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神域にて
男として僕を見ろ
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「で、どういうことなの?」
境内は、生い茂る木立で程よい日陰になっていて、下にいた時よりずいぶん涼しく感じられた。
石段を登り切ってすぐにある手水場のところで立ち止まった葵咲ちゃんの手を引いて、僕は社横に彼女を誘った。いくら無神論者な僕でも、さすがに社の正面で痴話喧嘩というのは何となく気が引けたから。
それでも神様の住まいの高欄に彼女を押し付けるように閉じ込めたのだから、大概罰当たりだろう。
「……別に理由なんか……」
真っ直ぐに彼女を射すくめる僕の視線から逃れるように、葵咲ちゃんの目線が下がる。
「僕のほうを見て?」
残念だけど、今の僕は視線ですら逃がしてあげる気はないんだよ。だけど、あえて物理的に手は出したりしない。あくまでもこの場の空気だけで彼女を追い詰めないと意味がないんだ。
「理人を避けてるつもりなんて……なかったの」
あれだけ僕を無視して逃げ回っておきながら、よくそんなことが言える。
あくまでも白を切り通すつもりらしい彼女に、僕はちょっとだけ譲歩してあげる。
「そう。じゃあ、僕の勘違いだったんだね?」
言いながら、あえてニッコリ微笑みかけた。
その笑顔に、葵咲ちゃんの身体がほんの少し強張ったのを、僕は見逃さなかった。
「違うの?」
畳み掛けるようにそう問えば、葵咲ちゃんは「違わない」と答えるしかない。
僕のことを避けたり無視したりしていたわけではないのだから、僕の話を聞く時間だってあるはずだ。
「そっか、よかった。じゃあ、葵咲ちゃんとなかなか会えなくて、ずっと伝えそびれてたこと、今言うね」
「……なに?」
僕が何を言い出すのか不安で堪らないんだろう。所在無くスカーフに添えられていた葵咲ちゃんの手に、ほんの少し力が入る。
「葵咲ちゃんが中学生の時まではずっと我慢してたんだけどね、これからは僕、もう遠慮なくいくから」
「え……?」
葵咲ちゃんの瞳が不安げに揺れる。
「僕はもう君の兄貴役を演じるのはやめる。……だから葵咲、キミもこれからは一人の男として僕を見ろ」
あえて葵咲、と呼び捨てすることで、僕の告白から常ならぬものを感じ取ってくれたら。
半ば祈るように、そう、思った。
境内は、生い茂る木立で程よい日陰になっていて、下にいた時よりずいぶん涼しく感じられた。
石段を登り切ってすぐにある手水場のところで立ち止まった葵咲ちゃんの手を引いて、僕は社横に彼女を誘った。いくら無神論者な僕でも、さすがに社の正面で痴話喧嘩というのは何となく気が引けたから。
それでも神様の住まいの高欄に彼女を押し付けるように閉じ込めたのだから、大概罰当たりだろう。
「……別に理由なんか……」
真っ直ぐに彼女を射すくめる僕の視線から逃れるように、葵咲ちゃんの目線が下がる。
「僕のほうを見て?」
残念だけど、今の僕は視線ですら逃がしてあげる気はないんだよ。だけど、あえて物理的に手は出したりしない。あくまでもこの場の空気だけで彼女を追い詰めないと意味がないんだ。
「理人を避けてるつもりなんて……なかったの」
あれだけ僕を無視して逃げ回っておきながら、よくそんなことが言える。
あくまでも白を切り通すつもりらしい彼女に、僕はちょっとだけ譲歩してあげる。
「そう。じゃあ、僕の勘違いだったんだね?」
言いながら、あえてニッコリ微笑みかけた。
その笑顔に、葵咲ちゃんの身体がほんの少し強張ったのを、僕は見逃さなかった。
「違うの?」
畳み掛けるようにそう問えば、葵咲ちゃんは「違わない」と答えるしかない。
僕のことを避けたり無視したりしていたわけではないのだから、僕の話を聞く時間だってあるはずだ。
「そっか、よかった。じゃあ、葵咲ちゃんとなかなか会えなくて、ずっと伝えそびれてたこと、今言うね」
「……なに?」
僕が何を言い出すのか不安で堪らないんだろう。所在無くスカーフに添えられていた葵咲ちゃんの手に、ほんの少し力が入る。
「葵咲ちゃんが中学生の時まではずっと我慢してたんだけどね、これからは僕、もう遠慮なくいくから」
「え……?」
葵咲ちゃんの瞳が不安げに揺れる。
「僕はもう君の兄貴役を演じるのはやめる。……だから葵咲、キミもこれからは一人の男として僕を見ろ」
あえて葵咲、と呼び捨てすることで、僕の告白から常ならぬものを感じ取ってくれたら。
半ば祈るように、そう、思った。
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