籠ノ中ノ蝶

綾織 茅

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第四章―偶然という名の必然―

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◇ ◆ ◇ ◆



「よっし! 次はあれだ! 行こう!」
「はいっ!」


 中澤先生とジェットコースター巡り、楽しいっ!

 予想通り2位を大差で引き離しての優勝だった私達は体育祭、後夜祭をまだかまだかという思いで終了させ、振り替え休日の金曜日に例の複合型テーマパークに来ていた。

 本来なら平日なので、お客さんも休日程多くない。

 つまり、アトラクションに乗り放題!

 みんなそれぞれショッピングだったり、映画だったり、思い思いの場所で過ごしている。


「行くぞー、行くぞー……うはぁぁぁぁっ!」
「きゃあぁぁぁぁっ!」


 途中まで一緒に乗ってくれていた依理が“もう無理”と言いだし、乗りたい気持ちを持て余していた所に中澤先生を発見。

 中澤先生にも一緒に回ることになって今に至っている。


「あぁー楽しかった」
「お帰り」
「ただいまー。依理も乗ればよかったのに。これ、面白かったよ?」
「全部クリアしようと意気込んでる奴に付き合ってたら、体いくつあっても足りないわよ」


 呆れたような目を向けられてしまった。

 せっかくのフリーパスなんだし、もったいないじゃん?

 あんなに頑張って働いてとった優勝商品なんだし。


「次はどれにいくの?」
「うーん」


 依理が広げていた地図を覗き込み、“占いの館”なんていうものを見つけた。


「これ行ってみよーよ」
「“占いの館”? どうせ当たらないわよ」
「分かんないよ? ためしにさ、行こうよ」
「はいはい。分かったから、袖を引っ張らないで」
「先生はどうしますか?」
「私はいいや。ちょっとここで休憩」


 そう言って中澤先生は近くにあったベンチに歩いていった。

 “占いの館”はここから歩いて数分くらいの所にある。

 私達はそこを目指した。


「なんか暗いね」
「演出でしょ」


 ……依理がいれば肝試しも怖くないだろうね。

 淡々と状況説明を現実的に解説してくれそう。

 お化けとかも自信無くしそうだもん。

 “占いの館”の中はいくつかの部屋が幕でしきられ、灯りもポツンポツンとあるだけだった。


「お一人ずつ部屋の中にお入り下さいませ」


 壁にあるスピーカーから女の人の声がした。

 何か緊張するなぁ。


「小羽、ほら」
「え、あ、うん」


 依理に背中を押され、私は部屋の中に入った。


「いらっしゃぁい」
「うわっ!」


 女の人に横から抱きしめられ、あわや窒息寸前までなってようやく解放してくれた。


「ようこそ“占いの館”へ。主のシリルよぅ」


 部屋の中には机を挟んで二つの椅子が置いてあった。

 シリルさんが奥の椅子の横には立ち、手招きされ、私も向かいの椅子に腰を下ろした。


「今日は何を占えばいいのかしらん?」


 シリルさんはどこからかタロットカードを取出し、机の上にそっと置いた。

 タロットカード占いって実際に見るの初めてだなぁ。


「えっと……この頃色々大変な事ばっかり続いているんです。だからこれからどうなるのかなって」
「要するに、自分の未来を知りたいってことなのねん?」
「はい」
「いいわよん。ちょっと手伝ってもらうわねん?」


 シリルさんは私の手を取り、その上から自分の手を重ね、カードを混ぜ始めた。

 緊張の度合いが……ますます上がってる。

 いい結果がでますよーに!


「いい? 自分が知りたいことを強く念じてねん。雑念は駄目よぅ」
「は、はい」
「……もういいわよん」


 シリルさんは手を止め、カードを3枚並べた。


「これがあなたの未来を表すカードよぅ」


 私はごくりと唾を飲み込み、シリルさんの手元を覗き込む。

 裏返されたのはあまりいいカードではなかったらしい。

 シリルさんはすぐには結果を教えてくれなかった。


「……“塔《タワー》の逆位置”」
「シリルさん?」
「あ、ごめんなさいねん。あなたの未来には波乱が待ち受けているわよぅ」
「波乱、ですか?」
「嘘をつかれて罠にはまってしまうみたーい。圧力がかかって、誤解を招いてしまうこともあるわよぅ」
「そ、そうなんですか」


 嘘で罠に……誤解を?

 最悪だよ。

 あまりにも悲壮な顔をしていたのか、シリルさんが明るい声で


「占いは占い。あなたの行動次第でいくらでも変われるわよん」


 と言って励ましてくれた。

 その言葉にいくらか気分も持ち直し、シリルさんにお礼を言ってから部屋から出た。


「依理、次いーよー」
「私はいいわ。で? どうだったの?」


 依理が出口の幕を捲り上げながら尋ねてきた。


「……あんまり良くなかったけど、あ、未来を占ってもらったんだけどね? でも、占い師さんが私の行動次第でいくらでも変われるって」
「そう。良かったじゃない」
「うん」


 この時、私は知らなかった。

 あのタロットの三枚。

 あれは私の過去、現在、未来を表していた。

 そして現在のカード。

 “運命の輪の逆位置”

 意味は……


『運命からは逃れられない』


「可哀相な子。……奴らに見つかるなんて」


 死神のカードを手に彼女は口元に微かな笑みを浮かべていた。


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