上 下
105 / 314
それぞれの道

6

しおりを挟む


「ねぇねぇ。かおるおにーちゃまのごはん」


 パリィィィィン

 な、なんの音!?

 身体がビクッと飛び跳ねたのを見とがめた薫君が、頭をポンポンと撫でてくれた。そして、膝の上から私を降ろし、音がしたバッグヤードの方へ足早に向かう。
 私もその後を追いかけた。


「ちょっと、何の音?」


 薫君が開けたドアの向こうに、黒木さんと後ろを向いた瑠衣さんの姿が見える。
 ひょっこりと薫君の脚の後ろから顔をのぞかせて中の様子をよくよく見ると、さっきの音の原因だろうお皿が粉々になって床に散らばっていた。


「なにこれ。チビ、そこの線から中に入っちゃダメだからね?」
「あい」


 そう私に言い含めると、薫君は中に入って黒木さん達の間に立った。


「ねぇ、聞いてる? ……なんで泣いてんの?」
「えっ!? るいおねーちゃま、ないてるの!?」


 思わず中に入ろうとした私の身体を、橘さんが後ろから抱き上げた。


「破片がどこまで飛んでいるか分からないので、貴女は入ってはダメですよ。薫さんにも言われたでしょう? 陛下もそちらでお待ちください」
「分かっている」


 帝様も私達の後ろに来ていた。千早様やアノ人はテーブルに着いたままだ。
 瑠衣さんが泣いていると聞き、奏様も椅子から立ち上がり、こちらへとやって来た。


「ちょっと失礼」


 奏様は私達の横を通りすぎ、瑠衣さんの正面に立った。


「ゔぅー」
「大丈夫よ。少しあちらで落ち着きましょう。……こっちは任せて」
「……すみません」


 バッグヤードの奥にある透明な壁で仕切られた、駅にある喫煙者のための小休憩室みたいな部屋に目をつけ、奏様が瑠衣さんの手をひいてそちらに歩いて行った。
 二人が中に入ると、ブラインドで目隠しされ、中の様子は分からない。

 黒木さんは瑠衣さんが中に入るまでその背を黙って見ていたかと思えば、しゃがみこんでお皿の欠片かけらを掃除し始めた。

 “黒木さんが瑠衣さんを泣かせた”

 今までに何度も喧嘩している姿を見てきたけど、いつも勝気な瑠衣さんが涙を見せることなんてなかったのに。


「雅ちゃん。そんなに眉間に皺を寄せないで欲しいな」
「すきなこいじめ、よくないよ」
「いじめてなんかいないよ。これはね、僕達にとっては避けて通れない道なんだよ」
「さけてとおれない? まわりみちもだめ?」
「ずっとそうできたら良かったんだけどね。僕達の回り道はもう終わったんだ」
「うーん」


 黒木さんが言っている意味だけど、恋愛経験とぼしい私にはピンとこない。
 でも、今の事態は私の不用意な言葉が引き金となってしまったことだけは疑いの余地がない。他の人の恋愛話に首を突っ込むとロクなことがないっていうけど、本当だったんだ。

 夏生さん、私、本当に悪い子だ。
 綾芽、私、馬に蹴られて死んじゃうかもしれない。

 そんなことをグルグルと考えていると、黒木さんと一緒に欠片を拾い集めていた薫くんがパンパンっと手を払って立ち上がった。


「別に、泣かせようが何しようが黒木さんなら構わないけど、今度からチビがいる時はやめてくださいね?」
「分かったよ。雅ちゃんも、驚かせてごめんね」
「んーん」
「チビ、お前もこの世の終わりみたいな顔しない」
「あい」


 恋愛ってさ、難しいね。みんなが笑ってできるならいいのにね。
 家族以外にも大好きな人が増えて喜んでいる私程度だと、まだまだ“恋愛”という二文字は早いらしい。

 ほんと、難しいね。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

ファンタジー
妻に先立たれ、酒を浴びる毎日を送り余生を楽しんでいた岡村鉄次郎70歳は、愛刀の鉄佳を月に照らした瞬間異世界に転移してしまう。 偶然ゴブリンキングから助けた皇女シルアに国を立て直すよう頼まれ、第二の人生を異世界で送ることに。 肝臓が悲鳴を上げ寿命が尽きると思っていたのに、愛刀を持てば若返り、自衛隊上がりの肉体はちょっとやそっとの魔物くらい素手でワンパン。あくまで余生を楽しむスローライフを希望するじじいの元にばばあが現れて……? 俺TUEEE改めじじいTUEEE物語が今始まる。 強いじじいと強いばばあ好きな方は是非宜しくお願いします!

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。 大型モンスターがワンパン一発なのも、 魔法の威力が意味不明なのも、 全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ! だから… 俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...