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葵咲の記憶
メガネ
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一通り話し終えると、葵咲ちゃんは小さな声で「分かった……」と言ってくれた。
特に僕自身が彼女らを採用したわけではないというのが一番気になったようで、そのくだりを話しているときには、「彼女たちのことは本当に先代の館長さんが選んだのね?」と一回だけ念押しされてしまった。
葵咲ちゃんの反応を見て、僕は内心さっき彼女が大学構内で言った、「アリアの店員はみんなかっこいい」発言についても言及したかったんだけど……ここの店員のクオリティの高さを目の当たりにした現状では何となく聞きづらくて。
それで、かな。僕は注文したアラビアータの味を殆ど感じないままに食事を終える羽目になってしまったのだ。ピザを頼んでいなくてある意味正解だったな、と思う。
結局、僕が一方的に話して、葵咲ちゃんはそれに少し質問を挟むだけ。そんな感じで余り会話らしい会話をせずにご飯を食べ終えてしまった気がする。もしかしたら僕同様、彼女も味なんて殆ど感じなかったんじゃないかな?とか思ったりしたけれど、それは都合が良すぎる解釈かな。
そして今――。
僕たちの前には各々紅茶と珈琲が置かれている。
店内は程よく空調が効いていて、ともすると冷んやり感じるくらいだったから、2人ともホットを頼んだ。
さて、飲み物が運ばれてきた、ここからが僕にとっては本題だ。
そう思って、気持ちを落ち着けるためにカップから立ち昇る湯気を眺めていたら、不意に睡魔が降りてきた。
このところの連日の重労働が堪えているのかもしれない。
僕は葵咲ちゃんに見えない角度でそっと欠伸を噛み殺すと、何気なく眼鏡を外してテーブルの上に置いた。
普段コンタクトだからか、眼鏡はやはり疲れる。パッドが触れる鼻のあたりに跡が付くのも実は苦手で、それを和らげるつもりで眉間から鼻筋にかけてのラインを軽く揉みほぐした。
「……理人?」
と、それに気づいた葵咲ちゃんが、心配そうに声をかけてくる。
「退院してからすぐにお仕事始めちゃったみたいだけど……ちゃんと休めてるの? 睡眠時間、足りてないんじゃない? ……って、まさか、熱とかないよね?」
言いながら、ほんの少し身を乗り出して、子どもの頃にしていた感じで何の躊躇いもなく僕の額に手を伸ばしてくる。
眼鏡をはずした途端、彼女の態度が急変して、ともするととても積極的にさえなったことに、僕は軽く驚かされた。
(そこまでかっ!)
眼鏡の結界の力、いくら何でも半端なさ過ぎるだろ。そんなに気になるって葵咲ちゃん、どんだけ意識してるんだよ……。
裸眼なので、視力こそ確保できなくてぼんやりしか見えないけれど、葵咲ちゃんの顔が間近に迫るのを感じて、何となく嬉しくなる。
今日図書館前まで迎えに行ってから、ずっと彼女がよそよそしかった事を鑑《かんが》みるに、これはこれでありだな、とか思ってしまう。
特に僕自身が彼女らを採用したわけではないというのが一番気になったようで、そのくだりを話しているときには、「彼女たちのことは本当に先代の館長さんが選んだのね?」と一回だけ念押しされてしまった。
葵咲ちゃんの反応を見て、僕は内心さっき彼女が大学構内で言った、「アリアの店員はみんなかっこいい」発言についても言及したかったんだけど……ここの店員のクオリティの高さを目の当たりにした現状では何となく聞きづらくて。
それで、かな。僕は注文したアラビアータの味を殆ど感じないままに食事を終える羽目になってしまったのだ。ピザを頼んでいなくてある意味正解だったな、と思う。
結局、僕が一方的に話して、葵咲ちゃんはそれに少し質問を挟むだけ。そんな感じで余り会話らしい会話をせずにご飯を食べ終えてしまった気がする。もしかしたら僕同様、彼女も味なんて殆ど感じなかったんじゃないかな?とか思ったりしたけれど、それは都合が良すぎる解釈かな。
そして今――。
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店内は程よく空調が効いていて、ともすると冷んやり感じるくらいだったから、2人ともホットを頼んだ。
さて、飲み物が運ばれてきた、ここからが僕にとっては本題だ。
そう思って、気持ちを落ち着けるためにカップから立ち昇る湯気を眺めていたら、不意に睡魔が降りてきた。
このところの連日の重労働が堪えているのかもしれない。
僕は葵咲ちゃんに見えない角度でそっと欠伸を噛み殺すと、何気なく眼鏡を外してテーブルの上に置いた。
普段コンタクトだからか、眼鏡はやはり疲れる。パッドが触れる鼻のあたりに跡が付くのも実は苦手で、それを和らげるつもりで眉間から鼻筋にかけてのラインを軽く揉みほぐした。
「……理人?」
と、それに気づいた葵咲ちゃんが、心配そうに声をかけてくる。
「退院してからすぐにお仕事始めちゃったみたいだけど……ちゃんと休めてるの? 睡眠時間、足りてないんじゃない? ……って、まさか、熱とかないよね?」
言いながら、ほんの少し身を乗り出して、子どもの頃にしていた感じで何の躊躇いもなく僕の額に手を伸ばしてくる。
眼鏡をはずした途端、彼女の態度が急変して、ともするととても積極的にさえなったことに、僕は軽く驚かされた。
(そこまでかっ!)
眼鏡の結界の力、いくら何でも半端なさ過ぎるだろ。そんなに気になるって葵咲ちゃん、どんだけ意識してるんだよ……。
裸眼なので、視力こそ確保できなくてぼんやりしか見えないけれど、葵咲ちゃんの顔が間近に迫るのを感じて、何となく嬉しくなる。
今日図書館前まで迎えに行ってから、ずっと彼女がよそよそしかった事を鑑《かんが》みるに、これはこれでありだな、とか思ってしまう。
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