【完結】月夜の約束

鷹槻れん

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城内

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 今いるエントランスホールは吹き抜けになっているのだが、屋敷全体が薄暗いため、見上げても上のほうはほとんど見えなかった。

 右手奥に見える螺旋らせん階段は、まるで闇に向かって伸びているようだ。

 外から見た印象では恐らく二階建てだと思うのだが、パティスの家よりはるかに高く感じられる天井には、これまた蝋燭を灯すタイプの豪奢ごうしゃなシャンデリアの姿が伺える。

 遠い高みにまるで消えかかった星が集まったように薄らぼんやりと浮かぶシャンデリアは、照明としての機能をあまり果たしていないように思われた。

 屋内の、薄明かりに目が慣れてきたパティスは段々周囲の様子が分かるようになってくる。

 それに伴い、キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回し始めたパティスを、ブレイズはしばらくの間、何も言わずに待っていてくれたらしい。

「そろそろいいか?」
 いつの間に手にしたのか、廊下の一角にあった燭台を捧げ持ち、パティスより少し先の廊下に佇んだブレイズから、そんな声がかかる。

 その声に、一気に頬に朱が差すパティス。
 余りにも不躾に屋敷内を眺め回していた自分が恥ずかしい。
「ご、ごめんなさい」
 消え入るような声で謝罪すると、ブレイズの元へと駆け寄った。

「どこへ向かってるの?」

 てっきりすぐそこの螺旋らせん階段を上がって応接室のようなところへ通されるのだろうと思っていたパティスは、そこを通り過ぎて更に奥へと進んでいくブレイズにそう問いかける。

「俺の部屋」
 そのセリフに一瞬ドキッとする。

 初対面なのにいきなり私室に行ってもいいものだろうか?

 真っ赤になってうつむくパティスに気付いたブレイズが、「そこしか片付けてねぇから」と言って苦笑する。

 ブレイズの前で大泣きをしてしまってからというもの、彼の、自分へ対する態度が変わってきたように感じるパティス。

 きっと出会ってすぐの頃のブレイズなら「バカ。何期待してんだよ?」と突っけんどんに言われていたはずだ。
 どこか角が取れたような印象のブレイズに、パティスは何だかソワソワする。

 「あの……」と呼びかけてはみたものの、「ん?」と問い返されると何と切り出したらよいものか分からなくて「何でもない」と返してしまう。

 そういえば、ブレイズだけでなく、自分も変わった気がする。

 相手に対するトゲが抜け落ちてしまったのは、何もブレイズだけではないのかも?

(お互いに素直になってる?)
 そういうことなのかも知れない。

 ブレイズの後を歩きながら、パティスはそう気付いて微苦笑した。
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