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(13)立神信武という男

ハードカバーにした理由

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 そんな信武しのぶに、日和美ひなみは「チッチッチ!」と人差し指を立てて顔の前、「私、それもちゃんと分かった上でハードカバーこっちの本を選んだんですよ?」と吐息まじりに指先を左右に動かす。

「私、ちょっとだけ調べたんです。作家さんに入る印税って……一概には言えないけれどほとんどの出版社さんで文庫もハードカバーも新書も……大体同じくらいの割合なんでしょう? でも、当然それぞれ単価が違うから。作家さんの実入り的には千円にも満たないような安価な文庫は、二千円近くするハードカバーより売れた際の儲けが少ない。――違いますか?」

 買ってきた本を、両腕をクロスするようにして大切に大切に胸前へ抱えて。キッと睨みつけるように信武を見据えたら、瞳を見開かれた。

「――ま、まぁその通りなんだが」

 ややしてポツンとそうつぶやくなり、信武は何故か真っ赤になって顔を背けてしまう。

信武しのぶさん?」

 そのことが不思議で、日和美ひなみはキョトンと小首を傾げた。

「何でお顔を背けるのですかっ」

「……いや、だってお前……それ、反則だろ」

 そっぽを向いたまま信武が言うから。日和美はますますわけが分からなくて混乱する。

「何がですか?」

 一歩ソファの方に詰め寄ってそう問いかけたら、突然立ち上がった信武にギュウッと抱き締められた。

「好きな女に〝あなたのために色々気ぃ遣いました〟みたいに言われてグッと来ねぇ男なんざおらんだろっ」

 切な気に耳元でそんな風に落とされて、日和美の手からラグの上に本が落ちる。

 不自然に開いた格好で伏せるようにして落ちたその本の表には、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』と書かれていた。

 立神たつがみ信武しのぶフリークの多賀谷たがや先輩曰く、エロスと純文学と、茶葉に対する雑学が入り乱れたこの作品こそ、立神作品の真髄らしい。

 日和美的には『陽だまりの硝子玉びぃどろ』や『犬を飼う』の方が〝買いやすいタイトル〟で気になったのだけれど、ふとそこで信武の言葉を思い出した。

 ――「今度俺のコレクション見せてやろーか? お前のTL本なんて可愛く見えるよーなえげつねぇのだってゴロゴロしてっぞ?」

 あの時、日和美は、日和美のTL本が可愛く見えるんだろう?と思った。

 多賀谷が勧めてくれた本のタイトルは、そこに触れられるものな気がしたから。

 日和美は「よし!」と決意してコレをレジに持って行ったのだ。
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