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勘違いしちゃったお姫様

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 ピシャッ


「あら、ごめんあそばせ」


 後ろからワインをかけられた。しかも赤。

 お腹が空いたと訴えるジョシュアを連れてリヒャルトが離れた時、その暴挙は行われた。振り返ると女の子の集団がクスクスと扇子や手で口元を隠して笑いあっている。

 いや、謝るには謝ってきたよ? でもさ、笑ってるくらいだから確実にワザとだよね? え? これがお貴族様の洗礼ってヤツ? やだ、なにそれ。

 空いたグラスを持っているから主犯格はバッチリ分かった。

 ムカッと来たのをおくびにも出さず、逆にニコリと笑ってやった。こういう時って笑顔になる方が相手もイラッてくるのは理解済みだからね。
 え? 経験論だよ。


「いいえ。でもお気をつけくださいね。他にもお客様はいらっしゃるのだから。……みっともない」
「なっ! みっともないのは一体どっ……え?」


 これくらいなら指一鳴らしで汚れは元通り、何事もなかったかのように綺麗な状態に戻った。揃いも揃って見せてくるアホ面に私はこみ上げてくる笑みを隠さずにもらした。

 あ~愉快愉快。口、開いてますよ~。 自分達の方が魔法に慣れ親しんでるでしょうに。何故にこの程度の魔法で驚く。


「何事も相手はよく選ばなきゃダメですよ。


 私、私と私の庇護下にある者に害なす者には容赦しないので」 


「ひっ!」
「い、行きましょう!」
「そ、そ、そうねっ!」
「早く!!」


 あ~らら。あっという間にどこかへ行ってしまった。
 さぁてと……ジョシュアにはリヒャルトがついているし。私は私でお仕事しましょうかね。あ~面倒くさい。

 ワルツが流れ、たくさんの男女が踊るのを横目に見ながら、私は広間を後にした。

 ほとんどの使用人が広間に集まっているのか廊下を歩いていても誰ともすれ違わない。ま、すれ違った所で姿は消してるし、万が一に備えて記憶操作の魔術もかけてあるから咎められることはないけどね。

 ここで一つ。この公爵邸には高名な魔術師がとある魔術をかけている、らしい。
 おまけのもう一つ。魔術と魔法は同じにして異なる。より高い魔力を持たないと使えないのが魔術と言われる方だ。魔法は一般人でも使える。

 その魔術をもってしてまで隠しておきたいものがある。

 我らが神官長のユアン様はそれがどういう代物なのかどうしてもお知りになりたいんだそうだ。他人の秘密は蜜の味、それが使えるものならなおのこと、と言い切ったユアンにプライバシーの概念はあるんだろうか。
 …………いや、ないな。それであるとか言われた日には地球が逆回転しだしたか、太陽が西から昇るようになった時かだ。

 彼の顔面偏差値は興味のない私でさえかなり高いと思うのに……性格偏差値は底辺どころか底辺突き破ってマイナスすらも超えた概念に行き着きそう。シーヴァについてもしかりだ。

 考え事をしながらでも手は動かす。一家の家事を切り盛りしてきたが故になんでもなくこなし、ようやく目当てのものを見つけた。


「…………………わぁ~、ビンゴ」


 私の雇い主様はいたく満足していただけること間違いないだろう。良かった良かった。
 懐にいれ、何食わぬ顔で会場に戻ると帰りまで決して動こうとはしなかった。


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