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第四章―偶然という名の必然―
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「みんな。よーく聞け?」
葛城君が模擬店が始まる前にクラスのみんなを集めて、こう切り出した。
「今年の生徒会長はやり手だ。去年までより学園祭にかかる費用が笑えるぐらいかからなかった。もちろん質を落とすなんてことはありえないけどな。……そこでだ」
みんなは葛城君の口から出てくる次の言葉を待った。
それというのも、学園祭が始まる前からまことしやかに生徒達の間に流れていた噂が原因だ。
「今年は模擬店での優勝クラスには豪華賞品が与えられることになった。知りたいか?」
「焦らすなよ!」
「葛城君、早く早くっ!」
葛城君、人心操作上手いね。
みんなを焦らしに焦らし、やっと葛城君はソレを告げた。
「この間できたばかりの複合型テーマパークの終日フリーパスだ!」
この時、どこのクラスからも似たような歓声があがった。
どうやら同じ時に発表していたらしい。
というのも、その複合型テーマパーク。
従来の遊園地要素に加え、ありとあらゆる娯楽施設を取り揃えている。
誰もが一度は行ってみたいと、今から大人気のスポットなのだ。
そこの終日フリーパス。
みんなが色めきたつのも無理はなかった。
キラキラを通り越してギラギラと目が輝いている。
みんな必死だなぁ。
……ん?
依理、何してるんだろう?
自分の机で何かを切っている依理に気づき、そっちへ足を向けた。
黙々と作業している依理は結構珍しい。
すぐ飽きたとか言って放り出しちゃうからなぁ。
何だかんだ最後までやりはするけど。
「依理、何切ってるの?」
「このクラスのチラシよ。私、そのテーマパークには全く興味ないけど、やるからには優勝しなきゃ」
……そうだ、忘れてた。
依理、すっごい負けず嫌いだった。
依理の頭の中では優勝一筋で、テーマパークのフリーパスはおまけもおまけ。
それくらいの認識に違いない。
いつもは気だるそうにしてるのに、何でこういう時だけ行動的になるの?
「はい、これ持って。……何してんの、早く着替える」
「え? 私、午後から」
「問答無用」
着替え専用にカーテンで区切った所に引っ張っていかれ、無理矢理制服を剥かれた。
く、くすぐったい。
「ちょ、ちょっと……うひゃあぁっ!」
「変な声出さない」
「だって!」
「はい、これ着て」
「……あぁ、もう! 分かったから!」
こうなってしまえば後は自棄だ。
どうにでもなれ!
依理から渡された白い着物を着て、帯を締めた。
うん、丈は合ってるかな。
靴下を脱ぎ、真新しい下駄を履く。
「はい、できました」
もう完全に投げやりだ。
第一、雪女に決まったのも流れだったし。
元々、私は裏方の調理担当になるつもりだったのに……。
依理は私の全身をくまなくチェックし始めた。
「小羽は色白いから、化粧はいいわね。よし、完成。はい、チラシ袖の中に入れて」
……なるほど。
だから小さく作ってたのか。
着物の袖に入れやすいように。
客寄せパンダにする気だったんだね。
……私がやっても絶対効果ないと思うけどなぁ。
依理がやったら芋づる式に集められそうなものを…。
「何むくれてんのよ。私も一緒に回るから」
「……依理は制服のまんまでしょ? 私、この格好で回るの恥ずかしいよ」
依理は女子高生の幽霊で、お化け喫茶の衣装ぎりぎりの所だし。
それでもみんな納得するというね。
まったく……口達者なんだから。
その時、私の携帯が制服のポケットで鳴った。
「もしもし?」
『あ、もしもし? 俺』
「……私の知り合いに俺という人はいません。オレオレ詐欺ですか? ちなみに詐欺師の知り合いもいません」
『何かやさぐれてんな。日向だよ。お前の弟だ』
呆れたような日向の声が電話の向こうから聞こえてきた。
周りがガヤガヤと騒がしい。
「どうしたの? 今、ちょっと忙しいんだけど」
『今日、桜嶺の学園祭に来てんだけど。案内して』
「えーっ。パンフレットに地図ついてるじゃん」
『いや、俺はいいんだけどよ。……その、あれだ』
日向が珍しく口籠もっている。
どうしたんだろう?
悲しいかな。
姉に対して何の遠慮もない弟なのに。
今日は大雨に雷なのかな?
……あ、洗濯物干しっぱなしだ。
もう一回洗い直すの嫌なのになぁ。
『あの、よ……』
急に日向の声が小さくなった。
『実は……悠真さんと一緒なんだよ』
「え!? ゆ
『しーっ!』
慌てて自分の口を自分で塞いだ。
依理は訝しげに見てくるだけで、私の脱いだ制服を畳んでくれてる。
危ない、危ない。
悠真さんっていうのは依理のお兄さん。
多少……いや、かなりシス……妹を大事にしてる人。
某有名国立大学を卒業して渡瀬コーポレーションの後継ぎとして頑張っている。
何ていうか……依理のお兄さんだけあって格好いいんだけど……残念な人っていうか。
彼女より大事にしちゃうんだよね。
そのせいで依理、歴代の彼女さん達に目の敵にされてるって。
「日向、悠真さん連れてきたらまずいよー。依理、物凄く怒るよ?」
『だって仕方ないだろ? すっげぇ泣きつかれたし。何か別に約束があったみたいで、俺の目の前で軽く修羅場ってたし』
新しい彼女さんと一悶着かぁ。
想像できちゃうのが、ね。
本当にすごい。
どうやらもう二人は桜嶺についているらしい。
道理でガヤガヤ具合が似ているわけだ。
「分かった。丁度今からチラシ配りに回るから、その時一緒に案内するよ」
『あぁ。サンキュ』
「で? どこにいるの?」
『えーっと……中央玄関だな』
「じゃあ、迎えに行くからそこで待っててね?」
『おぅ』
電話を切ると、依理の方をチラリと見た。
依理は悠真さんのこと、めちゃくちゃ邪険にしてる。
そりゃあ、あれだけ構われてればそうなる気持ちも分からなくもない。
構われすぎると逆にうっとおしく感じるって前に言ってたし。
……よし、黙って連れてこ。
「依理、日向が来ててね。案内して欲しいって」
「へぇ。今日日曜だしね。じゃあ行くわよ」
「はーい」
バレたら怖い。
その時は……悠真さんの日頃の行いが悪い。
大丈夫よ。
私は日向を案内しに行くだけなんだから。
私は必死に自分の保身の言葉を頭の中で繰り返し唱えた。
「チラシ配ってくるねー」
「行ってらっしゃーい」
「よろしくー」
教室を出て私達は日向達がいる中央玄関に行った。
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