213 / 314
おにはうち ふくもうち
6
しおりを挟む「ーーーーーよ!」
んん? なにやら奥が騒がしいような。知らない女の人の声?
あっちは正面玄関だから、誰かお客さんでも来たのかなぁ?
だぁれ?と聞こうと蒼さんと茜さんの方を見ると、二人とも渋柿を食べたみたいなお顔をしていらっしゃる。
持ち前の好奇心がむくむく湧いてきて、玄関の方へ足を向けた。
「あっ、雅ちゃん!」
「ちょっと! そっちは今はダメ!」
ふむ。ダメと言われればなおさら覗き見したくなるのが子供の常。
ただし、見た目は子供、頭脳は大人……なぁんて見栄ははらない。普通に女子高生の私。本当にダメなものには近寄りません。そして、これは本当にダメなやつ。
後ろ髪引かれるけど、泣く泣く諦めましょう。
「申し訳ございません! 本日の会議の参加者は招かれた者のみと決められております! ですので、宮へお戻りを!」
「わたくしに指図する気!?」
……あらま。向こうからやってきたよぅ。
これはノーカン、で、いいんですよね?
「雅ちゃん! こっちへ!」
「は、はいっ」
茜さんに手を引かれ、近くのお部屋に駆け込んだ。蒼さんはそのまま廊下に残っている。
すぐにまた女の人の声が聞こえてきた。
「ちょっと、そこのあなた。女狐の息子はどこ?」
「……申し訳ございません。僕はそう呼ばれる方を知りませんし、今日は……っ」
「櫻宮さま! なんてことをっ!」
怒りを抑えたような低い声で答える蒼さんの声が、何か固い物が何かに打ち付けられたような甲高い音に遮られた。南のお兄さんの慌てた声も聞こえてくる。
畳に膝をついていた茜さんもヒュッと息を飲み、立ち上がりかけた。けれどもグッと堪え、茜さんの手が私の手を探して彷徨う。
「口答えするなんて、いいご身分ね! 聞かれたことだけに答えればいいのよ! 自分の立場をわきまえなさい!」
「……申し訳ございません」
……いやぁ、考えるよりも身体がさ、先に勝手に動くってあるよね。仕方ないんじゃないって思うんだよ。だって、こういうの、何回目だよって。
「……あなた、今」
「……」
扇子を手に持った女の人と蒼さんの間に割り込んだ私を、女の人は驚いた表情を浮かべて私を凝視してくる。いきなり現れたんだからそれも仕方ない。
それを気にせず、ニコッと笑って見せた。
「わたし、みやびっていいます。おねぇさん、だぁれ?」
「……わたくしのことを知らないなんて……まぁ、いいわ。わたくしはこの国の第一皇女、櫻宮よ」
つまり、帝様のお姉さまか妹さまってことだね。
本当なら畏まらなければいけないんだろうけど……ほら、私、よくこの世界のことを知らないお馬鹿ちゃんだから、さ。
大好きな人に害を与えるような人に対する敬意なんてもの、残念ながら持ち合わせてはおりません!
「おねぇさん、かわいそう」
「は?」
眉を下げ、しょんぼりとして見せる。
うーん。我ながらわざとらしい。
これでこの場に海斗さんやら綾芽やらがいたら“なにやってんだお前”とか不審な目で見られただろうけど、今、この場にはいません。なので、やり放題って言えばやり放題。
大丈夫。女の人はみんな女優。私も今から女優になる。
「だって、わたし、ここにきたとき、みんなからよくきたねーっていわれてかんげいされたよ? おねぇさんは? だれかかんげーしてくれた?」
「なっ! わたくしが誰にも歓迎されてないとでもいいたいの!? この、わたくしが!」
「えっ!? かんげーされてるとおもってたの!?」
割と本気でびっくりして見せたら、女の人、櫻宮さまの肩がフルフルと震えだした。お顔も色白だから余計に分かるけど、真っ赤っ赤。
「雅ちゃんが薫に毒されてる……」
「蒼、大丈夫?」
「あ、あぁ。そんなことより、嫌味を言うことを覚えてしまったなんて」
蒼さん、薫くんは関係ない……と、思うよ? たぶん。
私を追いかけて出てきた茜さんが扇子の跡がつくほど強く打たれた蒼さんの頬を心配してるけど、当の蒼さんはそれどころじゃないらしい。そんなこと呼ばわりされている。
おっと、いけない。今は目の前に集中集中。
あ、でも、会話が続くはずのヤツを無視するのも手だってかお……本人の名誉のために黙っておこう。薫くんは関係ない。関係ないからね、蒼さんと茜さん。だから、そんな目で見ちゃイヤです。
「……っ!」
プライドを刺激された櫻宮さまが私に向かって持っていた扇子を振り上げ、勢いよく振り下ろしてくる。顔は般若の面でもかぶっているのかと思うくらいの怖い顔。
でもね、般若のお面は夏生さんで見慣れてる。
それに。
「きゃっ!」
「この屋敷内で私の配下とその子供に手を出すのはやめていただきたい」
どこから見ていたのか分からないけれど、鳳さんが櫻宮さまの背後に回って、扇子を持ってる手から扇子を奪ってくれた。そのさらに後ろには、帝様と、橘さん、凛さんまで顔を揃えてる。
「こんな小さな子にまで手を上げるとは……我が妹ながらなんと愚かな」
「お兄様! わたくしはただ、礼儀知らずな子供を躾けてさしあげようと」
「ならば、親代わりとして、私もお前を躾け直さなければいけないようだな。今日ここへ来ることは許可していない。今すぐ宮へ帰るがいい」
「何故ですか! 何故わたくしだけが自由にすることを許してはくださらないの!?」
「……」
そっと誰かが目隠しをしてきた。
でも、ほんの少しだけ遅かった。
大きな手に覆われる前に垣間見えた帝様の目は、とてもじゃないけど血の繋がった妹に向けるような目ではなかった。
「二度は言わん」
「お兄様! ……嫌よ! 離しなさい! 離しなさいと言っているのが聞こえないの!?」
最後まで食い下がっていた櫻宮様だけど、帝様が鳳さんに命じて、その鳳さんが呼んだ人に連れて行かれるみたい。
暴れているらしくバタバタと足音を立てていた櫻宮様が急に大人しくなった。
「……そなたも憐れと言えば憐れ、か」
そう漏らした帝様の声はなんの感情も乗せられていない。初めて聴く声音だった。
0
お気に入りに追加
823
あなたにおすすめの小説
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない
凜
ファンタジー
妻に先立たれ、酒を浴びる毎日を送り余生を楽しんでいた岡村鉄次郎70歳は、愛刀の鉄佳を月に照らした瞬間異世界に転移してしまう。
偶然ゴブリンキングから助けた皇女シルアに国を立て直すよう頼まれ、第二の人生を異世界で送ることに。
肝臓が悲鳴を上げ寿命が尽きると思っていたのに、愛刀を持てば若返り、自衛隊上がりの肉体はちょっとやそっとの魔物くらい素手でワンパン。あくまで余生を楽しむスローライフを希望するじじいの元にばばあが現れて……?
俺TUEEE改めじじいTUEEE物語が今始まる。
強いじじいと強いばばあ好きな方は是非宜しくお願いします!
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。
さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。
大型モンスターがワンパン一発なのも、
魔法の威力が意味不明なのも、
全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ!
だから…
俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる