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おにはうち ふくもうち

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「ーーーーーよ!」


 んん? なにやら奥が騒がしいような。知らない女の人の声?
 あっちは正面玄関だから、誰かお客さんでも来たのかなぁ?

 だぁれ?と聞こうと蒼さんと茜さんの方を見ると、二人とも渋柿しぶがきを食べたみたいなお顔をしていらっしゃる。

 持ち前の好奇心がむくむくいてきて、玄関の方へ足を向けた。


「あっ、雅ちゃん!」
「ちょっと! そっちは今はダメ!」


 ふむ。ダメと言われればなおさらのぞき見したくなるのが子供の常。
 ただし、見た目は子供、頭脳は大人……なぁんて見栄みえははらない。普通に女子高生の私。本当にダメなものには近寄りません。そして、これは本当にダメなやつ。

 後ろ髪引かれるけど、泣く泣くあきらめましょう。


「申し訳ございません! 本日の会議の参加者は招かれた者のみと決められております! ですので、宮へお戻りを!」
「わたくしに指図さしずする気!?」


 ……あらま。向こうからやってきたよぅ。
 これはノーカン、で、いいんですよね?


「雅ちゃん! こっちへ!」
「は、はいっ」


 茜さんに手を引かれ、近くのお部屋に駆け込んだ。蒼さんはそのまま廊下に残っている。
 すぐにまた女の人の声が聞こえてきた。


「ちょっと、そこのあなた。女狐の息子はどこ?」
「……申し訳ございません。僕はそう呼ばれる方を知りませんし、今日は……っ」
櫻宮さくらのみやさま! なんてことをっ!」


 怒りを抑えたような低い声で答える蒼さんの声が、何か固い物が何かに打ち付けられたような甲高い音にさえぎられた。南のお兄さんの慌てた声も聞こえてくる。
 畳に膝をついていた茜さんもヒュッと息を飲み、立ち上がりかけた。けれどもグッとえ、茜さんの手が私の手を探して彷徨さまよう。


「口答えするなんて、いいご身分ね! 聞かれたことだけに答えればいいのよ! 自分の立場をわきまえなさい!」
「……申し訳ございません」


 ……いやぁ、考えるよりも身体がさ、先に勝手に動くってあるよね。仕方ないんじゃないって思うんだよ。だって、こういうの、何回目だよって。


「……あなた、今」
「……」


 扇子せんすを手に持った女の人と蒼さんの間に割り込んだ私を、女の人は驚いた表情を浮かべて私を凝視してくる。いきなり現れたんだからそれも仕方ない。

 それを気にせず、ニコッと笑って見せた。


「わたし、みやびっていいます。おねぇさん、だぁれ?」
「……わたくしのことを知らないなんて……まぁ、いいわ。わたくしはこの国の第一皇女、櫻宮よ」


 つまり、帝様のお姉さまか妹さまってことだね。

 本当ならかしこまらなければいけないんだろうけど……ほら、私、よくこの世界のことを知らないお馬鹿ちゃんだから、さ。

 大好きな人に害を与えるような人に対する敬意なんてもの、残念ながら持ち合わせてはおりません!


「おねぇさん、かわいそう」
「は?」


 眉を下げ、しょんぼりとして見せる。

 うーん。我ながらわざとらしい。

 これでこの場に海斗さんやら綾芽やらがいたら“なにやってんだお前”とか不審ふしんな目で見られただろうけど、今、この場にはいません。なので、やり放題って言えばやり放題。

 大丈夫。女の人はみんな女優。私も今から女優になる。


「だって、わたし、ここにきたとき、みんなからよくきたねーっていわれてかんげいされたよ? おねぇさんは? だれかかんげーしてくれた?」
「なっ! わたくしが誰にも歓迎されてないとでもいいたいの!? この、わたくしが!」
「えっ!? かんげーされてるとおもってたの!?」


 割と本気でびっくりして見せたら、女の人、櫻宮さまの肩がフルフルとふるえだした。お顔も色白だから余計に分かるけど、真っ赤っ赤。


「雅ちゃんが薫に毒されてる……」
「蒼、大丈夫?」
「あ、あぁ。そんなことより、嫌味を言うことを覚えてしまったなんて」


 蒼さん、薫くんは関係ない……と、思うよ? たぶん。

 私を追いかけて出てきた茜さんが扇子の跡がつくほど強く打たれた蒼さんの頬を心配してるけど、当の蒼さんはそれどころじゃないらしい。そんなこと呼ばわりされている。

 おっと、いけない。今は目の前に集中集中。

 あ、でも、会話が続くはずのヤツを無視するのも手だってかお……本人の名誉めいよのために黙っておこう。薫くんは関係ない。関係ないからね、蒼さんと茜さん。だから、そんな目で見ちゃイヤです。


「……っ!」


 プライドを刺激された櫻宮さまが私に向かって持っていた扇子を振り上げ、勢いよく振り下ろしてくる。顔は般若はんにゃの面でもかぶっているのかと思うくらいの怖い顔。

 でもね、般若のお面は夏生さんで見慣れてる。

 それに。


「きゃっ!」
「この屋敷内で私の配下とその子供に手を出すのはやめていただきたい」


 どこから見ていたのか分からないけれど、鳳さんが櫻宮さまの背後に回って、扇子を持ってる手から扇子を奪ってくれた。そのさらに後ろには、帝様と、橘さん、凛さんまで顔をそろえてる。


「こんな小さな子にまで手を上げるとは……我が妹ながらなんとおろかな」
「お兄様! わたくしはただ、礼儀知らずな子供をしつけけてさしあげようと」
「ならば、親代わりとして、私もお前を躾け直さなければいけないようだな。今日ここへ来ることは許可していない。今すぐ宮へ帰るがいい」
「何故ですか! 何故わたくしだけが自由にすることを許してはくださらないの!?」
「……」


 そっと誰かが目隠しをしてきた。

 でも、ほんの少しだけ遅かった。
 大きな手に覆われる前に垣間見えた帝様の目は、とてもじゃないけど血の繋がった妹に向けるような目ではなかった。


「二度は言わん」
「お兄様! ……嫌よ! 離しなさい! 離しなさいと言っているのが聞こえないの!?」


 最後まで食い下がっていた櫻宮様だけど、帝様が鳳さんに命じて、その鳳さんが呼んだ人に連れて行かれるみたい。

 暴れているらしくバタバタと足音を立てていた櫻宮様が急に大人しくなった。


「……そなたもあわれと言えば憐れ、か」


 そう漏らした帝様の声はなんの感情も乗せられていない。初めて聴く声音だった。
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