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隣国でのオタノシミ

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 国王と宰相を見送った私達は、滞在中に使用することになる居室へ侍女さんに案内してもらった。

 国王の賓客扱いになる私達に用意された部屋は豪華なものだった。それこそゆりあが好きそうな天蓋付きのベッドにふかふかのソファ、細やかな細工が施された調度品に大国の威信がかけられていると見た。


「ふぁー」


 ユアン達とはそれぞれの部屋の前で分かれ、それからの気の抜けようが半端ない。
 気持ち良い肌触りのソファをじっくり堪能しているとノックの音がした。


「サーヤ。ユアン様達が呼んでいる」
「…………」


 騎士であるリヒャルトは入室の許可がない限り部屋に入ってくることは絶対にない。非常事態は除いて。
 それならばやることは一つだ。狸寝入り。
 私の部屋付きの侍女さんはさっき呼ぶまで来ないようにって言い含めて出て行かせたから中には私一人。なんて理想的な状況なんでしょ。


「サーヤ?」
「………………」
「リヒャルト、甘いですよ」


 あ、ちょっ、待って! 起きてる! 起きてますから!!


「おはようございます。良く眠れましたか?」
「……はい」


 断りなど不要とばかりにシーヴァにドアを開けられた。
 
 シーヴァが笑っていない目で首を傾げている横で、ユアンがドアにもたれかかってこちらを面白そうに見てくる。もう目が完全に喋って動くオモチャを見る目だ。
 私だって学習してないわけじゃない。魔王サマ達が私に甘くないだけ。


 部屋の真ん中にあるテーブルセットをみんなで囲み、部屋の主である私は一応もてなすべく隅に置いてあったティーセットでお茶の用意を進めた。


「そういえば、その破棄される御令嬢ってどんな方なんですか?」
「いずれは王妃となるべく厳しく躾られているらしいよ? まぁ、当然だけどね」
「と、いうことは王太子のお気に入りは躾が足りない、もしくは躾られるつもりがない、と?」


 ユアンは答えず微笑むだけ。肯定ですな。
 シーヴァは持ってきた書類に目を通して会話に入るつもりはないらしい。まぁ、彼からしてみればこんなくだらない茶番に割いている時間はありませんよってことだ。それでもついてきたのは余程頭にきていたからとみえる。それかこんな外交上の好カード、むざむざ見逃すのは惜しいからか。……両方か。


「そもそも、相手の国王を経由して送るっていう頭はあったのに、どうしてそれが自国の王も経由しなきゃならんのだと思いつかなんだか」
「それは当然だよ。相手はあの一文をどうしても盛り込んで来てもらうようにしたかったんだからね」
「………………」


 それで魔王サマ達怒らせてどうすんだ。
 これが他国の王族だからこの程度で済むけど、自国の王族だったら彼らは徹底的に矯正に入るぞ。いや、入った、らしい。
 私がこちらに来てから一度も会ったことのない我らがリュミナリアの王太子は現在他国に遊学に出ている。王太子は本来自国にて教育され、王位を継ぐべく成長を見守られるもの。他国で暗殺とかあっちゃならんからね? その王太子が他国に遊学……。なにしたんだ、まだ見ぬ王太子サマよ。まだここよりマシだと思いたい。


 その時、廊下側が何やら騒がしくなってきた。


「……リヒャルト」
「はい。見てまいります」


 一を聞いて十を知る男、それがリヒャルト。主の考えることなど分かって当然って顔してるけど、特殊だからね? 自分。

 リヒャルトは足音も少なに廊下に出て行った。

 しばらくして彼が引き連れてきたものは私達にある種の笑みを浮かべさせた。


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