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嫉妬心は誰のもの?

実は割と好きだろ?

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 迎えを切り出した僕に、あろうことか彼女は大学にいると言った。それも、比較的人通りのある本館ではなく、図書館前にいるのだ、と――。

 館内の電気は消えて、頼りない門灯1つの薄暗い図書館前に彼女が一人でいるのだと思うと、僕は居ても立ってもいられなくなった。
 構内の食堂かカフェに移動してくれたら……と思ったけれど、この時間ではさすがに閉まっているだろう。

 僕は取るものもとりあえず、車に乗り込んだ。

 今日ほど大学の敷地の広さを呪ったことはない。
 図書館に一番近いところにある駐車場に車を停めて、そこから全速力で走ったけれど、なかなか目的地にたどり着けなくて、気持ちばかりが焦った。
 いつもなら職場までの距離を、こんなに遠いとは感じないのに。


 図書館前の、小さな門灯の下に、彼女は一人佇んでいた。

「――ッ、葵咲きさき!」

 幸い構内に転々と設けられた外灯のおかげで、僕が想像したほど暗くはなかったけれど、それでもこんな薄暗いところに彼女が一人でいたことに、今更ながらゾッとする。
 白のアンサンブルに、大きめの縦ストライプが入ったフレアスカートを履いた彼女は、今日もとっても愛らしかった。こんなに可愛い子が、変な男に連れ去られなくて本当に良かった!と僕は心の底から安堵する。

 彼女に駆け寄ると、思わずギュッと抱きしめてから、
「何でもっと明るいところにいないんだ!」
 ホッとしたら、つい子どもの頃の調子で叱ってしまった。兄貴面あにきづらしないで!と怒られるだろうか。
 そう思ったけれど、僕の腕の中の彼女は予想に反して小さな声で、とても素直に「ごめんなさい……」と謝った。
 僕は彼女を抱きしめたまま
「頼むから……心配かけんな」
 彼女の髪に顔を埋めて、呟くようにそう吐き出すのが精一杯だった。

 散々彼女を心配させておいて、どの口が言うんだ?と思いながら。

 電話ではあんなに話してくれたのに、僕の顔を見た途端、彼女は落ち着かない風で、どこかよそよそしくなった。
葵咲きさき?」
 呼びかけてみたけれど、無言でうつむいたまま、視線を合わせようとしてくれない。
「もしかして怒ってる?」
 そうであっても仕方ないと思いながら問えば、うつむいたまま彼女は首を横に振った。

 確かに今の彼女は、僕にやたらと反発して避けていたときみたいな、そういうつんけんした感じじゃない。
「……気にしないで。……その……久しぶりに会えたから……ちょっぴり緊張してて」
 あ。この感じ。僕は今までにも何度か覚えがある。

「ね、葵咲。ひとつ聞いてもいい?」
 わざと立ち止まって彼女の両肩を掴むと、僕は真正面から葵咲ちゃんを見つめた。
 まん前に立っているのに、彼女の視線が不自然に逸らされるのを見て、僕は確信する。

「葵咲、僕が眼鏡かけてるの、見慣れてなくて苦手だって前に言ってたけど……実は割と好きだろ?」
「っ!! ち、違っ……!」
 否定しながらも、彼女が耳まで真っ赤に染めてしまったのを見て、僕はコンタクトレンズを買いに行くのはとうぶん延期しよう、と思った。

 結局僕の顔をマトモに見てくれない――見られない?――葵咲ちゃんの手を引いて、僕は今、車に向かって歩いている。
 さっきは物凄く遠く感じられた道のりも、葵咲ちゃんと一緒だからかあっという間に距離が削られて行く。葵咲ちゃんの反応に、心が浮き足立っているからかもしれない。

 家を出る前に感じた不安が、今は嘘みたいに吹き飛んでいた。

 でも……だからこそ。

 歩きながら色々考えていた僕は、とりあえずそのひとつを口のにのせてみた。

「さすがに一人暮らしの男の家に君を上げるのはマズイと思うんだ」

 主に僕の理性が……。
 心の中で、そうつぶやく。

 今更何を言いだすの?と思ったのかもしれない。葵咲ちゃんは何も言わなかった。もしくはさっきのダメージをまだ引きずっているのかな?
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