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勘違いしちゃったお姫様
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しおりを挟む「じゃあ、ユアン様。そいつは任せました。私はドラゴンを」
「うん。頼んだよ」
「そのドラゴンまた眠らせる気?」
「当たり前だろ。お前のオモチャにさせる気はさらさらない」
「ちぇ」
本気でどうこうする気はなかったのか死の番人はすぐに諦めたらしい。本人の言う通り魔界に帰らないでいられるよう大人しくしているつもりのようだ。
さて。どうしたもんかねぇ。
「古の守り手よ。此度のこと、誠に申し訳なかった。二度はない故、再びの眠りについてはもらえないだろうか」
『……その言葉、どう信じよと?』
そらそうだわなぁ。叩き起こした人間と同じ人間の言葉なんか信じろっていったって普通は無理でしょ。
……ん?
「一ついいだろうか」
『なんだ』
「この小さいドラゴンはあなたの子か?」
『……なんと』
なんか後ろをツンツンされると思って後ろを振り返ってみたらいた。いや、なんだろう、この子。クリンとした目で見上げてきて。
……はぁー。可愛いは正義。うん、間違いない。
『…………グルルルル』
『キュウ』
『グルル』
『キュ』
なんか分かんないけど会話してるらしい。さすがにドラゴン語まではわからない。
「……え?」
ドラゴンが子ドラゴンを鼻先でずいっと私の方へ押し出してきた。
え? なんなん? 抱っこしろと? えぇ、しますけど。
うわ、ぬいぐるみみたい。そりゃあ生きてるからあったかいし、重いけど。
『この子が懐くくらいだ。お前は嘘はつかない人間なんだろう』
いやぁ、嘘はつきますよ? 話こじれると厄介だから口にはしないけど。
『我は再び眠りにつこう。お前はこの子を頼む』
「え? いや、頼むと言われましても」
腕の中にいる子ドラゴンに視線を落とすと、見られていることに気づいたのか顔を上げてこちらをじっと見てくる。心なしか期待がこもっているような?
『ドラゴンは依存心が強い。その代わり、主によく仕える。悪い話ではあるまい』
「お前、うちの子になる?」
『ミャウ』
ミャウって……お前は猫か。まぁ、ドラゴンってどう鳴くのが普通なのかわかんないからこれが普通なのかもしれないけど。
どうやらこの白くて小さくて目赤くてくりっとした子ドラゴンが家族に加わるようです。ジョシュアと仲良くしてもらいたいなぁ。
そして可愛い子達を抱きしめるのは私だけの特権。役得ですが、なにか?
『そこの者らよ、二度はない。ゆめゆめ忘れるな』
「承知致しました。必ずやあなたの眠りを妨げるようなことは致しません」
シーヴァの言う言葉に一つ頷いたドラゴンはおそらく眠りについていただろう場所へと腰を下ろした。
ふむ。なるほど。魔術陣が昔のものだからかけ直した方がいいな。
ここの陣形をこれに作り変えてっと。……できた。
『ではな、娘。お前の言葉、信じよう』
「あぁ。ありがとう」
ドラゴンは光の軸となり、やがて消えた。
子ドラゴンはドラゴンが消える瞬間こそ鳴いていたが、それ以外は酷く大人しい良い子だ。
地面に降り立ち、ユアンとシーヴァを見る。二人もどうしたもんかと顔を見合わせている。
「どーでもいいけどお腹すいたぁ」
「…………」
「痛っ!」
当たり前だろ、痛いように頭の上に拳骨振り落としたんだから。氷の塊じゃないだけマシだろ。
「 そっちはどうだ?」
「やれるだけのことはしました。後は彼らの回復力です」
負傷していた魔術師達の回復も大分進んでいた。これくらいなら後は安静にしていれば治るだろう。かなりの腕だなぁ、さすが次期魔術師長候補の名は伊達じゃない。
「ご苦労様。転移陣でそのまま王宮の医務室に送るよ」
「ありがとうございます」
ほっとした彼は本当に安堵したようにふわりと笑った。
あぁ、いいな。最近濃ゆすぎる奴らばっかりなせいで私の精神ズタボロに近いし、今もそうだけど。
静かに眠る負傷した魔術師達を転移陣で送った後はユアン達だ。
……さて、忘れかけてたけど、アレはどーしたもんかね。
これ以上はシーヴァもユアンも目を瞑らないと思うんだけど。
我らが巫女姫サマはいまだもって自分は悪くないと完全に信じ込んでいた。そもそもシーヴァの話によれば、この国を守るに当たってのしくみはこの国に来た当初に事情はどうあれ一通り教えているらしい。教えた教師によると話半分に聞いていた可能性があるとのことだったが。これじゃあ話半分どころか全部まるっと聞いてなかったに一票。
んー。でも、公爵の時みたいに完全に切り捨てるのは同じ世界から来た身としては忍びない。いや、だから切り捨てるっていうよりも、関わり合いたくないってのが正しいな。
困ったちゃんにはお勉強の時間が必要か。さっきから魔王サマ二人のどうにかしろって視線がびしばし刺さってるし。死の番人手中に収めたから次はこいつだ的な?
あーあー。今夜の晩御飯は何にしようかなぁー!?
…………………ヤケクソだこの野郎。
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