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■僕惚れ②『温泉へ行こう!』

理人の想い6

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 いきなりの理人りひとの行動に、私は戸惑いを隠せない。
「……理人?」

 恐る恐る呼びかけると、彼が私の左手を取って見上げてきた。

葵咲きさき、僕とずっと一緒にいてくれますか?」

 真剣な顔をしてそう問いかけられて、私の心臓は早鐘はやがねのように鼓動こどうを刻んだ。

 まるでお姫様にでもしてもらったような夢見心地で理人を見つめ返すと、私は彼に手を握られたまま、半ばうっとりと「もちろんです」と答えていた。

 二人して敬語になってしまっているのが何だか不思議で……。その非日常な雰囲気が、ドキドキの根源になる……。

 と――。

 理人が、手にしていた白い箱を私の前に差し出した。


 ふたが開けられたその中には、銀色の丸いものがふたつ並んでいて。

「――え?」
 それは、まぎれもなくペアリングだった。

ひと……?」
 彼はいつの間にこれを用意したんだろう? 私が指輪をしたいと提案したのは、ついさっきのことなのに。

 そこまで考えて、私はハッとする。

「理人、もしかして……ずっと……?」

 彼は私が言いだすよりも、もっとずっと前から、ペアリングをしたい、と願ってくれていたのかも知れない。
 でも、言い出す機会が見極められなくて戸惑っていたのかも――?

 あーん、私のバカ…。
 もう少し待っていたら、彼から言ってくれたかもしれなかったのに。

「葵咲、まさかキミが僕と同じように思ってくれてるなんて思わなかったから……正直すごく驚いたよ。僕は……キミと付き合い始めてからずっと……葵咲を僕の彼女だってみんなに知らしめたくてたまらなかった……。でも付き合い始めたばかりでそんなこと言ったら気持ち悪がられるかなって思ったら……なかなか言えなかったんだ」

 意気地なしでごめん。
 理人はそう言って、私の手を握る力を少しだけ強くした。

 私は、理人の、そういう押しが強いくせにどこか臆病なところも大好きで。
 でも、彼はそのことに気付いてもいないんだろうな。

 私は理人をじっと見つめると、「そういうところも全部ひっくるめて、私は理人が大好きだよ」って、視線に込める。

 さっき、理人が私に「好きだ」って気持ちを述べるのは自分の番だから言っちゃダメって言ったから。

 私の気持ち、理人に届くかな?

 そう思いながら彼を見つめていたら……。
「こんな僕だけど……葵咲を大好きな気持ちだけは誰にも負けないつもりだよ」
 そう、理人に言われて、私はなんだか気持ちが通じたみたいで嬉しくなる。

 私は、半ば夢見心地でうっとりと彼を見つめた。

 ――と、そんな私の指に、理人が指輪をそっとめてくれる。

 いつの間にサイズを測ったのかな、と思ってしまうくらい指輪は私の左手薬指にぴったりで。

 私は彼に付けてもらったばかりの指輪がとても嬉しくて――。
 嬉しすぎて、気が付いたらポロポロと涙を落としながら泣いてしまっていた。

「えっ、ちょっ、葵咲っ!?」
 途端立ち上がって、オロオロと私を抱きしめてくる理人。

 私は涙をぬぐいもしないで彼をじっと見上げると、
「すごく……嬉しいの……」
 泣き顔のまま、彼ににこりと微笑みかけた。
 
 しばらくの間、私は気持ちのたかぶりがおさえられなくて、理人の腕の中ではらはらと涙を落とし続けた。

 彼は、そんな私の頭を何も言わずにずっと撫で続けてくれて――。

「理人、私も……」
 ややして少し気持ちが落ち着いた私は、涙を拭って、理人からもう1つのリングを受け取ると――。
 彼の、左手の薬指にめた。

 それはすごく、すごく、ドキドキして幸せな瞬間で――。

 二人で指環をした指を見せ合って、自然と笑顔になる。

 たったこれだけの輪っかで、なんて幸せな気持ちになれるんだろう。

 理人がくれた、理人とお揃いの指輪だから……。
 それが、私にとってものすごく大きな意味を持つんだと、どうやったら理人に伝えられるかな?

 私は、無意識に指輪と理人を交互に見比べた。

 こんなにも幸せな気持ちにしてくれる理人に、私は何を返してあげられるだろう?

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