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(10)信武の彼女
あ わよくば信武を不破に塗り替えたい
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***
今日の夕飯は、信武のせいで支度が遅くなってしまったので、急遽キーマカレーに予定変更した日和美だ。
キーマカレーなら、野菜をみじん切りにして入れるので、火を通す時間を短くすることが出来る。
幸い、近々煮込みハンバーグを作ろうと冷蔵庫に入れておいたミンチがあったからそれが使えて一石二鳥。
以前不破が好きだと話してくれた和風煮込みハンバーグだけど、作るのはまた別の機会にしよう、と何気なく思ってから、不破さんはもういないんだった、と切なくなった。
小さく吐息を落としながら信武を恨めしげに見つめたら「ん?」と小首を傾げられて。日和美は慌てて「何でもありません!」と視線をそらしたのだけれど。
果たして不破と信武は味の好みは一緒なのかしら?と素朴な疑問が沸々と湧き上がってくる。
よくは分からないが、女性の好みに変化はなかった(?)みたいだ。
だとしたら、食の好みも案外そうなのかも知れない。
(あ、でも……)
そこまで考えて、その信武にしたって、あとどのぐらいの期間、ここにいるんだか分からないんだった、とふと思い至った日和美だ。
不破となら貞操の危機をそれほど感じることもなかったから、のんびり一緒に少しずつ距離を削りながら暮らしていけたらいいと思っていた。
でも、信武とだと今この時でさえも身の危険を感じてしまうから、早めにいなくなってくれる方がいいのかも知れない。
でも、そうなるとまた一人暮らしか……と思ったら何となく胸の奥がキュッと疼くのは、このところ〝誰かのために〟家事をすることに張り合いを感じていたからだろうか。
***
「ホント手際がいいな」
ほう、っと感心したように言われて、物思いに耽っていた日和美は思わず小さく肩を跳ねさせた。
それに気取られたくない一心でリズムを乱さないよう野菜を一定のリズムで粉みじんに切り刻みながら、実際のところはカウンター越しにこちらの作業を凝視している信武が気になって仕方がない。
先程まではカウンターのこちら側で腰に腕を回された二人羽織状態だったのだけれど、さすがに包丁を使うし(邪魔だし)危険だからとカウンターのあちら側へ追いやったのだ。
もちろん、邪魔云々の部分は心の中で思うに留めて口には出していない。
それよりむしろ、歯が浮くような気分でしどろもどろに告げた、「信武さんに怪我をさせたくないので」という言葉が一番効果的だったように思う。
信武は「俺、お前のそういう家庭的で優しい所が好きなんだ」とさらりと言うと、大人しく引き下がってくれたのだけれど。
(私の何を知ってるって言うのよ)
日和美のことなんてきっと、不破が残した写真裏のメモ書きくらいでしか知らないはずなのに。
恐らくは「料理が上手」と書いてくれている辺りを誇大解釈してくれているに過ぎないと思う。
ただ、不破を演じた時の猫かぶりっぷりは本当に見事だったので、もしかしたら少しぐらいは記憶がない間のあれこれが残っているのかな?と期待しなくもない日和美だ。
もし信武の中に不破の時のあれこれが残っていたとしたら……日和美はそれを最大限に引き出して……あわよくば信武を不破に塗り替えたいとすら思っている。
今日の夕飯は、信武のせいで支度が遅くなってしまったので、急遽キーマカレーに予定変更した日和美だ。
キーマカレーなら、野菜をみじん切りにして入れるので、火を通す時間を短くすることが出来る。
幸い、近々煮込みハンバーグを作ろうと冷蔵庫に入れておいたミンチがあったからそれが使えて一石二鳥。
以前不破が好きだと話してくれた和風煮込みハンバーグだけど、作るのはまた別の機会にしよう、と何気なく思ってから、不破さんはもういないんだった、と切なくなった。
小さく吐息を落としながら信武を恨めしげに見つめたら「ん?」と小首を傾げられて。日和美は慌てて「何でもありません!」と視線をそらしたのだけれど。
果たして不破と信武は味の好みは一緒なのかしら?と素朴な疑問が沸々と湧き上がってくる。
よくは分からないが、女性の好みに変化はなかった(?)みたいだ。
だとしたら、食の好みも案外そうなのかも知れない。
(あ、でも……)
そこまで考えて、その信武にしたって、あとどのぐらいの期間、ここにいるんだか分からないんだった、とふと思い至った日和美だ。
不破となら貞操の危機をそれほど感じることもなかったから、のんびり一緒に少しずつ距離を削りながら暮らしていけたらいいと思っていた。
でも、信武とだと今この時でさえも身の危険を感じてしまうから、早めにいなくなってくれる方がいいのかも知れない。
でも、そうなるとまた一人暮らしか……と思ったら何となく胸の奥がキュッと疼くのは、このところ〝誰かのために〟家事をすることに張り合いを感じていたからだろうか。
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「ホント手際がいいな」
ほう、っと感心したように言われて、物思いに耽っていた日和美は思わず小さく肩を跳ねさせた。
それに気取られたくない一心でリズムを乱さないよう野菜を一定のリズムで粉みじんに切り刻みながら、実際のところはカウンター越しにこちらの作業を凝視している信武が気になって仕方がない。
先程まではカウンターのこちら側で腰に腕を回された二人羽織状態だったのだけれど、さすがに包丁を使うし(邪魔だし)危険だからとカウンターのあちら側へ追いやったのだ。
もちろん、邪魔云々の部分は心の中で思うに留めて口には出していない。
それよりむしろ、歯が浮くような気分でしどろもどろに告げた、「信武さんに怪我をさせたくないので」という言葉が一番効果的だったように思う。
信武は「俺、お前のそういう家庭的で優しい所が好きなんだ」とさらりと言うと、大人しく引き下がってくれたのだけれど。
(私の何を知ってるって言うのよ)
日和美のことなんてきっと、不破が残した写真裏のメモ書きくらいでしか知らないはずなのに。
恐らくは「料理が上手」と書いてくれている辺りを誇大解釈してくれているに過ぎないと思う。
ただ、不破を演じた時の猫かぶりっぷりは本当に見事だったので、もしかしたら少しぐらいは記憶がない間のあれこれが残っているのかな?と期待しなくもない日和美だ。
もし信武の中に不破の時のあれこれが残っていたとしたら……日和美はそれを最大限に引き出して……あわよくば信武を不破に塗り替えたいとすら思っている。
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