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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
会食5
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***
「ききちゃん、池本さん、こっちなのですっ」
お店に入ると、姫カットのかぐや姫が奥の方の席から立ち上がって手を振るのが見えた。
こぢんまりとした店内だけど、週の半ばにも関わらず10卓程度あるテーブル席も、6人が並んで座れるカウンター席も、ほぼ埋まっていた。
「すみません。とりあえず先に始めてました」
修太郎氏がそう言って頭を下げてくるのへ、僕は「全然構わないですよ。寧ろそうしてもらえてて助かりました」と答える。
塚田夫妻は壁の方を向く形で横並びに座っていて、必然的に僕たちは店内の方を向く形で並んで座ることになった。
僕の前には修太郎氏、葵咲ちゃんの前にはかぐや姫。
「ここはレバー料理がおすすめなんですよ」
僕らにメニューを渡してくれながら、修太郎氏が言う。
「ききちゃん、今日もいっぱい飲みましょう! 修太郎さんが一緒なので、私も遠慮なく飲めるのですっ」
葵咲ちゃんの方へ身を乗り出すようにしてかぐや姫がニコッと笑う。
今日も、ってことは2人は昨日も飲んだってことかな。
とりあえず最初は生かな……とか思いながら、そんな2人を観察する。
「日織、飲んでも構いませんが、羽目を外しすぎるのはなしですよ?」
さすが年の差夫婦という感じかな。
はしゃぐ奥さんにチクリと釘を刺すと、修太郎氏が僕に視線を転じてきた。
「――過保護でお恥ずかしい」
よくそう評されているんだろう。言い訳めいたことを言う修太郎氏に、僕は親近感を覚える。
「いや、僕も似たようなものなのでお気持ち、お察しします」
そこまで言ってから、
「奥様のこと、さん付けの時と呼び捨ての時があるのって……意図的に使い分けておられます?」
キャーキャー言いながら2人でメインメニューを見合っている女性陣に聞こえないよう手にした期間限定メニューで衝立を作って、小声で問いかけてみた。
修太郎氏は僕のセリフに驚いたように瞳を見開くと、「わ、わかりますか?」とつぶやいた。
僕はその言葉にニヤリとする。
「実はちょっとうらやましいな、って思ってました。僕なんて心の中ではずっと彼女のこと、ちゃん付けなんですけど……声に出す時は虚勢はって呼び捨てにしています」
こんなこと、今まで誰にも――それこそ葵咲ちゃん本人にだって――言ったことない。
でも、修太郎氏になら話しても理解してもらえるかな?とか思ってしまって。
葵咲ちゃんとの間に小さな溝が出来ているからだろうか。
僕は日頃なら絶対に葵咲ちゃんにベッタリだろうに、珍しく眼前の彼と話してみたくなった。
僕と似ている気がする修太郎氏だけど、きっと葵咲ちゃんはかぐや姫と話していて、修太郎氏の中に、僕とは違う何かを見出したんだ。
修太郎氏と話せば、葵咲ちゃんが抱えている悩みの糸口が見えるかもしれない。
そう思ったりもして。
「ききちゃん、池本さん、こっちなのですっ」
お店に入ると、姫カットのかぐや姫が奥の方の席から立ち上がって手を振るのが見えた。
こぢんまりとした店内だけど、週の半ばにも関わらず10卓程度あるテーブル席も、6人が並んで座れるカウンター席も、ほぼ埋まっていた。
「すみません。とりあえず先に始めてました」
修太郎氏がそう言って頭を下げてくるのへ、僕は「全然構わないですよ。寧ろそうしてもらえてて助かりました」と答える。
塚田夫妻は壁の方を向く形で横並びに座っていて、必然的に僕たちは店内の方を向く形で並んで座ることになった。
僕の前には修太郎氏、葵咲ちゃんの前にはかぐや姫。
「ここはレバー料理がおすすめなんですよ」
僕らにメニューを渡してくれながら、修太郎氏が言う。
「ききちゃん、今日もいっぱい飲みましょう! 修太郎さんが一緒なので、私も遠慮なく飲めるのですっ」
葵咲ちゃんの方へ身を乗り出すようにしてかぐや姫がニコッと笑う。
今日も、ってことは2人は昨日も飲んだってことかな。
とりあえず最初は生かな……とか思いながら、そんな2人を観察する。
「日織、飲んでも構いませんが、羽目を外しすぎるのはなしですよ?」
さすが年の差夫婦という感じかな。
はしゃぐ奥さんにチクリと釘を刺すと、修太郎氏が僕に視線を転じてきた。
「――過保護でお恥ずかしい」
よくそう評されているんだろう。言い訳めいたことを言う修太郎氏に、僕は親近感を覚える。
「いや、僕も似たようなものなのでお気持ち、お察しします」
そこまで言ってから、
「奥様のこと、さん付けの時と呼び捨ての時があるのって……意図的に使い分けておられます?」
キャーキャー言いながら2人でメインメニューを見合っている女性陣に聞こえないよう手にした期間限定メニューで衝立を作って、小声で問いかけてみた。
修太郎氏は僕のセリフに驚いたように瞳を見開くと、「わ、わかりますか?」とつぶやいた。
僕はその言葉にニヤリとする。
「実はちょっとうらやましいな、って思ってました。僕なんて心の中ではずっと彼女のこと、ちゃん付けなんですけど……声に出す時は虚勢はって呼び捨てにしています」
こんなこと、今まで誰にも――それこそ葵咲ちゃん本人にだって――言ったことない。
でも、修太郎氏になら話しても理解してもらえるかな?とか思ってしまって。
葵咲ちゃんとの間に小さな溝が出来ているからだろうか。
僕は日頃なら絶対に葵咲ちゃんにベッタリだろうに、珍しく眼前の彼と話してみたくなった。
僕と似ている気がする修太郎氏だけど、きっと葵咲ちゃんはかぐや姫と話していて、修太郎氏の中に、僕とは違う何かを見出したんだ。
修太郎氏と話せば、葵咲ちゃんが抱えている悩みの糸口が見えるかもしれない。
そう思ったりもして。
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