただいまー……」
いつもなら「ただいまっ!」とハキハキとした声で開けられる実家の玄関だけど、今日はとてもじゃないけどそんな気になれなかった。
お母さんはお父さんにもなおちゃんとのことを話したのかな。
お父さんに知られたら絶対面倒だ。
そう思ったけど、いつも十七時には帰っているはずの父の車が、まだ車庫に入っていない。
もしかしたら今日は居ない日?
祖父の会社で大型トラックの運転手をしている父は、祖父の計らいで基本的には日帰り出来る距離ばかりを走行している。
姉が幼い頃は、広島に拠点のある自動車メーカーの営業マンをしていた父は、土日に不在なことが多かった。
父親っ子だった幼稚園児の姉が、父親不在の寂しさからか、様子がおかしくなってしまったらしい。
情緒が不安定になり、今まではカラフルに伸び伸び描いていた絵が、太陽を隅っこの方に小さく小さく描くようになったり、色使いが黒一色になってしまったり、誰の目から見ても明らかに「変」になってしまったそうだ。
幼稚園の先生からそんな指摘を受けた母が、子供らに絵の描き方を教えていた知人に姉の絵を見せて相談したら、「両親から、特に父親からの愛情に飢えてる子供がよくこんな絵を描くよ? 心当たりない?」と指摘されたんだとか。
その話を受けて、父はすぐに車の営業を辞め、元々持っていた大型自動車の運転免許を活かす形で、義父(私からすると祖父)のやっていた会社に転職したらしい。
父親は、私が生まれた時には既に大型トラックの運転手で、私はお父さんがそれ以外の仕事をしていたことがあると言われてもピンと来なかった。
ただ、家にある車が何度買い替えても同じメーカーの車ばかりだったのは、父が勤めていた時の同僚から車を買っているためだと、子供心に聞かされたのを覚えている。
同僚たちがいなくなってからはあちこちの車メーカーの車に買い替えられるようになったけれど、小さい頃は本当、同じメーカーの車ばかりだった。
そんな父だったけど、私たちが小学校にあがる頃には、たまに泊まりがけで走るような距離――大抵行き先は鳥取県――の仕事に出ることがあった。
そういう時は夜帰ってこない。
恐らく今晩はそれだ。
「今日はお父さん、出雲?」
キッチンに立って夕飯の支度をしている母に、何の気なしを装って聞けば、「うん、そう」とつぶやくような返事があって。
お母さんの声も沈んで聞こえて、私は心臓をギュッと掴まれたような息苦しさを覚える。
姉は私が今日ここへ来ることを知っているから、わざと寄り道をして帰るって言ってた。
『私は邪魔しないようにするからしっかりお母さんと話し合いな』
姉にそう言われたのを思い出して、私はギュッと拳を握りしめた。
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