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勘違いしちゃったお姫様

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「おいおいおい。なに、この状況」
「先輩!」


 少年が駆け寄った先には数人の男達が地面に倒れ伏していた。恐らく何かあった時のために私を呼ぶよう少年を寄越しておいて、その後この状況が起きたんだろう。少年が抱き起こした男の顔は土気色をしている。早く治療してやらないと危険だというのは誰の目にも明らかだ。


「おい、少年。君は治癒術は使えるか?」
「は、はい。でも、多人数を同時には」
「そうか。……そこのバカ娘!」


 目の前にはゆりあが地面にへたりこんでいる。ギギギっと音がしそうに首をこちらへ向けたゆりあの目には恐怖の色が浮かんでいた。そりゃあそうだろう。私も初めて見た。

 旧時代の魔物、ドラゴン。しかも成竜?のようでかなりバカでかい。

 光の粒子で壁を作り、ゆりあの周りを覆った。腰を抜かしているようだからこちらに来るのも無理だろうからゆりあはこれでいい。

 それよりもさっきゆりあに呼びかけたせいでドラゴンがこちらに気づいた。


「シン」
「あぁ。あれを止めればいいんだろう?」
「バカ。どう見てもこちらが叩き起こした結果だろう? ちょっとオハナシをして、再び眠りについて頂く。お前はユアンとシーヴァにこの付近に住民が近寄らないように呼びかけを。あと、治癒術が得意な奴をすぐさま送って」
「バカって。……了解」


 あのドラゴンのことは書物で読んだことがある。今から五百年と少し前、今以上に魔物がうじゃうじゃいた頃、一体のドラゴンが突然現れ、この国を救ったという。そのドラゴンは人語を解し、当時の王ととある契約を交わした。その契約の内容までは分からないとされている。
 その後、眠りについたドラゴンの周囲には木が生え、森になり、それが今のこの場所になった。魔物が出やすいのはドラゴンの魔力を喰らおうとうろちょろしているからだろう。

 その眠っているはずのドラゴンが今、目覚めて怒り狂っている。どう考えても理由は足元で震え縮こまっているアレだろう。それ以外の理由が思い浮かばないなんてどんな笑い話だ。笑えないけど。


「サーヤ様!」
「これは……なんてことですか」


 私の名前を呼んだのは魔術師達の中でも確かに治癒術に特化した男だ。彼ならなんとか負傷者を死なせずに済むだろう。少年と一緒に大至急処置に取りかかってもらった。

 シンは目当ての人物と一緒にユアンとシーヴァも引き連れてきていた。


「シン様から話を聞いた時はまさかと思いましたが」
「で、またアレなの?」


 ユアンの凍えるような視線の先にはゆりあがいる。


「シン。あれ回収しといて」
「サーヤ? どうするの?」
「ま、見ててくださいよ」


 シンがゆりあの回収が終わると同時に私が代わりにドラゴンの前に立った。ユアンとシーヴァは黙って様子をうかがっている。


『そやつを我によこせ。八つ裂きにしてくれよう』
「……伝承通り。やっぱりあなたがこの国を救ってくれたドラゴンか」
『我は静かに眠っておった。我が子と共に』
「子?」


 子どもがいたのか? 姿は見えないけど、いるというからにはいるんだろう。


「大変申し訳ないことをした。どうか再び眠りについて頂けないか?」
『そやつを八つ裂きにした後でな』


 どうやらゆりあを八つ裂きにしたくて堪らないらしい。テコでも動かなさそうだ。


「あなた、何をしたんですか?」


 シーヴァが眉根を寄せつつ、ゆりあに詰問した。
 ゆりあはガクガクと身体を震わせながらやっとのことで口を開いた。


「だ、だ、だって……そのドラゴンはこの国を滅ぼすかもしれないでしょう? だって魔物、だから。だからゆりあが退治してあげようって思ったの! だってゆりあは巫女姫なんだから!!」


 調子づいたところ悪いけど、周り見て。魔術師ズは憤怒の形相、魔王二人は絶対零度の視線。私なら憤怒の形相までは軽くあしらえるけど、魔王サマ方の絶対零度は絶対に避けたいところだ。
 しかもその言葉を聞いたドラゴンがさらに怒りのボルテージを上げた。


「この国を滅ぼす? 滅ぼしかねないのはあなたの方ですよ」
「よくもまぁ次から次へと」
「逆にこの国はドラゴンによって守られているんだ!」
「え、だって……そう教えられて……私は何も悪くない! 騙されたのよ!」


 ふむ。騙された、と? 誰に?

 それを聞き出そうとした時、空中の空間が一角、新たに歪んだのが分かった。


「ほーんと使えない奴だなぁー。ま、ドラゴンを呼び出してくれたからちょっとは役に立ったのかなぁ?」


 今にもゆりあに襲いかかりそうだったドラゴンがジリリと後ずさった。その判断は正しいと思う。


「死の番人」
「やぁ、サーヤ! これが終わったらまたご飯作ってよ」


 ふふっと笑う男は宙から私達を見下ろしていた。


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