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(15)しばらく一人にしてください

書店側のサイン会担当者

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 顔合わせの際、初めましてをしたと同時、半ば食い気味に『私、立神たつがみ信武しのぶ先生の大ファンなんです!』と熱弁してくれた彼女は、確かに信武の著書をしっかりと読み込んでくれている、コアなファンだった。

 まさに、サイン会担当にふさわしい人選だろう。

 というか、今回のサイン会自体、彼女の熱意があってこそ実現したのだと、編集から聞かされている信武だ。


 サラサラの黒髪を後ろでバレッタ留めした多賀谷は、清潔感にあふれていたし、一般的に言えば美人の部類に入るだろう。

 だが、信武にとって、日和美以外はその他大勢に過ぎないのだ。

 例え家でとも、中身が日和美ならば可愛く見える自信があるのだから不思議だ。

(ま、実際見せてもらったことはねぇんだけどな)

 日和美は信武の前ではとても綺麗なパジャマを着ている。あれは恐らく不破ふわと暮らすようになって新調したものに違いない。

(くっそ、惜しいわ)

 いつか絶対ありのままの日和美ひなみを自分の前にさらけ出させてやる!と目論んでいるとか言ったら、彼女はおびえるだろうか。

 、日和美からだらけた日々の話を照れ隠しみたいに聞かされて、そういうヒロインを主役にするのも悪くねぇなと思ったのを信武しのぶは鮮明に覚えている。

 そんな日和美のだらりとした姿を見てみてぇなと無意識に思って、思わず苦笑したことも。

 ただ、その時に書いていたものにジャージを着たような女の子が出てくる設定がなくて、保留のままできてしまった。

 だが、新作でやっと実現できる予定だ。

 「このヒロインはお前がモデルなんだぜ?」とか教えたら、日和美はどんな反応をするだろう。

 考えただけで彼女の反応が楽しみでぞくぞくする。

 今、マンションで、缶詰め状態で仕事をさせられていてもモチベーションが保てているのは、まさにそのためだ。


「あの、立神センセ?」

 長い間物思いにふけり過ぎていたらしい。

 小首を傾げられて、信武はまだ眼前に多賀谷がいたんだっけと思い出した。

 何となく(面倒くせぇな)と思ったのはおくびにも出さず、頬を上気させた多賀谷に、心の中で小さく吐息を落とす。

(そういやぁ、前に対面した時もこんなだったか)

 信武にとってこういうことは割と日常茶飯事なので、あからさまに異性として見られたからと言って、何も感じたりはしない。

「すみません。このところ執筆に追われて寝不足だったものですから、少しぼんやりしてしまいました」

 わざと眉根を寄せて同情を誘うような表情を作って淡く微笑めば、多賀谷が「まぁ! それは大変です」と心配そうな顔をする。
 その上で、なのに何故いま、出歩いているんだろう?と至極まともな問いにぶち当たったらしい。
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