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*斜め上からの独占欲

誰にも渡したくない

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「俺の言いつけを守って、毎日ちゃんと消毒して偉いね」

 頭をふわりと撫でられて、私はご主人様に褒められた忠犬の気分でなおちゃんを見上げる。

「まだちょっと痛いかもしれないけど、毎日ポストを動かして消毒しなきゃダメだよ?」

 あけてくれたピアスの穴の具合を確かめているからだろう。耳元で話すなおちゃんの吐息が耳をかすめて、私は思わず小さく吐息を漏らした。

「んっ」

菜乃香なのかは本当感じやすいよね」

 途端くすくす笑われて、耳元の髪の毛を指先でくるくるともてあそばれる。
 それがまたくすぐったくて……そこはかとなく気持ちいいの。


菜乃香なのか、可愛い。大好き。――ダメだって分かってても誰にも渡したくないって思う」

 なおちゃんが熱に浮かされたような目をして私の身体を引き寄せると、あごを捕らえて貪るような口付けをくれる。

「んっ、ぁ、――なお、ちゃ……」

 キスの合間を縫うように切なくなるぐらい愛しくてたまらない彼の名を呼べば、その言葉さえ逃したくないみたいに舌先で絡め取られた。

 私たち、毎日のように会えば身体を重ねているけれど、全然足りなくて……もっともっとと思ってしまう。

 それはきっと、なおちゃんが妻帯者で、どんなに肌を合わせても全部私のものにすることは敵わないという気持ちも手伝っての感情だと思う。

 なおちゃんの方も、何だかんだ言っても家族を手放す覚悟までは出来ていないから。
 刹那の逢瀬おうせが心を焚き付けるんだろうな。

 なおちゃんと一緒にいると、自分が動物になってしまったような気がして怖い時がある。

 お互いに相手の身体を求めることしか見えなくなって、深く深くその行為に沈み込んで溺れてしまうような、そんな恐怖。

 熱い抱擁ほうようと情事の後、なおちゃんがアパートを後にしてひとり部屋に取り残されてしまえば、途端喪失感で虚しくなるのは分かっているくせに。

 一緒にいる時は麻薬のように、彼のにおいが、彼の息遣いが、彼の声が、彼の温もりが、彼と触れ合う肌の感触が……私の脳を麻痺させるの。
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