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告白
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「ブレイズさんはこの辺に住んでるの?」
滅多に人が通っていなさそうなあの小道をわざわざ選んで入ったのだ。きっと彼はその先の住人に違いない。
そう当たりをつけて問いかけると、ブレイズは一瞬困ったように眉根を寄せ、そうして諦めたような溜め息とともにうなずいた。
「ブレイズでいい。――お前、案外頭切れるのな」
案外、という余計な部分はこの際聞かなかったことにする。パティスには、どうしてこの青年が困惑したような表情を浮かべたのかというほうが重要に思えたからだ。
「もしかして……聞いちゃまずかった?」
「あ、いや、んなわけじゃ……」
ますます煮え切らないブレイズの態度に、野イチゴを運ぶ手が止まる。
そういえば彼、さっきからひとつも実を口にしていなかった。
「嫌いなの?」
「……?」
いきなり話題を変えてしまったので、ブレイズにはそれが何を指しての言葉だったのか伝わらなかったらしい。
「野イチゴ」
彼が手に載せた実を指差しながら言う。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、お腹が空いてない……?」
「いや、どっちかっちゅーと減ってるような……」
またもや煮え切らない返答。
先程までの小憎たらしい歯に衣着せぬ物言いとは明らかに違っているその態度に、パティスは彼が自分のことを聞かれるのが好きではないのかも、と思い至る。
「ごめんなさい、私ったら。聞かれたくないこと聞くのは大人じゃなかったね」
ペロリと舌を出して微笑むと、ひどく真剣な顔で見つめられた。
「……な、何――?」
ただ目が合っただけなのに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまう。
それを悟られたくなくてブレイズから視線をそらしてうつむくと、彼の手があごにかかった。そのまま顔を上向けられて、またもや目があってしまう。
パティスの眼前にあるのは吸い込まれそうなピジョンブラッドの双眸。
「俺が怖いか?」
そのまま見つめ続けていたらどうにかなってしまいそうで思わず視線をそらすと、どこか悲しそうな声で問いかけられた。
「え……?」
怖かったわけではない。
ただ、そのまま見つめているとブレイズにときめきを気付かれてしまいそうで恥ずかしかっただけ。それを隠したかっただけのパティスは、ブレイズの言葉の意味を掴み損ねてきょとんとする。
「……どうして?」
かろうじてそう問い返すと、彼はパティスの顔にかけた手を離して何も言わずに立ち上がった。
座った状態でブレイズを見上げる格好になってしまったパティスは、月光を背にして自分を見下ろす彼が、とても綺麗だと思った。
そうして同時に凄く寂しそうにも思えたのだ。
「ブレイズ?」
呼びかけると、彼はパティスから一歩遠ざかって己の足元を指し示した。
「?」
彼が何をしたいのか分からず戸惑うパティスに、今度は月を指差してみせる。
導かれるままにその両方を見たパティスは、彼の足元にあるべきはずの影がないことに気が付いた。
「……影……?」
パティスの口をついてでた言葉に、ブレイズは自分の言いたいことが伝わったことを知ったらしい。
自嘲気味に口の端を歪めると、
「俺は人間じゃない。ヴァンパイアだ」
パティスにとってもっとも理解し難い一言を口にした。
滅多に人が通っていなさそうなあの小道をわざわざ選んで入ったのだ。きっと彼はその先の住人に違いない。
そう当たりをつけて問いかけると、ブレイズは一瞬困ったように眉根を寄せ、そうして諦めたような溜め息とともにうなずいた。
「ブレイズでいい。――お前、案外頭切れるのな」
案外、という余計な部分はこの際聞かなかったことにする。パティスには、どうしてこの青年が困惑したような表情を浮かべたのかというほうが重要に思えたからだ。
「もしかして……聞いちゃまずかった?」
「あ、いや、んなわけじゃ……」
ますます煮え切らないブレイズの態度に、野イチゴを運ぶ手が止まる。
そういえば彼、さっきからひとつも実を口にしていなかった。
「嫌いなの?」
「……?」
いきなり話題を変えてしまったので、ブレイズにはそれが何を指しての言葉だったのか伝わらなかったらしい。
「野イチゴ」
彼が手に載せた実を指差しながら言う。
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、お腹が空いてない……?」
「いや、どっちかっちゅーと減ってるような……」
またもや煮え切らない返答。
先程までの小憎たらしい歯に衣着せぬ物言いとは明らかに違っているその態度に、パティスは彼が自分のことを聞かれるのが好きではないのかも、と思い至る。
「ごめんなさい、私ったら。聞かれたくないこと聞くのは大人じゃなかったね」
ペロリと舌を出して微笑むと、ひどく真剣な顔で見つめられた。
「……な、何――?」
ただ目が合っただけなのに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまう。
それを悟られたくなくてブレイズから視線をそらしてうつむくと、彼の手があごにかかった。そのまま顔を上向けられて、またもや目があってしまう。
パティスの眼前にあるのは吸い込まれそうなピジョンブラッドの双眸。
「俺が怖いか?」
そのまま見つめ続けていたらどうにかなってしまいそうで思わず視線をそらすと、どこか悲しそうな声で問いかけられた。
「え……?」
怖かったわけではない。
ただ、そのまま見つめているとブレイズにときめきを気付かれてしまいそうで恥ずかしかっただけ。それを隠したかっただけのパティスは、ブレイズの言葉の意味を掴み損ねてきょとんとする。
「……どうして?」
かろうじてそう問い返すと、彼はパティスの顔にかけた手を離して何も言わずに立ち上がった。
座った状態でブレイズを見上げる格好になってしまったパティスは、月光を背にして自分を見下ろす彼が、とても綺麗だと思った。
そうして同時に凄く寂しそうにも思えたのだ。
「ブレイズ?」
呼びかけると、彼はパティスから一歩遠ざかって己の足元を指し示した。
「?」
彼が何をしたいのか分からず戸惑うパティスに、今度は月を指差してみせる。
導かれるままにその両方を見たパティスは、彼の足元にあるべきはずの影がないことに気が付いた。
「……影……?」
パティスの口をついてでた言葉に、ブレイズは自分の言いたいことが伝わったことを知ったらしい。
自嘲気味に口の端を歪めると、
「俺は人間じゃない。ヴァンパイアだ」
パティスにとってもっとも理解し難い一言を口にした。
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