【完結】月夜の約束

鷹槻れん

文字の大きさ
上 下
11 / 44
告白

1

しおりを挟む
 野イチゴはほんの少し薄日が当たる、水気の多い場所に自生する。そういうところは冷んやりしているので蛇も好むのだとブレイズは言う。

 そう聞かされたパティスは、もう蛇はうんざりだと彼の背後にしがみついた。ブレイズはそんな彼女に苦笑を浮かべはしたが、特に文句を言うわけでなく、先導してくれる。

 毒蛇だと言ったくせに、彼自身はいっかな意に介した風もなく足で直接ガサガサと草を掻き分けながら進む。

 その様に、内心おっかなびっくりのパティスである。

 そういえばブレイズ、先ほども臆した様子なく草むらに手を突っ込んで蛇を掴み上げて見せたが、あのときもし噛まれていたらどうなっていたんだろう。考えただけでゾッとした。

 見目麗しい外見に似合わない、粗野な言動が多いブレイズの背中を見つめながら、得体の知れない相手だなと感じるのと同時に、頼もしいなとも思ってしまう。

 そんなゴチャ混ぜの気持ちを払拭するように、パティスは冷水で念入りに手と顔を洗ってさっぱりした。そんな彼女に、どこから取り出したのかブレイズがハンカチを投げて寄越す。

「有難う」
 パティスもハンカチを持っていなかったわけではないが、せっかく差し出してくれたものを無下むげに断るのも悪い気がして、有難く使わせてもらう。

 口は悪いが案外優しいこの男に、パティスは少しずつ心惹かれるものを感じ始めていた。

 とはいえ、そうだとバレるのは何となく悔しいので、態度には現すまいと決意していたりもするのだが――。

 淡い月光が降り注ぐ草むらに、ブレイズと二人並んで腰を下ろす。

 しばらくそうして夜気に当たっていたら、火照った身体がだんだん冷えてきた。

 ただ座っているには、初夏の夜はまだまだ寒い。
 ここまでの道すがら汗をかいたのがいけなかったのか、ブルッと震えてほんのちょっぴり縮こまったパティスに、ブレイズが無言で自分の上着を着せかける。

 その感触に驚いて彼を見やると、
「風邪ひかれちゃ迷惑だ」
 そっぽを向いてそう言われた。まったく素直じゃない。

 そんなブレイズを「可愛いな」なんて思ってしまって図らず笑みがこぼれるパティス。
 でも、怒られそうなので今思ったことは内緒だ。

 そんな自分を不審に思ったのか、気が付くとブレイズにじっと見つめられていた。

「な、何……?」
 思っていることをすべて見透かされてしまいそうな彼の瞳に、パティスはドキドキしてしまう。

「腹、減ってたんだろ? 食わねぇのか?」
 いつの間に摘んだのか、片手にこんもりと野イチゴを載せてブレイズが問うてくる。

 他意はなさそうな彼の声音に、「何だ、そっちか……」と安堵した途端、お腹の虫が思い出したように騒ぎ出した。

「いただきます」
 行儀よくそう告げて彼の手から野イチゴを数個もらって頬張ると、甘酸っぱさが口の中一杯に広がった――。

 無言で野イチゴを食べ続け、お腹も少し落ち着きを取り戻してきたころ。
 パティスは思い切って気になっていたことを聞いてみることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...