104 / 169
(18)すべての真実
生粋の庶民
しおりを挟む
***
徒歩一〇分圏内の滅茶苦茶近い距離なのに、はやる気持ちが抑えられなくて、日和美のことを車で迎えに来てしまった信武だ。
「とりあえず乗れよ」
「は、はいっ。お邪魔します……。って、あ、あのっ、信武さんっ。く、靴はっ。靴は脱いだ方がいいですか?」
アパート下に停めていた黒のSUV車の助手席ドアを開けて日和美を車内へ誘ったら、シートへ中途半端に腰かけた状態で泣きそうな顔をした彼女から、困惑顔で見上げられてしまった。
それもそのはず。
信武の愛車は国産車の中ではそこそこに高級車に分類される、トミタ自動車レクアスの新車だったから。
基本的にあまり車でどうこうすることはない信武だったが、別に運転が苦手なわけでも車を所持していなかったわけでもない。
ただ、仕事に追われてなかなか乗る機会がなかっただけ。
前の車の車検を機にこの車へ乗り替えて三ヶ月ちょい。
考えてみれば、助手席に人を座らせたのは今回が初めてだった。
「そのままで構わねぇよ」
新車特有の香りに怯えたのか、小動物みたいに瞳を揺らせる挙動不審な日和美のさまが可愛すぎて、つい口の端に笑みが浮かんでしまう。
仕事で茉莉奈と移動するときには彼女が手配した車に乗ってばかりだったし、本当にその必要がなかっただけなのだが、今日隣に日和美を乗せることになって、彼女が初めてで良かったとしみじみ実感しまくってしまった信武だ。
そうして思った。
ここに座らせるのは、今後もずっと日和美だけにしよう、と。
***
「おっ、お邪魔、しまっ……」
「バーカ。そんなに緊張すんなよ。俺まで息が詰まるだろーが」
自宅マンションの玄関先。
真新しい客用スリッパを出しながらククッと喉を鳴らしたら、日和美に泣きそうな顔でキッと睨まれてしまった。
「さ、さっきからあんなっ。私、生粋の庶民なんですっ。きっ、緊張しないでいるのとか、無理に決まってるじゃないですかっ!」
「生粋の庶民って……」
日和美の言動がいちいちツボに入って、信武は思わず笑ってしまった。
彼女を迎えに行くまではずっと。
今から日和美にあれこれの真実をどう話すべきか思い悩んで胃が痛くなりそうだったのだが、今は不思議と穏やかな気持ちになれている。
徒歩一〇分圏内の滅茶苦茶近い距離なのに、はやる気持ちが抑えられなくて、日和美のことを車で迎えに来てしまった信武だ。
「とりあえず乗れよ」
「は、はいっ。お邪魔します……。って、あ、あのっ、信武さんっ。く、靴はっ。靴は脱いだ方がいいですか?」
アパート下に停めていた黒のSUV車の助手席ドアを開けて日和美を車内へ誘ったら、シートへ中途半端に腰かけた状態で泣きそうな顔をした彼女から、困惑顔で見上げられてしまった。
それもそのはず。
信武の愛車は国産車の中ではそこそこに高級車に分類される、トミタ自動車レクアスの新車だったから。
基本的にあまり車でどうこうすることはない信武だったが、別に運転が苦手なわけでも車を所持していなかったわけでもない。
ただ、仕事に追われてなかなか乗る機会がなかっただけ。
前の車の車検を機にこの車へ乗り替えて三ヶ月ちょい。
考えてみれば、助手席に人を座らせたのは今回が初めてだった。
「そのままで構わねぇよ」
新車特有の香りに怯えたのか、小動物みたいに瞳を揺らせる挙動不審な日和美のさまが可愛すぎて、つい口の端に笑みが浮かんでしまう。
仕事で茉莉奈と移動するときには彼女が手配した車に乗ってばかりだったし、本当にその必要がなかっただけなのだが、今日隣に日和美を乗せることになって、彼女が初めてで良かったとしみじみ実感しまくってしまった信武だ。
そうして思った。
ここに座らせるのは、今後もずっと日和美だけにしよう、と。
***
「おっ、お邪魔、しまっ……」
「バーカ。そんなに緊張すんなよ。俺まで息が詰まるだろーが」
自宅マンションの玄関先。
真新しい客用スリッパを出しながらククッと喉を鳴らしたら、日和美に泣きそうな顔でキッと睨まれてしまった。
「さ、さっきからあんなっ。私、生粋の庶民なんですっ。きっ、緊張しないでいるのとか、無理に決まってるじゃないですかっ!」
「生粋の庶民って……」
日和美の言動がいちいちツボに入って、信武は思わず笑ってしまった。
彼女を迎えに行くまではずっと。
今から日和美にあれこれの真実をどう話すべきか思い悩んで胃が痛くなりそうだったのだが、今は不思議と穏やかな気持ちになれている。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら世界が崩壊していて、女に飢えたイケメンアスリート達に助けられました
玉水ひひな
現代文学
【あらすじ】
二人の小学生の母親として、平穏に暮らしていた平凡なアラフォー主婦の宮代沙織。
ある時、地下鉄のホームで昏倒していた沙織が目覚めると、世界が崩壊していた。
生き残りが世界で自分一人なのではと思いながら崩壊した街を歩きまわる中で、沙織は他の生き残りと出会う。
しかし、それは沙織より年下の三人の男達だった。
西島修二と佐伯彰人は現役アスリート、永瀬穂高は彼らの所属するプロチームの広報を担当していたらしい。
世界に残されたのは、この四人きり。
女に飢えた男達に囲まれ、愛欲の日々が始まる――!
---
今年がスポーツイヤーということで、当作は、【もしも、試合中継で見かけてニワカファンになったあのイケメンアスリート達に平凡ヒロインが奪い合いされることになってしまったら…⁉】というところから着想しました。
しかしこんな逆ハー絶対に現実には起こらない…! というわけで、甘栗むいちゃう感覚で世界滅ぼしときました! いや世界滅ぶ方が起きないよねという突っ込みは置いていただいて…。
また、便宜上ヒーロー達がやっている競技は【スポーツ】とだけ記載してぼかしてあります。皆様のお気に入りのスポーツ選手を重ねて妄想していただけたら幸いです。(人数の都合上、想定は団体球技となっております。)
サバイバル難易度はベリーイージーです。食糧事情とかがハードなのは避けたかったので…。
本作は、倫理観が崩壊した先の背徳感にこそ濃度の高い官能が宿る…! の精神で書いておりまして、倫理観がいきなり壊れたら背徳感も何もないのでは…という考えのもと構成いたしました。(少しでも成功しているといいのですが…)
倫理観も何層も壁があって、いきなり全部が崩壊するわけではないので、R18該当シーンまでは前作よりさらに展開ゆっくりめに感じられるかもですが、ヒロインが夫婦生活で経験していたある種日常だった性行為が、未曾有の事態を経て、倫理観がいくつも崩れ、愛欲と背徳感と官能に満ちた別種の行為になっていく過程を楽しんでいただけたらと思います!
前作同様力を込めて書きましたので、ぜひよろしくお願いいたします!
キャライラストは、Akira_あきら様にお願いしました。
※※読む前の注意事項※※
当作は試し読みです。
DLsite、FANZA、kindle、BOOKWALKERにて電子書籍を販売しております。
詳しくは、【電子書籍販売開始しました! + おまけエピソード】というエピソードを最後に更新してありますので、ご確認くださいませ!
6/20追記:本日電子書籍販売予定サイトですべて販売開始になりましたので、本作は完結とさせていただきます!
前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。
克全
恋愛
「余はカチュアとの婚約を破棄する」
王太子殿下に一方的に婚約を破棄されたのは、公爵家令嬢のカチュア・サライダだった。
彼女は前世の記憶を持って転生した、水乙女という、オアシス王国にはなくてはならない存在だった。
精霊に祈りを捧げ、水を湧かせてもらわないと、国が亡ぶのだ。
だが事情があって、カチュアは自分は水乙女であることを黙っていた。
ただ、愛する人や民の為に祈り続けていた。
カチュアとの婚約解消を言い放った王太子殿下は、自分に相応しい相手は水乙女しかいないと、一人の女性を側に侍らせるのだった。
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
裏劇場「春」
茅
恋愛
招かれたら最後、二度と出る事は許されない。外界から隔絶された、森に囲まれる洋館に住む主、謎の青年と、主人に魅入られてしまった初の愛玩少年、「かすか」。繰り返される主人の悪事の思惑は何なのか。主人は何者なのか。小さな歯車が狂った、歪んだ愛の果ての壊れた物語。様々な人物の思いが巡る。ぼくは、大人になんて、ならない。※此方は声劇版の台本となります。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる