上 下
180 / 314
新年準備は人も人外も忙しなく

4

しおりを挟む

「あぁ、待ってたよ」


 厨房に行くと、薫くん達料理人さんがせっせとおせちの準備をし始めていた。

 そっか、栗! 栗きんとん!


「お疲れさま」


 近くにいたおじさんに餅が入ったボウルを渡す。

 何かお手伝いできるようなこと、あるかなぁ?


「つまみぐいはダメだよ」
「ち、ちがうよ!」


 ジッと机の上に置いてある重箱を見ていたものだから勘違いされたらしい。そっとくぎされた。

 いや、確かに美味しそうだなぁとは思ってるけども。


「かおるくん、わたしもなにかしたいなぁー」
「え? あー……じゃあ、そこで待ってて」


 今までやっていた作業を隣にいたお兄さんに申し送り、厨房から食堂の方へ出てきた。
 その手には小さな赤い割烹着かっぽうぎにぎられている。


「粉で服が白くなっちゃうから、これ着て」
「む。……ありがとー」


 肩からかけてるポンチョもどきをぎ、今度は割烹着にお着替えですね。了解です。

 薫くんがてきぱきと着替えを手伝ってくれるおかげでさっさと準備を済ませることができた。

 その間に別のおじさんが机の上に大きな底の浅い桐箱きりばこを用意している。そしてその上にうすーく粉をまぶし始めた。


「はい、この椅子いすの上に立って」
「あい」


 薫くんが引いてくれた椅子の座る部分に手をかけ、足を上げ……上がらぬ。
 私、そういえば身体固いんよ。


「……あ、そっか」


 後ろを向いておじさん達に指示を出していた薫くんが振り返り、私の窮状きゅうじょうを察知。抱っこして引き上げてくれた。


ちぢめるくらいなら身体の大きさ選べればいいのに」
「……ねー」


 私もすごく思います。


「じゃあ、まずは正月飾り用の鏡餅作るから。この型に餅を入れて、桐箱の上でクルクル回して。固まったなぁって思ったら言って」
「はーい」


 ちぎったお餅をホールケーキの型みたいなやつに入れてもらい、薫くんに言われた通りクルクルと回していく。たまに粉をまぶし、さらにクルクル。

 どうでもいいけど、この粉、とっても手触りがよくて気持ちいい。ちょっと脱線して粉を触りまくってたら、薫くんのひじが私の頭に振り下ろされた。


「遊ばない」
「あい」


 クスクスと笑う声が厨房からも聞こえてくる。

 肘で叩かれたことを笑われてるのかとそちらに目を向けると、おじさんがつんつんと自分の鼻の下を指している。

 鼻の下?

 手は粉まみれだから腕で鼻の下をぬぐうと、無意識のうちに触っていたのか、白い粉がばっちりついていた。

 うぅむ。……恥ずかし。


「早くしないと次も来るからね」
「えっ。……あ」


 薫くんが言ったそばから新しいお餅が運ばれてきた。なかなかのスピードでついてるらしく、どんどん運ばれてくる。

 どんどん、どんどん、どんどんどんどんどんどん……。


「……ちょっと、早すぎない? 人手が足りないんだけど」


 四回目にお餅を持ってきた綾芽にとうとう薫くんからお小言が入った。
 本当はもっと早く言いたかったんだろうけど、それを言わさぬ、というかそれを自分には言われたくないくらいペースが速い自覚はあったのか、持ってきた人達は皆足早に去っていた。
 綾芽は仕事を免除されてるからそのまま居座いすわろうとしていた。それでしっかりと薫くんのお小言を聞かされる羽目はめになったのだ。


「苦情は海斗へ言うてくれます? 自分、持ってきただけなんですわぁ」
「ちょっとは頭使ってペース考えてからついてって言って。そうしないと固くなるでしょ。こんな大きなかたまり、そのままなべに入れるなんてことしたくないからね」


 塊そのままは嫌だなぁ。

 えーっと不満そうにしている綾芽は動きそうもない。

 仕方ない。代わりに伝書鳩でんしょばとになろう。


「わたし、いってきましゅ。……いってきます!」
「わざわざ言い直さなくてもいいから。よろしく」


 だって、ほら、羞恥心しゅうちしんってものをいくら私でも持ち合わせているものなんですのよ、薫くん。

 スルーして欲しかったなぁと思いつつ、降りるときは簡単だからそのまま床へジャンプ。

 私の代わりに綾芽へ餅を寄越よこしている薫くんから転ばないように注意を受けながら、再び裏庭へ走った。

 もちろん転んだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

転生幼女の引き籠りたい日常~何故か魔王と呼ばれておりますがただの引き籠りです~

暁月りあ
ファンタジー
転生したら文字化けだらけのスキルを手に入れていたコーラル。それは実は【狭間の主】という世界を作り出すスキルだった。領地なしの名ばかり侯爵家に生まれた彼女は前世からの経験で家族以外を苦手としており、【狭間の世界】と名付けた空間に引き籠る準備をする。「対人スキルとかないので、無理です。独り言ばかり呟いていても気にしないでください。デフォです。お兄様、何故そんな悲しい顔をしながら私を見るのですか!?」何故か追いやられた人々や魔物が住み着いて魔王と呼ばれるようになっていくドタバタ物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...