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隣国でのオタノシミ

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◆◇◆◇



 まさかの事態を迎えた婚約破棄イベントが終わり、私達は国に帰ってきた。
 ステラシアとは手紙を書くからねと言って泣いて別れましたよ。

 別れ際に新しく王太子となったキドラク殿下に

「今度じかにお会いするのは我々の婚約式になるでしょうね」

 そう言われていた時のステラシアの顔は絶望に染まり、それを見てキドラク殿下はイイ笑顔で笑っていた。


「サーヤ! お帰りなさい!」
「ただいま。いい子にしてたか?」
「うん!」


 王宮の入り口につけられた馬車から降り立つと、ジョシュアとミハエル、エンリケが出迎えてくれた。


「ご苦労様でした。万事つつが無く行えております」
「そうか。お前もご苦労だった」


 リヒャルトの代わりに神殿騎士をまとめていたのはエンリケだったようだ。彼は得物さえ持たなければすごく気弱な青年なのに……刀や銃、その他諸々の武器を持つだけで人格豹変ひょうへんする。
 死の番人程ではないにしろ、戦闘大好きっ子になるだなんて……どんな幼少期を送ってきたのか少々心配になるよ。


「ほら、渡すんだろう?」
「う、うん」


 ミハエルに何やら促され、途端にもじもじしだすジョシュア。激カワです。なに、なんなの? 何を渡してくれるの? ていうかジョシュアからもらえるもんならなんでも嬉しいんだけど。


「これー」
「ん?」


 しょうたいじょう? 招待状か?

 ジョシュアの筆跡だからこれはジョシュアが書いたものに間違いないとして……なんの招待状だ?

 ミハエルを見ると黙ってニコリと笑っている。……なんか自分は全て分かってますから的な微笑みむかつく。


「そういえば今日はユートリアの日でしたね」
「ユートリアの日?」


 ユートリアの日って確か……あ。異世界版母の日。
 ごめんよ、お母さん。こんなにも子供からの贈り物って嬉しいものだったなんて。いっつも何事もなく終えてたもんなぁ。


「今日は僕がご飯作るからね!」
「うん、ダメです」
「えっ!」
「え?」


 だって料理ってなかなかに怪我の心配とか火傷の心配とかあるんだよ? キッチンは女の戦場とはよく言ったもんだ。そんなヒヤヒヤさせられる状態で私がなんの手も出さずにいられると思うか? 思いません。

 ジョシュアもまさか断られると思っていなかったのか口をパカッと開けて私を見上げている。でも次第に言葉の意味を理解したのか泣く三十秒前くらいの顔をしてきた。そんな顔をしてもダメなものはダメです。


「ひ、一人っきりじゃなくとも、誰かと一緒にやればいいのでは?」
「私がやってもいいのか?」


 ジョシュアはフルフルと首を横に振った。なんだ、このフられました感。


「シン、一緒に……」
「神様をそんなことに使うんじゃないよ」
「……はぁい」


 そんなこと……料理よりもさらに下らないことに使ってるけどね。お使い行ってきてとか、留守番とか。言わなきゃ分からんから黙っとこう。

 そしてシン、ちょっと感動したみたいな顔やめろ。バレるやろ。


「王宮の料理長に頼んでみましょうか。彼ならジョシュアでもできるような簡単な料理を知っているでしょうし」
「なるほどね。それなりに厨房も広いから邪魔にもならないし」


 魔王サマ達の言うお願いは常ならば脅迫といってお願いとは言い難い。だけどそれを知らないジョシュアは期待に染まった眼をして二人を見つめている。


「そうと決まれば厨房へ行きましょう。サーヤ、頼みましたよ。私達も後から行きます」
「あ~了解です」


 はいはい、アレですね? まったく、人使いの荒い。

 もうちょっとくらい休ませてくれたっていいだろうに。
 そうは口に出して言えない悲しさよ。


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