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書庫の中*
何で抵抗しないの?
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一通りことの経緯を説明した僕に、葵咲ちゃんはそれでもどこか納得していない様子だった。
その証拠に、僕の両腕と書架に閉じ込められて逃げることはかなわないくせに、微塵もひるんだ様子もなく真っ直ぐ僕を睨み付けてくる。
「……でも、だからって、そこまでする?」
信じられない、と小声でつぶやく彼女に、僕はわざとらしくため息をついてみせた。
「前に言ったよね? 一人の男として僕を見て欲しいって。そのためなら僕はどんな手段だって使うよ」
幼いころから読書家で、そのうえ努力家でもあった葵咲ちゃん。
図書館は、そんな彼女にとって必要不可欠な施設だと、僕は子供のころから知っていた。だからここを職場に選んだのだ。
「理人を男として見ろって言われても……無理だよ。だって私たち、小さい頃からずっと一緒にいたんだよ?」
なぜかそこで僕から視線をそらすと、それでもはっきりと言葉を続ける。
葵咲ちゃんは残酷だ。
ずっと一緒に過ごしてきたのは今更どうしようもないじゃないか。
「幼馴染みは恋愛対象にはなれないってこと?」
低く押し殺した声で問いかければ、こちらを見ないでこくんと首肯する。
「僕の方を見て?」
その態度にどこか違和感を覚えて請えば、子供のようにイヤイヤをする。
「なんで?」
思わず葵咲ちゃんの細い両肩に手をかけると、
「だって理人、初めて会った時、私にお兄ちゃんって呼べって言ったじゃない!」
刹那キッ!と睨みつけられた。
もしかして彼女、泣きそうなのを堪《こら》えてる?
何となくだけど、そんな気がした。
「……葵咲?」
「小さい頃は私のお兄ちゃんになるって言ったくせに……私が大きくなった途端いきなり男だと思えって……勝手すぎるよ……」
確かにそうだと思う。
でも、悪いけど僕は……彼女を妹だなんて思った事はただの一度もないんだ。
彼女に近づくためだけに兄の仮面を被っていたのは事実だけど、その仮面を被り続けろと言われても土台無理な話だ。
「じゃあ、葵咲は今でも僕を兄として見てると?」
問えば、葵咲ちゃんは唇をかみしめてうつむいてしまった。
そんなに力一杯唇を噛んだら噛み切ってしまうじゃないか。
そう思ったら、無意識に僕は彼女の顔を上向け、噛みしめられた唇の端に、自分の指を潜り込ませていた。
そうしてそのまま吸い寄せられるように口付ける。
突然キスしてきた僕を押しのけようと伸ばされた両手を掴むと、そのままひとつに束ねて書架に縫いとめる。
唇を割っていた指をのけると、その手で彼女の後ろ頭を抱えて、顔を少し上向かせるようにして口付けの角度を深くする。
そうしていてもなかなか口を開いてくれない彼女に焦れて、僕は一度唇を離して耳元に顔を寄せると
「口、開いて……」
そう言って、もう一度唇をふさいだ。
噛まれてもいいと思って口づけたのに……もっと激しく抵抗されるだろうと思ったのに……彼女は抵抗しなかった。
ばかりか、素直に薄く開かれた唇の隙間から、僕の舌を容易に侵入させてしまう。
それをいいことに、僕は夢中で彼女の口腔をむさぼった。
彼女の口の端を、どちらのものとも分からない唾液が伝う。
「なんで抵抗しないの? 止めてくれないと……僕はもっと君を求めてしまう」
本気で、どうにかなりそうだった。
その証拠に、僕の両腕と書架に閉じ込められて逃げることはかなわないくせに、微塵もひるんだ様子もなく真っ直ぐ僕を睨み付けてくる。
「……でも、だからって、そこまでする?」
信じられない、と小声でつぶやく彼女に、僕はわざとらしくため息をついてみせた。
「前に言ったよね? 一人の男として僕を見て欲しいって。そのためなら僕はどんな手段だって使うよ」
幼いころから読書家で、そのうえ努力家でもあった葵咲ちゃん。
図書館は、そんな彼女にとって必要不可欠な施設だと、僕は子供のころから知っていた。だからここを職場に選んだのだ。
「理人を男として見ろって言われても……無理だよ。だって私たち、小さい頃からずっと一緒にいたんだよ?」
なぜかそこで僕から視線をそらすと、それでもはっきりと言葉を続ける。
葵咲ちゃんは残酷だ。
ずっと一緒に過ごしてきたのは今更どうしようもないじゃないか。
「幼馴染みは恋愛対象にはなれないってこと?」
低く押し殺した声で問いかければ、こちらを見ないでこくんと首肯する。
「僕の方を見て?」
その態度にどこか違和感を覚えて請えば、子供のようにイヤイヤをする。
「なんで?」
思わず葵咲ちゃんの細い両肩に手をかけると、
「だって理人、初めて会った時、私にお兄ちゃんって呼べって言ったじゃない!」
刹那キッ!と睨みつけられた。
もしかして彼女、泣きそうなのを堪《こら》えてる?
何となくだけど、そんな気がした。
「……葵咲?」
「小さい頃は私のお兄ちゃんになるって言ったくせに……私が大きくなった途端いきなり男だと思えって……勝手すぎるよ……」
確かにそうだと思う。
でも、悪いけど僕は……彼女を妹だなんて思った事はただの一度もないんだ。
彼女に近づくためだけに兄の仮面を被っていたのは事実だけど、その仮面を被り続けろと言われても土台無理な話だ。
「じゃあ、葵咲は今でも僕を兄として見てると?」
問えば、葵咲ちゃんは唇をかみしめてうつむいてしまった。
そんなに力一杯唇を噛んだら噛み切ってしまうじゃないか。
そう思ったら、無意識に僕は彼女の顔を上向け、噛みしめられた唇の端に、自分の指を潜り込ませていた。
そうしてそのまま吸い寄せられるように口付ける。
突然キスしてきた僕を押しのけようと伸ばされた両手を掴むと、そのままひとつに束ねて書架に縫いとめる。
唇を割っていた指をのけると、その手で彼女の後ろ頭を抱えて、顔を少し上向かせるようにして口付けの角度を深くする。
そうしていてもなかなか口を開いてくれない彼女に焦れて、僕は一度唇を離して耳元に顔を寄せると
「口、開いて……」
そう言って、もう一度唇をふさいだ。
噛まれてもいいと思って口づけたのに……もっと激しく抵抗されるだろうと思ったのに……彼女は抵抗しなかった。
ばかりか、素直に薄く開かれた唇の隙間から、僕の舌を容易に侵入させてしまう。
それをいいことに、僕は夢中で彼女の口腔をむさぼった。
彼女の口の端を、どちらのものとも分からない唾液が伝う。
「なんで抵抗しないの? 止めてくれないと……僕はもっと君を求めてしまう」
本気で、どうにかなりそうだった。
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