上 下
9 / 65
勘違いしちゃったお姫様

5

しおりを挟む



 今日は王宮に行く用事もなく、丸々お休みをもらっている。
 久々にジョシュアとシンと三人で市場に来ていた。


「ん? サーヤじゃないかい!? 最近顔を見なかったからどうしたのかと思ったよ」
「ごめんごめん。王宮に呼ばれててね」
「サーヤ! 上の息子が今度北に仕入れに行くんだけど、また守り石作ってくれないか?」
「いいよ。もうストックがあるから後で家に寄んな」
「すまねぇな! 何か持っていくよ」


 歩く度に声をかけてくる街の人達、陽気な連中が多くてバシバシと叩かれた背中が少し痛い。
 ここに来てから最初は遠巻きだった彼らも、私が主に魔法のことで生活を手助けしたら何のことはなく徐々に受け入れてくれた。


「サーヤはすぐ皆と仲良くなるねぇ。すごいねぇ!」
「すごくない。この世は持ちつ持たれつなんだ。誰かが困っていたら自分ができる範囲でいい。助けてやれ。その人からじゃなくても絶対に返ってくるから。分かった?」
「うん」
「ただし! 人の親切心を利用する悪い奴等もいるから注意すること!」
「わかった!」


 素直な養い子の頭を撫でてやると、ふにゃあっと笑って腰に両腕を回して抱きついてきた。


「今日のご飯はチーズフォンデュにしようか」
「本当!? やったぁ!」
「チーズと牛乳買って……パンは家にあったよな」
「ねぇねぇ、お菓子買ってい?」
「あぁ、三つまでな」
「わーい!」


 駄菓子屋の階段を上がり、ドアの前で私を手招きしてはしゃぐジョシュア。
 店番はいつも優しいおばあさんなので、いささか人見知りの気がある彼もなんの気兼ねなく店のドアを開けた時だった。


「出ておいき! そして二度と来るんじゃないよ!!」


 いつもの優しいおばあさんはどこへやら。怒り狂った本人が誰かを店から押し出した。


 ドンッ


「うわっ!」


 小さなジョシュアに二人とも気づかなかったのか、押し出された誰かに巻き込まれ、ジョシュアの体は階段から足を滑らせて宙に浮いた。

 しかし、その体が地面に叩きつけられることはなかった。


「あ、ありがとー」
「どういたしまして」
「たまには役に立つな、シン」
「たまにじゃないでしょ。失礼な」


 私が動くよりも先にシンが階段下に体を滑り込ませ、ジョシュアを受け止めた。

 さて。無事だったから、で済ませられるわけがないよな?


「あぁ、ジョシュア! 大丈夫だったかい? すまないねぇ」
「おばあさん、どうしたの」
「サーヤもすまないね。……なんでもないよ。さ、今日は怖い思いをさせたお詫びになんでも持っていきな」
「だって! サーヤ、行こ!」
「おばあさんと一緒にお菓子を選んできな。後から行くから」
「置いて帰らないでね?」
「帰らない。さ、行っといで」


 背中をポンと押すとジョシュアはおばあさんに手を引かれ店の中に入っていった。


「…………待ちな」


 どさくさに紛れて逃げようとしている先程の人物の肩をしっかりと掴み、目深にかぶっているフードを頭から下ろした。


「どうして神殿にいるはずの君がここにいるの?」
「ご機嫌よう。ゆりあ、メロンパンが食べたいって言ったのに、ここの世界の料理人てば、メロンパンを知らなかったのよ!?」
「そりゃそうでしょ。ここには菓子パンていう概念すらないんだから」


 パンは食パンとか何も混ぜていないパンのみ。加工すると言ってもサンドイッチくらいのもの。それがここでのパン事情だ。
 無知は罪である。昔の誰かがそう言ってたような。ここのことを学ぼうとしなかったのか、学ぶ機会がなかったのか。ユアンもシーヴァも一通りこの世界のことは学ばせてるみたいなこと言ってたから機会がなかったはないか。


「それでね、ムカッときて家出してきちゃった。あなたの街にも行ってみたかったし」


 テヘッと舌を出して笑う彼女にその舌を引っ掴んで投げ飛ばしてやりたい衝動にかられた。
 無責任すぎる。あまりにも酷い。


「ムカッときてじゃねぇよ」
「え?」


 その時、市場がにわかに騒ぎだした。
 どうしたと聞くと、予想通りの言葉が返ってきた。


「巫女姫が消えたらしい。護衛騎士達は厳罰を与えられるみたいだ」
「……え?」


 思いもよらなかったのか? そんなきょとんとして。本当に、少しも。

 もしそうなら……


「もう神殿に戻った方がいい」
「……大丈夫よ。彼らのことはゆりあが許してくれるように頼んどくから」


 …………もう無理だ。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜

黒木箱 末宝
ファンタジー
これは、はみ出し者の物語。 現代の地球のとある県のある市に、社会に適合できず、その力と才能を腐らせた男が居た。 彼の名は山城 大器(やましろ たいき)。 今年でニート四年目の、見てくれだけは立派な二七歳の男である。 そんな社会からはみ出た大器が、現代に突如出現した上位存在の侵略施設である迷宮回廊──ダンジョンで自身の存在意義を見出だし、荒ぶり、溺れて染まるまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

オラクル

kaoru
ファンタジー
フーは、八歳の誕生日を迎える朝方、眼が覚め部屋を出ると知らない場所にでて、初めて見る獣と出会う。  獣はククと名乗り、フーと一緒に旅をすると言うが訳が分からないフーは、戸惑うだけだ。そこに、フーの暮らす島にある教会の神父が神託(オラクル)を受けたとして現れて、フーがこれからどうすれば良いのか教え。  フーとククの旅が始まる事になる。 m(__)m 以前書いていた「神に呼ばれし者」の改正版です。 あらすじ以外は全て変えてしまったので、別物になっております。 異世界転移や転生のないファンタジーです。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

処理中です...