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隣国でのオタノシミ

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 リュミナリアは決して強大な国というわけではない。
 むしろ穏やかな気候と国民性。冷ややかな風が流れているのは国の上層部だけだ。

 だからこそ、他の国、特に国の政に関わるようになってさほど時が経っていない者が多いほど勘違いするところが多い。
 リュミナリアは容易にくみしやすい国だ、と。

 確かにそれらの国々の過去の重鎮達が最前線で陰謀まき散らしていた頃はそうであったかもしれない。

 だがしかし、忘れてもらっては困る。今の宰相が誰なのか、今の神官長が誰なのか。
 恐らく歴史に色んな意味で名を遺すことになるだろうシーヴァにユアンだ。
 くみしやすいと、若輩と、誤った理解と侮りは自分達に最上級の手痛い仕置きをもたらす。
 内部ですら容赦を知らぬ彼ら。救いなのは国に一応の忠義は尽くすところ。もし仮にそれすらなければ彼らはとっくの昔にこの国の乗っ取りをたった二人だけででもやり遂げるだろうし、実際それだけの手腕がある。
 故に国益とならぬ相手に受けた侮辱その他諸々はしっかりきっちり返している。
 相手の破滅という逃れられない運命を。その酷薄な笑みと共に。


「こんなものでどうでしょう?」
「うん、いいんじゃない?」


 ユアンは長椅子に座り、にこやかに微笑んでいる。
 喉が乾いたというユアンにリヒャルトは部屋の隅に用意されていたティーワゴンに近づき、静かに用意をし始めた。

 さすがに部屋のシャンデリアに侵入者達を宙吊りのままというわけにもいかず、面倒だが降ろした彼らは今、部屋のこれまた隅に山のように積み上げられている。
 こうやってみると、さっき悲鳴を上げて出て行った侍女さんの気持ちが分からないわけでもないなと反省できる。

 いや、確かに怖い。
 死体の山みたいだもの。でも死んでないから、セーフだよセーフ。


「色んな方面では死んでるようなものでしょう?」
「実質生きてるんですからいいじゃないですか。その後に関わるわけじゃないですし」
「ま、それもそうですね」


 シーヴァは肩をすくめ、手元の本に目を落とした。
 見間違いじゃなければその本のタイトルは“使えない部下を抹殺する方法”。

 …………仕事頑張ろう。

 というか、その本を執筆した著者、何があったのさ。どんだけ心に深い闇抱えてんの。


「いやぁ、遠く離れた国ならいざ知らず、隣国でこんなナメた真似しかけてくれるなんて。驚きだよ」


 リヒャルトから程よく冷めたティーカップを受け取り、ユアンはその匂いを嗅いだ。
 自分の好きな種類の茶葉だったらしく、口元にさらに笑みを浮かべている。
 しかし、目線だけは山積みとなった襲撃者達をじっと見ていた。


「この国の国王も頭が痛かったのでしょうね。そうでなければこうも早く決断なんてできなかったでしょうから」
「自分が出した王命での婚約をああも国賓が集まる場で堂々と破棄しようとしたんだ。日頃からそういう気はあったんだろうしね」
「全く。愚か極まりない。我らがリュミナリアの王太子がそのような真似しようものなら教育的指導を叩き込んでいるところですね」
「あの、今まで深くは聞かなかったんだけど、リュミナリアの王太子殿下は……」
「国外で遊学中ですよ」
「うん、それは知ってますけど」
「あぁ、少々おイタが過ぎたのでね。我々が仕えるに足る優秀な人物になってもらわないと困りますから」


 おいおい、なぁにをやらかしちゃったのさ、王太子殿下は。

 部下として仕える主が無能だったり、冷酷・暴虐なヤツだったりしても悲惨だけど、逆パターンもしかりなのね。しかも、それが二人分。私だったら、遊学中に深い谷底に落ちて不慮の事故を演出して逃亡一択だわ。


 そんな自分だったらこう逃亡するという算段をつけていた時、部屋をノックする音がした。

 決して人が訪れてはいけない時間ではないが、それでもまだ早い。
 この三人が部屋にいるのはひとえに三人がいつ寝ているのか分からないほどの朝型人間であり、私もそれに合わせているだけに過ぎない。
 まぁ、叫びながら出て行った侍女もいたことだし、侍従あたりが様子を見に来たんだろう。


「はい」
「大丈夫ですか!? あなたが襲われたと聞いて!」


 外には大急ぎで来ましたとでも言わんばかりに息を乱している王太子、あ、間違えた。
 元・王太子のクロード殿下がリリアン嬢と身を寄せながら立っていた。

 あら、素敵。カモがネギ背負ってやってきたぞ第二弾!
 今の段階ではブラック確定してるけど、あなたの頑張りでは周りの目にはグレーに映るくらいには言い逃れできるからぜひとも頑張って根性見せて欲しいところだ。
 ……この二人を相手にいつまで持つかは分からないけどね。

 そもそも、さっき悲鳴を上げて出て行った侍女さんには何も告げていないのに、何で分かるのさ?
 私が、なんて。
 絵面だけ見れば、私がの方でしょうに。
 それともあの侍女さんやこの男達はあなたの息がかかったものだったんでしょうか? それなら、まぁ、話は分かるけど。
 ま、国王が国賓として迎えたんだから、下手に繋がりのある者は選ばないでしょう。ここの国王は英断ができる人のようだし。

 というわけで……私達の中では今現在、黒確定択一ですよ?


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