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修行は本場の土地で

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「……」


 レオン様は水鏡に沈む本を出した。

 さっきは次から次へと入れ込まれ、目を向けさせられていたからそれに気づかなかったけど、本、れてない!


「感心するのはそこじゃないから」
「わ、わかってます。わかってますから、パンパンやめて」


 千早様ってば、いつからそんな暴力上等なキャラになっちゃったの? 私は心配だよ。他の人にもそんな態度じゃないかって。


「さて、これら二つには共通点があるんだ。どこだと思う?」


 レオン様の問いかけに、頭をひねった。

 共通点。
 ……自分の力を使って、本人達は満足そうだけど、周りはそうじゃないところ?


「そう。頭の回転が早い子は嫌いじゃないよ」
「あ、ありがとーございます」


 嫌いじゃないイコール好きもしくは普通ってならないところがレオン様らしいけど。

 話が長くなりそうなのを察知した都槻さんが台の傍に椅子を持って来てくれて、レオン様と千早様はそれに腰かけた。


「君は今まで……おつむの弱い普通の人間として生活していた」


 今の間が気になる所ではあるけど、おつむはそんなに弱くない、と思う。思いたい。
 でも、普通の人間として生活していたのは事実だから、はいともいいえとも返事が出来ず、軽く首を傾げながらにぶく頷くだけに留めた。


「だから、そんな君がいきなり神の力を使えるようになって、彼みたいに目をかけた人間にことごとく加護を与えていったら、最終的にはどうなると思う?」
「カミーユさまたちにつかまえられちゃう?」


 人外の捕縛はカミーユ様達、第三課の役目だったはず。

 それは当たっていたようで、レオン様は満足そうに頷いた。


「そう。それからあの人は灰になってしまったけど、本来行くべきなのは牢獄ろうごくだよ。そして、神とそれ以外の牢獄は違う」
「どうして?」
「神をさばけるのは神だけだから。この間、君が出会った温泉郷の土地神も、本来は人柱をとっていたということで神のみの牢獄行きが決まりかけていたけれど、特別に恩赦おんしゃが出たんだよ。他でもない、君のつるの一声でね」
「……わたしっ!?」


 そ、それは何かの間違いじゃなかろうか。
 私は別に、そんな大それたこと口にしたつもりはないんだけど。


「天へかえると気遣きづかいを見せてそう言った土地神に、君はこの場に残って土地と人間を守るようにと言ったでしょ? それだよ」
「あ、あー」


 それなら覚えありありだ。

 そっかー。私、勝手に“そんな大それたこと”やらかしちゃってたのかぁ。


「君の力は伊澄と同じく治癒の力。人間にとってはとても重要な力だから、当然使う頻度も多くなる」
「つかっちゃだめってこと?」
「例えば、人間社会だけで起きうる事故とか事件で負った怪我に対しては使わないほうがいいね。それはあらかじめ組み込まれた運命だから。逆に、先だってあった皇彼方と栄太の件で負傷したあの料理人の彼の怪我はそのくくりではない。だって、本来であればあの世界の住人でない二人が起こしたアレは、起きないはずの出来事だから。その過程でった怪我けがは構わない。でも、君、そんな判断、とっさにできないだろう?」


 レオン様の中で、私はどれだけ頭の悪いヤツなんだろう。

 でも、バカさ云々うんぬんではなくって、あわてちゃって早く治してあげたくなって判断能力が鈍るってことは当然あるかもしれない。いや、ある。


「だから、君がやるべきことは物事を極力力を使わずに済むすべを身につけることだね。でないと君、いつか必ずあの人みたいに罪をおかして一生出られない牢獄に行かされることになるよ。当然、君の大事な人には一生会えないね。それは覚悟しておいた方がいい。でも、さっきも見たと思うけど、のこす者は遺される者の気持ちも考えるべきだからね」
「……あい」


 今までは私の力で助けられるならって、どんな時でも治すからって、簡単に言えたけど。

 これを見て、レオン様の言葉を聞いて、そうも言ってられなくなった。

 神様の力だって、無制限に使っちゃいけないものなんだ。

 だとすると、私に出来ることはなんだろう? 温かく迎え入れてくれた皆のために出来ること。

 考えよう。きっと、あるはずだ。

 ……そうだ。確か、奏様は薬師って言っていたっけ。

 奏様に人間にも使える薬の使い方を教えてもらえたら。そうすれば、力を使わなくても助けられるかもしれない。それに、巳鶴さんのお手伝いもできる。

 うん。我ながらいい考えかもしれない。あとは奏様が引き受けてくれるかだけど。

 一人決心を固めた私を、レオン様は満足そうに笑いながら見下ろしてくる。
 千早様はなんだかよく分からない表情をしているけど、持っているハリセンが飛んでこなかったってことはこの考えは間違っちゃいないんだろう。

 片付けをしてから出るという都槻さんにお礼を言って、私達三人は部屋を後にした。
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