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■『キミとコスモスとボク』■オマケ的短編11
僕以外に夢中にならないで?
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***
「理人! 蕾がっ」
ベランダにコスモスの種を植え付けて以来、毎朝の日課になっている鉢の様子チェックをするなり、葵咲が嬉しそうにリビングに顔を覗かせる。
初めて芽が出たとき。
いくつか芽吹いたものを、発育が良いものひとつだけ残して間引いたとき。
残した1本に本葉が出てきたとき。
何か変化があるたび、葵咲は嬉しそうに理人に報告をしてくれた。
理人だって窓辺に立つたび、葵咲が大事に育てているコスモスの様子を見守ることが日課にはなっていたけれど、自分からは極力気にしている素振りを葵咲には見せなかった。
それは葵咲がコスモスの世話などに関して、理人には手出しをして欲しくないと言うオーラを醸し出していたからに他ならない。
そんなこんなで、何だか鉢植えに夢中の葵咲を見ていたら、ちょっぴり手塩にかけられたコスモスが憎らしくすら思えてしまって。
そんなコスモスのことを、何だかんだ言いながらも気遣っているだなんて、口が裂けても認めたくなかったのだ。
***
理人はコーヒーメーカーのスイッチを入れながら、そんな葵咲の声にのんびりと顔を向ける。
リビングに数歩分入ったところで手招きしてきた葵咲に誘われるように、理人はベランダの方へ向かった。
開けっ放しの窓から吹き込んだ風がひらりとレースのカーテンを翻らせて、差し込んだ陽光に、葵咲の姿が後光を帯びる。
葵咲の艶やかな黒髪が、緑がかった虹色にきらりと輝いたのが見えて、
「綺麗だね……」
思わずそうつぶやいたら、葵咲がキョトンとした。
「ん? まだ花は咲いてないよ?」
例え花が咲いていたとしたって、理人にとっていつだって1番美しいのは葵咲に他ならないのに。
分かってないなぁ。
内心そんなふうに思った理人である。
「あっ! そういえば」
葵咲は全くそれに気づいた様子もなくポンッと手を打つと、
「コスモスの語源ってね、ギリシア語の〝美しい〟からきてるんだってお母さんが……。ねぇ理人、もしかしてそれ、知ってたの?」
先のつぶやきの対象が、まるで自分のことだなんて思い至っていなさそうな物言いに、理人は思わず苦笑する。
「葵咲、おいで」
窓辺に立つ葵咲のすぐそばで、理人はそっと両腕を広げてフィアンセを誘った。
「――理人?」
そんな理人を怪訝そうな顔で見上げながらも、葵咲が開いた腕の中に入ってきてくれて、理人は彼女の華奢な身体を宝物みたいに抱きしめる。
「ねぇ葵咲。お願いだから僕以外にあんまり夢中にならないで?」
そっと耳元でささやけば、葵咲がくすぐったそうに小さく身じろぎをした。
「でないと、キミが大事にしているコスモス、鉢から引っこ抜いてしまいたい衝動に駆られて怖いんだけど」
吐息まじりにやや低めた声音でそう言ったら、葵咲が息を呑んだのが分かった。
「理人! 蕾がっ」
ベランダにコスモスの種を植え付けて以来、毎朝の日課になっている鉢の様子チェックをするなり、葵咲が嬉しそうにリビングに顔を覗かせる。
初めて芽が出たとき。
いくつか芽吹いたものを、発育が良いものひとつだけ残して間引いたとき。
残した1本に本葉が出てきたとき。
何か変化があるたび、葵咲は嬉しそうに理人に報告をしてくれた。
理人だって窓辺に立つたび、葵咲が大事に育てているコスモスの様子を見守ることが日課にはなっていたけれど、自分からは極力気にしている素振りを葵咲には見せなかった。
それは葵咲がコスモスの世話などに関して、理人には手出しをして欲しくないと言うオーラを醸し出していたからに他ならない。
そんなこんなで、何だか鉢植えに夢中の葵咲を見ていたら、ちょっぴり手塩にかけられたコスモスが憎らしくすら思えてしまって。
そんなコスモスのことを、何だかんだ言いながらも気遣っているだなんて、口が裂けても認めたくなかったのだ。
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理人はコーヒーメーカーのスイッチを入れながら、そんな葵咲の声にのんびりと顔を向ける。
リビングに数歩分入ったところで手招きしてきた葵咲に誘われるように、理人はベランダの方へ向かった。
開けっ放しの窓から吹き込んだ風がひらりとレースのカーテンを翻らせて、差し込んだ陽光に、葵咲の姿が後光を帯びる。
葵咲の艶やかな黒髪が、緑がかった虹色にきらりと輝いたのが見えて、
「綺麗だね……」
思わずそうつぶやいたら、葵咲がキョトンとした。
「ん? まだ花は咲いてないよ?」
例え花が咲いていたとしたって、理人にとっていつだって1番美しいのは葵咲に他ならないのに。
分かってないなぁ。
内心そんなふうに思った理人である。
「あっ! そういえば」
葵咲は全くそれに気づいた様子もなくポンッと手を打つと、
「コスモスの語源ってね、ギリシア語の〝美しい〟からきてるんだってお母さんが……。ねぇ理人、もしかしてそれ、知ってたの?」
先のつぶやきの対象が、まるで自分のことだなんて思い至っていなさそうな物言いに、理人は思わず苦笑する。
「葵咲、おいで」
窓辺に立つ葵咲のすぐそばで、理人はそっと両腕を広げてフィアンセを誘った。
「――理人?」
そんな理人を怪訝そうな顔で見上げながらも、葵咲が開いた腕の中に入ってきてくれて、理人は彼女の華奢な身体を宝物みたいに抱きしめる。
「ねぇ葵咲。お願いだから僕以外にあんまり夢中にならないで?」
そっと耳元でささやけば、葵咲がくすぐったそうに小さく身じろぎをした。
「でないと、キミが大事にしているコスモス、鉢から引っこ抜いてしまいたい衝動に駆られて怖いんだけど」
吐息まじりにやや低めた声音でそう言ったら、葵咲が息を呑んだのが分かった。
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