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つべこべ言わずに僕に惚れろよ

僕のことどう思ってる?

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 僕の言葉を聞いて、葵咲きさきちゃんが真っ赤な顔をして固まってしまったのが分かった。
 その反応を存分に楽しんでから、僕は彼女の言葉を待たずにスッと身を引いた。

「……とりあえず出ようか?」
 珈琲も紅茶も飲み終えているし。
 まるで今告げた言葉なんてなかったかのように……。僕は伝票を手に席を立つ。
「葵咲、行くよ」
 固まったように動けずにいる葵咲ちゃんの肩にそっと手を置くと、彼女は弾かれたようにビクッと肩を震わせた。
 そうして恐る恐る僕を見上げてから、僕が何もなかったように微笑みかけるのを見て、慌てて荷物を手に立ち上がる。

 会計のとき、律儀に財布を出そうとするのへ、「たまには格好つけさせて」と制してから支払いを済ませると、僕は当然の権利のように葵咲ちゃんの手を握って、駐車場へ出た。
 

「さ、乗って」
 大学でもそうしたように彼女を助手席に乗せた後で、自分も運転席に回りこんで、シートに腰掛ける。
 さすがにこのままだと暑いので、アイドリングストップ機能をオフにしてからエンジンをかける。
 真っ暗な車内は少し湿度をはらんだ熱気に包まれていて……そこに葵咲ちゃんの香りがほんのりと混ざっていた。
 僕だけの時には決して香らない微香。
 その芳香が、エアコンの風に煽られて車内に拡散されていく。
 目には見えないけれど、匂いというのはとてもエロティックだと僕は思う。

 駐車場は二十一時を回ったこともあってか、車の出入りも殆どなく、割と閑散としていた。
 もちろん、まったく出入りがないわけではないだろうから、それなりに注意は必要なんだけど。


「ねぇ葵咲、僕の気持ちは知ってるよね?」
 すぐには車を出さないで、ひとまずドアにロックをかけてから、僕は葵咲ちゃんの横顔に向かって問いかけた。 
 もう何年も、僕はずっと彼女に嫌というほど気持ちをぶつけ続けてきたのだ。知らないわけがない。
 なのに――。
「し、知らない……」
 このに及んでそんなこと、どの口が言うんだろうね?
「それは照れ隠し? けど……ちょっと酷いんじゃない?」
 助手席に座る葵咲ちゃんの手に自分の手を重ねると、わざと耳元でささやくようにそう畳みかける。
 葵咲ちゃんは僕の問いにうつむいたまま。手を握られていて逃げられないからか、ほんの少し身体を強張らせていた。
 僕はそれに気付いていて、でも彼女を解放してあげる気なんてさらさらないのだ。
「葵咲、こっち向けよ」
 彼女の頬に手を伸ばすと、ほんの少し力を加えて自分のほうを向かせる。
 そうして葵咲ちゃんの目を正面から見つめながら、僕は言葉を続けた。
「知らないって言うんなら何度でも言ってやる。葵咲、僕は君が好きだ。葵咲は……僕のこと、どう思ってる?」

 正直最後の一文は言うのが凄く怖かった。
 なのに――。
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