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隣国でのオタノシミ

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「この度は我が婚約の夜会に来て頂き感謝する」
「王太子自らお越し頂き有難うございます」
「彼女はルーズ男爵家令嬢のレティシアだ」
「は、初めまして! ルーズ男爵の娘、レティシアにございます」


 それを冷めた目で見る魔王サマ達。当然のように彼女は本来の婚約者ではない。
 しかし、外交上唇は上げていた。目は笑ってない、けど一応笑顔ねってヤツ。


「そちらの方が……」


 レティシアが王太子の裾をツンツンと引っ張りながら私を見てくる。
 それにさらに顔をしかめるシーヴァと冷笑を深めるユアン。レティシアに可愛らしい仕草をされ、デロデロなのを隠さない王太子。……どんなカオスだ。


「宰相閣下、発言をお許し頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「私、リュミナリアが魔術師、サーヤと申します。この度はお招き頂き誠にありがとうございます」
「私、女性の魔術師ってお会いするの初めてっ!」
「……」


 私が黙ったのを誰か褒めてくれないだろうか。もし横の魔王サマからの絶対零度の眼差しをひしひしと感じなければ私はつい口走っていたかもしれない。

 あんた、なに考えてんの?ってね。

 ここは宰相と神官長、神殿騎士団長が揃っており、国王の賓客扱い。私らがいる場はすでに立派な外交の場だ。なのに私の次に身分が低い彼女がペチャクチャとおしゃべり。神殿は一定の地位を認められており、神官長は時に国王・宰相に次ぎ、神殿騎士団長は軍務大臣に次ぐ。
 少しでも身分制度、他国との付き合い方を学んだものならば顔面青ざめるどころか全身から血の気が失せること間違いなし。
 私はこっちに来てから速攻で徹底的に叩き込まれたよ? 目の前の魔王サマ二人にね。それを何故ゆりあにもしないんだか。面倒だったの? 面倒だったのか。面倒だったんだな。

 しかし期待を裏切らない御令嬢だね、レティシア嬢は。


「申し訳ございませんが、私達はこの後国王陛下に呼ばれておりまして」
「なに? ……すまないが、レティシアのことは内密に」
「分かりました」
「では、明日を楽しみにしている」


 王太子はレティシアを連れて部屋を出て行った。
 途端に部屋の気温がだだ下がった。気のせいか冷気が漂っているような。気のせいだよね! だって霧が部屋の中で勝手に発生するはずないもの。うん、そうだよ絶対。


「リヒャルト」
「承知致しました」


 ホントすごいよ、あなた。何も指示を受けていないというに彼は荷物から聖水を取り出し、王太子達が通った道筋に巻いていった。水だし少量だからカーペットに吸い込まれていく聖水がよく効いてくれることを祈ろう。
 ユアンも何も言わないところをみると、これであっているらしい。実は読心術でも使えるんじゃないかね、リヒャルトさん。いつも私の心の声を読み取る魔王サマ達の配下だからさもありなん。

 国王に呼ばれているなんて嘘をついて終わらせた挨拶。これで由貴とかだと内心を探るためにもっと長く時間をとっただろう。魔王サマ達が相手を見誤るはずもない。
 それを考えると……やはり哀れよな、この国の民達が。合掌。


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