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■『こうして今日も、あなたの甘い罠にほだされる』■気まぐれ短編
甘い罠
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「今日は暑かったからかなぁ。リュックのせいで背中、蒸れちゃったみたい」
――何だかちょっぴり痒いの。
恥ずかしそうにそう付け加えた葵咲に、理人が血相を変えて駆け寄る。
「見せて」
言うが早いか、葵咲の着ていたTシャツをガバリと捲り上げて。
期せずして玄関扉に押し付けられる格好になった葵咲が、真っ赤な顔をして抗議の声を上げたのも当然だ。
「や、やだっ、理人っ。ここ玄関っ」
押さえつけられたまま、たくし上げられたTシャツを下げようと引っ張ったけれど、理人の力に敵うはずがない。
少し汗ばんだ背中を玄関先で理人にまじまじと見つめられてしまった葵咲は、物凄く恥ずかしくなった。
壁に押し付けられた格好のまま、涙目で理人を振り返ったら、「赤くなってる」と肌に吐息の掛かる距離でつぶやかれた。
次いで生温かく柔らかな感触が背中に押し当てられたのを感じた葵咲は、思わず「んっ」とどこか艶めいた声を漏らしていた。
「理人、何して――」
未だ押し当てられたままのその温もりに、必死に背後を振り返れば、理人が葵咲の背中に唇を寄せていた。
「僕のキスでキミの痒いの、全部吸い取れたらいいのに」
ポツンとつぶやかれた言葉に、葵咲はほぅっと溜め息をひとつ。
「私から吸い取った痒いので、理人の唇が腫れても知らないんだから」
ギュッとTシャツのすそを引いて背中を隠すと、背後に立ち尽くしたままの理人を振り返って唇を尖らせる。
「僕はそれでも構わ――」
「私が構うの! 理人が私を心配してくれるように、私も理人が心配なのよ? それにね――」
構わないと言おうとしたであろう理人を制するように言葉を被せると、葵咲は理人を振り仰いだ。
「もしそんなことになったら……」
――キスしにくくなっちゃう。
言外にそんな言葉を乗せて、葵咲が理人を見つめる。
「葵咲……」
そんな葵咲をギュッと腕の中に抱きしめると、理人は彼女の耳元で低く甘く囁いた。
「じゃあさ、今から一緒にお風呂入ろうよ」
――そうして、お風呂上がりには、キミの肌を念入りに薬でケアしよう。
「あ、あの、理人。わ、私ね、ひ、ひとりで――」
葵咲が真っ赤な顔で言おうとしたら、理人が彼女を抱く腕を緩めて戸惑いに揺れる恋人の顔を真正面から覗き込んだ。
「僕も汗かいてるし、早く流さないと痒くなりそうなんだけどな?」
さっき、理人が痒くなるのは嫌だと意思表示をしてしまった葵咲は――。
そうして自分も背中が痒いのだとバレてしまった葵咲は――。
理人の提案を受けるしかない。
子犬みたいに眉根を寄せる理人を見上げて、葵咲は今日も彼の甘い罠に絆される。
END(2021/09/10)
――何だかちょっぴり痒いの。
恥ずかしそうにそう付け加えた葵咲に、理人が血相を変えて駆け寄る。
「見せて」
言うが早いか、葵咲の着ていたTシャツをガバリと捲り上げて。
期せずして玄関扉に押し付けられる格好になった葵咲が、真っ赤な顔をして抗議の声を上げたのも当然だ。
「や、やだっ、理人っ。ここ玄関っ」
押さえつけられたまま、たくし上げられたTシャツを下げようと引っ張ったけれど、理人の力に敵うはずがない。
少し汗ばんだ背中を玄関先で理人にまじまじと見つめられてしまった葵咲は、物凄く恥ずかしくなった。
壁に押し付けられた格好のまま、涙目で理人を振り返ったら、「赤くなってる」と肌に吐息の掛かる距離でつぶやかれた。
次いで生温かく柔らかな感触が背中に押し当てられたのを感じた葵咲は、思わず「んっ」とどこか艶めいた声を漏らしていた。
「理人、何して――」
未だ押し当てられたままのその温もりに、必死に背後を振り返れば、理人が葵咲の背中に唇を寄せていた。
「僕のキスでキミの痒いの、全部吸い取れたらいいのに」
ポツンとつぶやかれた言葉に、葵咲はほぅっと溜め息をひとつ。
「私から吸い取った痒いので、理人の唇が腫れても知らないんだから」
ギュッとTシャツのすそを引いて背中を隠すと、背後に立ち尽くしたままの理人を振り返って唇を尖らせる。
「僕はそれでも構わ――」
「私が構うの! 理人が私を心配してくれるように、私も理人が心配なのよ? それにね――」
構わないと言おうとしたであろう理人を制するように言葉を被せると、葵咲は理人を振り仰いだ。
「もしそんなことになったら……」
――キスしにくくなっちゃう。
言外にそんな言葉を乗せて、葵咲が理人を見つめる。
「葵咲……」
そんな葵咲をギュッと腕の中に抱きしめると、理人は彼女の耳元で低く甘く囁いた。
「じゃあさ、今から一緒にお風呂入ろうよ」
――そうして、お風呂上がりには、キミの肌を念入りに薬でケアしよう。
「あ、あの、理人。わ、私ね、ひ、ひとりで――」
葵咲が真っ赤な顔で言おうとしたら、理人が彼女を抱く腕を緩めて戸惑いに揺れる恋人の顔を真正面から覗き込んだ。
「僕も汗かいてるし、早く流さないと痒くなりそうなんだけどな?」
さっき、理人が痒くなるのは嫌だと意思表示をしてしまった葵咲は――。
そうして自分も背中が痒いのだとバレてしまった葵咲は――。
理人の提案を受けるしかない。
子犬みたいに眉根を寄せる理人を見上げて、葵咲は今日も彼の甘い罠に絆される。
END(2021/09/10)
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