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子供の虚勢

警鐘2

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「却下だ。んな必要はねぇ……」

 ああ、分かってる。完全に俺の負けだ。

 忠成ただなりに気付かれないように心の中で舌打ちすると、俺は勉強机に向き直った。

「まだ寝ないの?」
 21時過ぎから寝ようとしていることのほうが、俺には驚きだ。

 その面差しや立ち居振る舞いにまだまだ子供っぽさを残した幼馴染みは、中身も見たままお子様なのだ。

「もう少し勉強する。気にしなくていいから先に寝てろ」

 本当は、忠成の傍に寄るのが怖いだけだ。

 でも、この幼い友人にそんな下心なんて分かりゃしないだろう。

 忠成に背を向けていることで、俺は躊躇ためらいなく苦笑の表情を浮かべられた。

秋連あきつら、頭いいのに本当頑張るよな。俺なんかまだ課題帳開いてもないのに」

 そりゃあ、毎日部活に追われていれば無理もないだろう。その上寝るのがこんなに早いのだ。

(この調子じゃ、今年もきっと夏休みが残り数日になったころ泣き付いてくるな)

 毎年恒例の行事を思い出して、俺の顔は自然ほころんだ。

 小学生のころ、馬鹿正直に俺のやったものを正確に写した忠成は、ズルがバレて担任にこっぴどく叱られた。
 忠成が、夏休み帳を全問正解するなんて、誰の目にもおかしく見えたからだ。
 当然見せたのが俺だというのもすぐに分かって、とばっちりを食らったのを覚えている。

 それからは、適当に間違いを含ませて写すことを覚えた忠成。
 その労力を、別の部分に使ったらもっと伸びるはずなんだけどな。

 そこまで考えて、しかし、忠成が自分で何もかもできるようになったなら、それはそれで寂しいような気もすると思い直してしまう。

 自分は忠成を守れる男に成長したいと願う一方で、当の幼馴染みには変わって欲しくないと望む自分勝手な感情に気付いて、俺はまたもや自己嫌悪に陥った。

「秋連……?」
 相槌あいづちすら打たない俺を不審に思ったのだろう。忠成が恐る恐る声をかけてきた。

「……あ、ああ……すまん。ちょい考え事してた」

 今振り向くのはまずい。

 背を向けたまま応じると、
「今年も多分お願いすることになると思うんだけど……」

 躊躇ためらいがちに問う声がした。

「ああ。こっちもそのつもりだから安心しろ」

 俺がそう返すと、背後から安堵あんどしたような吐息が聞こえてくる。

「ね、俺、本当に先に寝ちゃってもいいの?」

 安心したら睡魔が襲ってきたんだろう。

 その声が、眠気を多分に含んでいることを感じ取った俺は、それでも俺を気遣う忠成に、思わず嬉しくなってしまう。

(やっぱり忠成は可愛い)

 ヤバイ感情だと思いはするけれど、俺は今はっきりとそう、自覚した。
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