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人は見た目によらない
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なんだか鼻をくすぐるいい香りがする。
なんだろう? 甘くて、美味しそうで。
「ほんまや」
遠くから綾芽の声がした気がする。
でも今は、この甘いいい香りのする方へ……
ぱくっ
「ちょっ! おまっ! 食い意地張ってんなぁ!」
「海斗、昼寝の邪魔せんといてやらな、可哀想やん」
「だ、だってよぉ。劉からあんなこと聞いたら試さずにはいられないだろ」
綾芽と沢山あるお仕事を分担してこなしてる海斗さんの声もする。
初めて綾芽と会った時、綾芽を呼びに来たのが海斗さんだった。
歳も綾芽と近く、二十代前半と聞いている。けれど、精神年齢はどちらかというと今の私寄りだと思う。ちょっと、というかだいぶお調子者で、面白い事やイベント事が大好き。このお屋敷で何かしら起きる時、そこには大体彼の影があるそうな。そのせいか、綾芽と同じくらいよく夏生さんに怒られている。
その海斗さんが劉さんから何事かを聞いて、いつものごとくやってみた、と。
それよりも、口にくわえたナニカがすごく甘い。口の中の温度でとろりと溶け出し、より一層濃厚な甘さが広がっていく。
――あぁ、これは。
「ちょこれぇと」
目を開けると、布団のすぐ横で海斗さんが私の口元へ指を差し出している。その指に摘ままれているのは、彼の髪と同じ焦げ茶色の四角い……やっぱりチョコレートだった。
むくりと身体を起こし、チョコを持っている手ごとガブッとくわえてやった。
私で遊んだ罰だ! さぁ、その手に持っているチョコを箱ごともらおうか!
「ちょ、保護者、こいつなんとかしてくれ!」
「うぅーっ」
「唸り声あげるとか! ほんと小動物じゃねーか!」
海斗さんはすぐ側の壁際で本を読んでいる綾芽に助けを求めた。けれど、口から出た言葉に反して笑顔のままだ。
うん。これは全く、反省のはの字も見られない。続行です。
「そこらへんにしとき」
「うぇー?」
「あんまりくわえたままやったら、危ない菌がうつるで」
「……」
よほど読んでいる本が興味深いものなのか、綾芽は一切顔を上げず、ただ私にそう言い放った。
ぱち、ぱち、と。しっかり瞬き二回分ののち。ぎょっとしている海斗さんの指をそっと口から離した。
「こら、こらこらこら! ちょっと待て! 俺はなんの菌も持っちゃいねーよ!」
「かいと、ふけつー?」
「……あーやーめぇー」
恨めしそうに綾芽を見る海斗さん。当然気付いているだろうに知らんぷりの綾芽。どちらの味方になった方が正解か、子供にだって分かる。
ささささっと綾芽の横に移動し、ちょこんと座る。それからばっちぃものを見る目でじぃっと海斗さんを見てみた。
「な、なんだよ。その目は」
「……」
子供っていうのは、時に世界で一番残酷な生き物にさえなってしまえるのだ。その恐ろしさが、海斗さん、貴方はまだまだ分かってない。
さっきよりも目に見えて格段にショックを受けている海斗さんに、これは、と内心にやけてくる。
食べ物を食べられた恨みも恐ろしいけど、食べ物で遊ばれた恨みも恐ろしいんだよ? むふん。以後、重々お気をつけあれ?
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