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ふ
しおりを挟む高台は山頂から里へ続く石段を下り、さらに山道を歩いていった開けた所にある。庵からは四半刻ほどで到着するその場所は、眼下に扇形に広がる里を見下ろすことができる。手入れされ、刈り揃えられた芝が踏みしめられる度にさくさくと音を立てた。
奥に桜の木の下に卒塔婆が二つと、その周りを半分囲うように石が積まれた小さな石塔が十七。全て同じ代の老翁の教え子達のものである。一番早くて齢十五、遅くて十九の子らのもの。
夢で見た可愛らしい過去が嘘のような成長を遂げることになるとは、あの頃は思いもよらなかった。先輩には生意気な後輩共、後輩には自分達で遊ぶ暴君共と、主任担当だった老翁の元へ日夜苦情もとい訴えが来る、良くも悪くもすくすくと育っていった彼ら。その姿は頼もしいやら、いい加減にしてほしいやらで。
彼らが六年を過ごした学び舎を去り、一人前の八咫烏として任務を得て各地に散らばるまで全ての日を共に過ごした。
――そして。
続々と耳に入ってくる訃報に、命を落とした者を担当していた師が一人また一人と唇を噛む姿を、柱に拳を打つ姿を隠れて見てきた。
取り戻すことの叶わない身体の代わりに積んだ石塔は、日を追うごとに増えていく。
再び一堂に会したのは、学び舎を巣立って行った六年後。それも、手放しで喜べる再会の理由ではない。とある大名が八咫烏から人質をとろうと、学び舎を襲撃するという蛮行の憂き目に遭う。なんとしても子供達を護ろうとした教師に死傷者が多数出たため、彼らを急遽代役として呼び戻すことになったのだ。
その時点で、十七人いたのが六人減り、十一人になっている。そして、それからおよそ一年後。ある出来事で、彼らの代は残り全員が命を散らした。
「……お前達、長いこと来れなくてすまんかったな」
卒塔婆の前で胡坐を組んで座る。何をするでもなく黙って石塔を眺めていると、温かな春の陽気に包まれて眠気がゆるやかに襲ってくる。
そのうち背を撫でるような風が吹いてきて、老翁は目を閉じた。
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