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(3)君の名は
王子様といえばお紅茶なのにっ!
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日和美はついついふわふわさんの美貌に絆されて、条件反射みたいにそう答えてしまっていた。
日和美がえっちらおっちら言いながら運んだ掛け布団なのに、柔らかな面差しに見えてもそこはやはり男性。
軽々と運んでしまうふわふわさんに、日和美は危機も忘れて(ギャップ萌え最高ですぅー!)と心の中で一人、キュンキュンときめいてしまう始末。
(あーん、ふわふわ王子っ♥)
なんて声には出さず悶えていたら、自分とは生き物の種類が違うとしか思えない美形のふわふわさんが、「よいしょ」だなんて掛け声とともに掛け布団を柵に上げるから。
(嘘ぉ! 気合いの入れ方、私と一緒♪)
変なところで親近感を覚えて、日和美はますます彼の虜になった。
「あの、日和美さん」
どうも彼の見目が麗し過ぎて、色々後手・後手に回ってしまう日和美だ。
ベランダの手すりに乗っけた布団を支えたまま、困ったような顔をしてこちらを振り返ったふわふわさんに、「布団ばさみが見当たらないんですが」と声を掛けられて、日和美はビクッと身体を跳ねさせた。
そう、そうなのだ。
それを取りに行こうと布団から手を離したからあんなことになったわけで――。
目の前で新妻よろしく(?)布団を押さえてこちらを見てくるふわふわさんに、(あの時の不注意な私、グッジョブ! 素敵な王子様ゲットだぜ!)とか不謹慎なことを思ってしまった日和美は、
「ははぁ! すぐにお持ち致します!」
それを誤魔化すみたいに時代劇口調で言って、いそいそと脱衣所へと向かった。
脱衣所の洗濯機そばの壁には、百円ショップで買ってきた白色のワイヤーネットが取り付けてあって、大小様々なフック式のカゴが掛けてある。
洗濯ばさみや布団ばさみなど、洗濯に関する用品は全てそこに入れてある山中家だ。
日和美は急いで布団ばさみを手に取ると、ふわふわさんの待つベランダへ急行した。
「お、待た、せっ、致しま、したっ」
はぁはぁと息を切らしながら、布団ばさみを恭しく両手に乗せて差し出したらクスッと笑われて。
「そんなに急がなくても大丈夫だったのに。――有難うございます」
と、この部屋に入って三度目のキラースマイルを頂いてしまう。
「はぅっ!」
その破壊力に思わずその場へくず折れそうになった日和美だったけれど、何とか理性で持ち堪えた。
***
結局重い敷布団に至るまで全部ふわふわさんが干してくれたのだけれど。
幸い〝例の本たち〟はふわふわさんには見つからずに済んだ。
ちなみにその間ずっと、彼はしきりに汚れてしまった掛け布団を気にしていて。
「そんなのカバー掛けちゃえば見えなくなっちゃうし、気にしなくていいですよぉー」と言いながら、日和美は一人、キッチンに立っている。
「ど、ドクダミ茶とかお口に合いますでしょうか?」
お茶でも飲みながらと誘ったくせに、棚を開けてみたら生憎紅茶を切らしてしまっていた。
(王子様といえばお紅茶なのにっ!)
そんなことを思う日和美に、「ドクダミ、ですか?」と、ほわりとした声音が返る。
「はい」
ならば、と珈琲をいれようと思った日和美だったけれど、元々お茶派の日和美宅には、随分前に友人が来た時に買ってそのままにしていたインスタントコーヒーしかなくて。
それを棚の奥から引っ張り出して恐る恐る蓋を開けてみたら、見事湿気ってカチカチに固まってしまっていた。
(こんなのさすがに出せないよ)
スプーンでちょっとだけガリガリしてみてから、全然崩れそうにないことを確認して、後で捨てておこうと決意したまでは良かったのだけれど。
結果お出し出来るものの選択肢が、煮出して冷やしてあるドクダミ茶のストックオンリーになってしまった。
日和美がえっちらおっちら言いながら運んだ掛け布団なのに、柔らかな面差しに見えてもそこはやはり男性。
軽々と運んでしまうふわふわさんに、日和美は危機も忘れて(ギャップ萌え最高ですぅー!)と心の中で一人、キュンキュンときめいてしまう始末。
(あーん、ふわふわ王子っ♥)
なんて声には出さず悶えていたら、自分とは生き物の種類が違うとしか思えない美形のふわふわさんが、「よいしょ」だなんて掛け声とともに掛け布団を柵に上げるから。
(嘘ぉ! 気合いの入れ方、私と一緒♪)
変なところで親近感を覚えて、日和美はますます彼の虜になった。
「あの、日和美さん」
どうも彼の見目が麗し過ぎて、色々後手・後手に回ってしまう日和美だ。
ベランダの手すりに乗っけた布団を支えたまま、困ったような顔をしてこちらを振り返ったふわふわさんに、「布団ばさみが見当たらないんですが」と声を掛けられて、日和美はビクッと身体を跳ねさせた。
そう、そうなのだ。
それを取りに行こうと布団から手を離したからあんなことになったわけで――。
目の前で新妻よろしく(?)布団を押さえてこちらを見てくるふわふわさんに、(あの時の不注意な私、グッジョブ! 素敵な王子様ゲットだぜ!)とか不謹慎なことを思ってしまった日和美は、
「ははぁ! すぐにお持ち致します!」
それを誤魔化すみたいに時代劇口調で言って、いそいそと脱衣所へと向かった。
脱衣所の洗濯機そばの壁には、百円ショップで買ってきた白色のワイヤーネットが取り付けてあって、大小様々なフック式のカゴが掛けてある。
洗濯ばさみや布団ばさみなど、洗濯に関する用品は全てそこに入れてある山中家だ。
日和美は急いで布団ばさみを手に取ると、ふわふわさんの待つベランダへ急行した。
「お、待た、せっ、致しま、したっ」
はぁはぁと息を切らしながら、布団ばさみを恭しく両手に乗せて差し出したらクスッと笑われて。
「そんなに急がなくても大丈夫だったのに。――有難うございます」
と、この部屋に入って三度目のキラースマイルを頂いてしまう。
「はぅっ!」
その破壊力に思わずその場へくず折れそうになった日和美だったけれど、何とか理性で持ち堪えた。
***
結局重い敷布団に至るまで全部ふわふわさんが干してくれたのだけれど。
幸い〝例の本たち〟はふわふわさんには見つからずに済んだ。
ちなみにその間ずっと、彼はしきりに汚れてしまった掛け布団を気にしていて。
「そんなのカバー掛けちゃえば見えなくなっちゃうし、気にしなくていいですよぉー」と言いながら、日和美は一人、キッチンに立っている。
「ど、ドクダミ茶とかお口に合いますでしょうか?」
お茶でも飲みながらと誘ったくせに、棚を開けてみたら生憎紅茶を切らしてしまっていた。
(王子様といえばお紅茶なのにっ!)
そんなことを思う日和美に、「ドクダミ、ですか?」と、ほわりとした声音が返る。
「はい」
ならば、と珈琲をいれようと思った日和美だったけれど、元々お茶派の日和美宅には、随分前に友人が来た時に買ってそのままにしていたインスタントコーヒーしかなくて。
それを棚の奥から引っ張り出して恐る恐る蓋を開けてみたら、見事湿気ってカチカチに固まってしまっていた。
(こんなのさすがに出せないよ)
スプーンでちょっとだけガリガリしてみてから、全然崩れそうにないことを確認して、後で捨てておこうと決意したまでは良かったのだけれど。
結果お出し出来るものの選択肢が、煮出して冷やしてあるドクダミ茶のストックオンリーになってしまった。
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