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〇〇喧嘩は犬も食わない
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しおりを挟む目を開けると、最初に綾芽の顔が視界の中へ飛び込んでくる。
いつの間にか横抱きにされ、綾芽の膝の上に座っていた。
「……おはよー」
……うわ、目がショボショボする! 痛がゆいっ!
「あ、起きたん?」
全力で目を擦ろうと、両手をグーにして目蓋の上に当てた途端、大きな手がその手を包み込んできた。
「ダメですよ、それ以上こすっては。今、温かく濡れた布巾を用意してもらいますから、少しお待ちなさい」
「あい」
綾芽の側に座っていた巳鶴さんが、障子の向こうで鈴なりになって様子を窺っているおじさん達に声をかけてくれた。
「あぁあぁ、可愛らしいどんぐり眼がこんなに赤くなって。しようのない保護者ですねぇ。……そうそう。お使いに行ったんですって? 偉かったですね」
「えへへ。……あっ、あやめ」
いけない、いけない。忘れるところだった。
「るいおねぇちゃまのところ、しんさくのパンケーキがでるそうでしゅ。とーってもおいしかったから、またいっしょにいこぉー」
「……もう食べたん? そら楽しみやなぁ」
「あとね、きょうかったやつ、るいおねぇちゃまがね、ぜんぶまとめてとどけてくれるって。だから、うさちゃんリュックのなか、からっぽ」
見て見て、ほら。
だから、買えなかったわけじゃないんだよ?
「ほら、言ったでしょう? この子が一番慕っているのは貴方だと」
「……あーもう、分かりました。分かりましたわ。海斗、そんな笑わんでや」
「くっ、くくく……これが笑わずにいられるかってーの。お前だって、満更でもねーくせに」
なになに、私もお話しいれてー。
あっ! いけない、もう一個言い忘れてた。
「あやめー」
「なんや?」
「おつきみね、るいおねぇちゃまもくるって! いっしょにおだんごつくろうって!」
「はぁー。また薫が荒れるんやなぁ」
薫くんてば、瑠衣さん相手だと、ツンデレのツンのところばっかりしか見せないもんねぇ。たまにはデレてるところも見てみたい、と思うけど、行動には起こせない。
だって、その後の食生活がかかってるもの。一時の欲求よりも、三大欲求のうちの一つを満たす方が大事でしょう?
なるほど。これぞまさしく胃袋を掴まれた状態。違う?
「でも、みんないっしょだとたのしいねぇ」
「はいはい」
綾芽は自分の膝の上で仰向けになっている私のぽんぽこまぁるいお腹をポンポンと叩き始めた。
むぅ。また寝かしつけに入ってます?
もう眠くないから、お昼寝はもうじゅうぶん!
そこへおじさんが温かい濡れタオルを持ってきてくれて、綾芽に手渡した。
「ほら、黙ってジッとしとかな。お利口さんなんやから、できるやろ?」
「あい」
きーもちーぃ。
あ、これヤバいやつ。また寝、そ、う……負けた。
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