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『とり服』短編集
『年越しそばのお味はね?』
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
【作品紹介】
大晦日くらい、大葉に女の子らしいところを見せたい!と意気込んだ羽理だったのだけれど。
※2023年の年越し用に書き下ろしたものです。
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
「ね、大葉。年越しそばは私が作るね」
いつも大葉に料理を振る舞ってもらってばかりだったから。
大晦日の今日ぐらい女の子らしいところを見せつけてやりたい!
日頃包丁なんて滅多に持たないくせに、買ってきた長ネギを、レシピサイトと睨めっこしながら懸命に四センチくらいの長さの縦割り切りにしていたのだけれど。
横でそばを茹でるお湯を鍋にかけながら、大葉は私の手元が気になって仕方がないみたい。
「おい、ちょっと待て、羽理。包丁の持ち方が……」
とうとう我慢出来なくなったのか、私の手に大きな掌を重ねるようにして、包丁の持ち方を正してきて。
結局何だかんだ言いながら、ほとんどのネギを大葉が五~六ミリ幅の細切りにしてしまった。
「もぉ! 私がやるって言ったのにぃ!」
「とっ、年の瀬に怪我とかされたら病院やってないし大事だろっ」
むぅーっと口をとがらせながらも、私は「だったら」と気を取り直してめんつゆ作りに挑戦したのだけれど。
「お、おい。それ、火力が強すぎないかっ?」
グラグラ煮立つだし汁に、「こういうのは中火くらいでいいんだぞ?」と、大葉が私に湯気が当たらないようカバーしながら手を出してくる。
「もぉ!」
またしても大葉に手を出されてムムッと唇をとがらせたら、さすがに悪いと思ったのかな?
大葉が「すまん、つい……」と言ってスッと後ろに下がってくれた。
でも、大葉が掛けてくれていたふつふつと煮立った鍋に、「テイッ!」とそばを放り込もうとしたら「バカッ! 火傷しちまう!」と言われて、結局その辺りもほぼ大葉がやってしまって。
もうもうと湯気が立ち上る中で、茹で上がったそばを引き上げる作業に至っては、当然過保護な大葉がやらせてくれるはずがなかった。
「盛りつけだけは私がするんだから!」
あらかじめ〝大葉が〟揚げてくれていた海老天が入った容器を手にお箸を握ったら、「どうぞ」と……やっとそこだけは私に全部譲ってくれて。
(結局ほとんど大葉がやっちゃった……)
――今日ぐらいは私が作ってあげたかったのに。
そんなことを思いながら出来上がったおそばをすすったら、ほらね、大葉が監修してくれたから、いつも通りとっても美味しく仕上がってる。
「やっぱり大葉が作った料理は美味しいね……」
ちょっとだけしょぼんとしながら言ったら、
「そうか? 羽理と一緒に作ったから、いつもより数倍旨いと思うぞ?」
とか。
「……私、足引っ張るばっかりで……ほとんど何も出来てない……」
大葉の言葉が素直に受け入れられなくて。拗ねたようにうつむいたままボソッとつぶやいたら、「バーカ。ネギだって切ってくれたし、そばつゆの調味料だってお前が計ってくれたじゃねぇか。盛り付けも羽理がしただろ?」だって。
そっか。
いつもは全部全部大葉がやってたもんね。
大葉の言葉に、ちょっとだけ気持ちが上向いた私は、「来年は……もっともっと頑張るから。……料理、ちょっとずつでいいから教えてね?」と言ってみた。
「ああ、もちろんだ。羽理と台所に立つの、楽しいしな」
そんなことを言い合いながら……。
二人、ハフハフしながら年越しそばをすすっていたら、付けっぱなしにしていたテレビから「あけましておめでとうございます!」という声が聞こえてきた。
その声にふと手を止めたと同時。
すぐ横に座る大葉とパチッと目が合って。
「あけましておめでとうございます」
「あけおめ」
丁寧にあいさつをした私に、大葉は略式で返してきて。
そのことがおかしくてクスッと笑いながら、どちらからともなく距離を削って――。
年が明けて初めてのキスは、ちょっぴりネギの風味と海老天の香りがする、出汁の利いた和風味だった。
何だかおしゃれじゃなぁーい!って思いながら、そう言うのが逆に、私たちらしくていいかも?って思ったの……だなんて言ったら、大葉はどんな顔をするのかな?
二人で顔を見合わせて、新年初のキスの感想を述べあう前に、つい今し方まで眠っていたはずのキュウリちゃんが、ワン!っと吠えて、私たちの間に割り込んできた――。
今年も一年、よろしくお願いします!
END(2023/12/30)
【作品紹介】
大晦日くらい、大葉に女の子らしいところを見せたい!と意気込んだ羽理だったのだけれど。
※2023年の年越し用に書き下ろしたものです。
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
「ね、大葉。年越しそばは私が作るね」
いつも大葉に料理を振る舞ってもらってばかりだったから。
大晦日の今日ぐらい女の子らしいところを見せつけてやりたい!
日頃包丁なんて滅多に持たないくせに、買ってきた長ネギを、レシピサイトと睨めっこしながら懸命に四センチくらいの長さの縦割り切りにしていたのだけれど。
横でそばを茹でるお湯を鍋にかけながら、大葉は私の手元が気になって仕方がないみたい。
「おい、ちょっと待て、羽理。包丁の持ち方が……」
とうとう我慢出来なくなったのか、私の手に大きな掌を重ねるようにして、包丁の持ち方を正してきて。
結局何だかんだ言いながら、ほとんどのネギを大葉が五~六ミリ幅の細切りにしてしまった。
「もぉ! 私がやるって言ったのにぃ!」
「とっ、年の瀬に怪我とかされたら病院やってないし大事だろっ」
むぅーっと口をとがらせながらも、私は「だったら」と気を取り直してめんつゆ作りに挑戦したのだけれど。
「お、おい。それ、火力が強すぎないかっ?」
グラグラ煮立つだし汁に、「こういうのは中火くらいでいいんだぞ?」と、大葉が私に湯気が当たらないようカバーしながら手を出してくる。
「もぉ!」
またしても大葉に手を出されてムムッと唇をとがらせたら、さすがに悪いと思ったのかな?
大葉が「すまん、つい……」と言ってスッと後ろに下がってくれた。
でも、大葉が掛けてくれていたふつふつと煮立った鍋に、「テイッ!」とそばを放り込もうとしたら「バカッ! 火傷しちまう!」と言われて、結局その辺りもほぼ大葉がやってしまって。
もうもうと湯気が立ち上る中で、茹で上がったそばを引き上げる作業に至っては、当然過保護な大葉がやらせてくれるはずがなかった。
「盛りつけだけは私がするんだから!」
あらかじめ〝大葉が〟揚げてくれていた海老天が入った容器を手にお箸を握ったら、「どうぞ」と……やっとそこだけは私に全部譲ってくれて。
(結局ほとんど大葉がやっちゃった……)
――今日ぐらいは私が作ってあげたかったのに。
そんなことを思いながら出来上がったおそばをすすったら、ほらね、大葉が監修してくれたから、いつも通りとっても美味しく仕上がってる。
「やっぱり大葉が作った料理は美味しいね……」
ちょっとだけしょぼんとしながら言ったら、
「そうか? 羽理と一緒に作ったから、いつもより数倍旨いと思うぞ?」
とか。
「……私、足引っ張るばっかりで……ほとんど何も出来てない……」
大葉の言葉が素直に受け入れられなくて。拗ねたようにうつむいたままボソッとつぶやいたら、「バーカ。ネギだって切ってくれたし、そばつゆの調味料だってお前が計ってくれたじゃねぇか。盛り付けも羽理がしただろ?」だって。
そっか。
いつもは全部全部大葉がやってたもんね。
大葉の言葉に、ちょっとだけ気持ちが上向いた私は、「来年は……もっともっと頑張るから。……料理、ちょっとずつでいいから教えてね?」と言ってみた。
「ああ、もちろんだ。羽理と台所に立つの、楽しいしな」
そんなことを言い合いながら……。
二人、ハフハフしながら年越しそばをすすっていたら、付けっぱなしにしていたテレビから「あけましておめでとうございます!」という声が聞こえてきた。
その声にふと手を止めたと同時。
すぐ横に座る大葉とパチッと目が合って。
「あけましておめでとうございます」
「あけおめ」
丁寧にあいさつをした私に、大葉は略式で返してきて。
そのことがおかしくてクスッと笑いながら、どちらからともなく距離を削って――。
年が明けて初めてのキスは、ちょっぴりネギの風味と海老天の香りがする、出汁の利いた和風味だった。
何だかおしゃれじゃなぁーい!って思いながら、そう言うのが逆に、私たちらしくていいかも?って思ったの……だなんて言ったら、大葉はどんな顔をするのかな?
二人で顔を見合わせて、新年初のキスの感想を述べあう前に、つい今し方まで眠っていたはずのキュウリちゃんが、ワン!っと吠えて、私たちの間に割り込んできた――。
今年も一年、よろしくお願いします!
END(2023/12/30)
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