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(14)その女性は誰ですか?

何も影響がないわけがない

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***

 朝一で日和美ひなみが渡しているのとは別の携帯が鳴って。
 信武しのぶはそこに届いたらしいメッセージを確認するなり小さく吐息を落とした。

 信武がスマートフォンを二台持ちしていることにその連絡で初めて気が付いた日和美が、スマホを手にしたままの信武の手元を見詰めたら、「仕事用の携帯だ。ろくな連絡ねぇし、余りあんま持ちたかねぇんだけど……ずっと放置しとくわけにゃいかねぇし……。家から持ってきたんだよ」と見せてくれる。

 そのスマートフォンは、日和美が過日不破ふわのために用意したものよりかなり上位の機種で。

「……私が渡したの、いらないんじゃ」

 思わずそう言ってしまったら、ムッとした顔をされた。

「あっちのは日和美ひなみ専用だ」

 言いながらも、「あー、けど……通信費がお前持ちなのは頂けねぇな」とかブツブツ言って来て。
 朝のバタバタしている時間だったからその辺はまたおいおい考えようということで適当に話をまとめてキッチンに立った日和美だ。


***


「なぁ唐突でわりぃんだけど俺、今日からしばらくの間、帰って来んの日和美ひなみより遅くなると思うわ」

 手にした仕事用のスマホを一瞥いちべつして、信武がどことなくバツの悪そうな顔でそんなことを言ってくるから。
 日和美は思わず朝食の支度したくをする手を止めてアイランドキッチン越し。信武の方を見詰めてしまった。

 だって余りにも急な話だったから。

「下手したら戻りが深夜とかになっちまうかも知んねぇ」

 オマケにそんな風に付け加えてくるから、
(もしかして……仕事にかこつけて避けられてる……?)
 そう思ってしまった。

 生理中の抱けない私に用はないってこと?とかネガティブな思考がグルグルして、日和美ひなみは思わずギュッと奥歯を噛みしめずにはいられなくて。

 両想いだと分かった日和美に、当然のように迫る気満々だった信武しのぶだ。そんな彼に肩透かしのようにくらわせてしまった、女の子の日発言。

 何も影響がないわけないではないか。

 思えば、過去二人の彼氏らと上手くいかなくなってしまった原因だって、おおむねそんな感じだったのだから。

 高校生の時の彼氏も、大学生の時の彼氏も、日和美が彼らからのキスを拒んでしまった結果、何となく気まずくなって別れてしまった。

 キスに関しては、信武は彼らより数倍上を行く手練れだったから。日和美が拒否する隙も与えず気が付いたら奪われてしまっていたのだけれど――。

 さすがに肉体関係そのさきについてはそう簡単には許せなくて。
 そうこうしているうち、物理的にも本当に一週間無理になってしまったのだから、信武が面白くないと感じていても不思議ではない気がした。

(うー、でも)

 昨夜の信武は生理痛に苦しむ日和美にとても優しかったから。
 そんな信武が、いま日和美が思い浮かべたような理由で自分のことを避けるのは不自然に思えてしまう。
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