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告白
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野イチゴはほんの少し薄日が当たる、水気の多い場所に自生する。そういうところは冷んやりしているので蛇も好むのだとブレイズは言う。
そう聞かされたパティスは、もう蛇はうんざりだと彼の背後にしがみついた。ブレイズはそんな彼女に苦笑を浮かべはしたが、特に文句を言うわけでなく、先導してくれる。
毒蛇だと言ったくせに、彼自身はいっかな意に介した風もなく足で直接ガサガサと草を掻き分けながら進む。
その様に、内心おっかなびっくりのパティスである。
そういえばブレイズ、先ほども臆した様子なく草むらに手を突っ込んで蛇を掴み上げて見せたが、あのときもし噛まれていたらどうなっていたんだろう。考えただけでゾッとした。
見目麗しい外見に似合わない、粗野な言動が多いブレイズの背中を見つめながら、得体の知れない相手だなと感じるのと同時に、頼もしいなとも思ってしまう。
そんなゴチャ混ぜの気持ちを払拭するように、パティスは冷水で念入りに手と顔を洗ってさっぱりした。そんな彼女に、どこから取り出したのかブレイズがハンカチを投げて寄越す。
「有難う」
パティスもハンカチを持っていなかったわけではないが、せっかく差し出してくれたものを無下に断るのも悪い気がして、有難く使わせてもらう。
口は悪いが案外優しいこの男に、パティスは少しずつ心惹かれるものを感じ始めていた。
とはいえ、そうだとバレるのは何となく悔しいので、態度には現すまいと決意していたりもするのだが――。
淡い月光が降り注ぐ草むらに、ブレイズと二人並んで腰を下ろす。
しばらくそうして夜気に当たっていたら、火照った身体がだんだん冷えてきた。
ただ座っているには、初夏の夜はまだまだ寒い。
ここまでの道すがら汗をかいたのがいけなかったのか、ブルッと震えてほんのちょっぴり縮こまったパティスに、ブレイズが無言で自分の上着を着せかける。
その感触に驚いて彼を見やると、
「風邪ひかれちゃ迷惑だ」
そっぽを向いてそう言われた。まったく素直じゃない。
そんなブレイズを「可愛いな」なんて思ってしまって図らず笑みがこぼれるパティス。
でも、怒られそうなので今思ったことは内緒だ。
そんな自分を不審に思ったのか、気が付くとブレイズにじっと見つめられていた。
「な、何……?」
思っていることをすべて見透かされてしまいそうな彼の瞳に、パティスはドキドキしてしまう。
「腹、減ってたんだろ? 食わねぇのか?」
いつの間に摘んだのか、片手にこんもりと野イチゴを載せてブレイズが問うてくる。
他意はなさそうな彼の声音に、「何だ、そっちか……」と安堵した途端、お腹の虫が思い出したように騒ぎ出した。
「いただきます」
行儀よくそう告げて彼の手から野イチゴを数個もらって頬張ると、甘酸っぱさが口の中一杯に広がった――。
無言で野イチゴを食べ続け、お腹も少し落ち着きを取り戻してきたころ。
パティスは思い切って気になっていたことを聞いてみることにした。
そう聞かされたパティスは、もう蛇はうんざりだと彼の背後にしがみついた。ブレイズはそんな彼女に苦笑を浮かべはしたが、特に文句を言うわけでなく、先導してくれる。
毒蛇だと言ったくせに、彼自身はいっかな意に介した風もなく足で直接ガサガサと草を掻き分けながら進む。
その様に、内心おっかなびっくりのパティスである。
そういえばブレイズ、先ほども臆した様子なく草むらに手を突っ込んで蛇を掴み上げて見せたが、あのときもし噛まれていたらどうなっていたんだろう。考えただけでゾッとした。
見目麗しい外見に似合わない、粗野な言動が多いブレイズの背中を見つめながら、得体の知れない相手だなと感じるのと同時に、頼もしいなとも思ってしまう。
そんなゴチャ混ぜの気持ちを払拭するように、パティスは冷水で念入りに手と顔を洗ってさっぱりした。そんな彼女に、どこから取り出したのかブレイズがハンカチを投げて寄越す。
「有難う」
パティスもハンカチを持っていなかったわけではないが、せっかく差し出してくれたものを無下に断るのも悪い気がして、有難く使わせてもらう。
口は悪いが案外優しいこの男に、パティスは少しずつ心惹かれるものを感じ始めていた。
とはいえ、そうだとバレるのは何となく悔しいので、態度には現すまいと決意していたりもするのだが――。
淡い月光が降り注ぐ草むらに、ブレイズと二人並んで腰を下ろす。
しばらくそうして夜気に当たっていたら、火照った身体がだんだん冷えてきた。
ただ座っているには、初夏の夜はまだまだ寒い。
ここまでの道すがら汗をかいたのがいけなかったのか、ブルッと震えてほんのちょっぴり縮こまったパティスに、ブレイズが無言で自分の上着を着せかける。
その感触に驚いて彼を見やると、
「風邪ひかれちゃ迷惑だ」
そっぽを向いてそう言われた。まったく素直じゃない。
そんなブレイズを「可愛いな」なんて思ってしまって図らず笑みがこぼれるパティス。
でも、怒られそうなので今思ったことは内緒だ。
そんな自分を不審に思ったのか、気が付くとブレイズにじっと見つめられていた。
「な、何……?」
思っていることをすべて見透かされてしまいそうな彼の瞳に、パティスはドキドキしてしまう。
「腹、減ってたんだろ? 食わねぇのか?」
いつの間に摘んだのか、片手にこんもりと野イチゴを載せてブレイズが問うてくる。
他意はなさそうな彼の声音に、「何だ、そっちか……」と安堵した途端、お腹の虫が思い出したように騒ぎ出した。
「いただきます」
行儀よくそう告げて彼の手から野イチゴを数個もらって頬張ると、甘酸っぱさが口の中一杯に広がった――。
無言で野イチゴを食べ続け、お腹も少し落ち着きを取り戻してきたころ。
パティスは思い切って気になっていたことを聞いてみることにした。
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