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かの肩書、王太子なり
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しおりを挟む焼却炉の前に転移すると、奴もすでにこの場に来ていた。
そのまま諦めて魔界に帰ってくれればいいものを。
しかし、まずはこの山のように積まれたごみの中から探している箱を探すのが先決だ。下手をすると、すでにこの焼却炉の中に放り込まれた後ということもある。
汚いものは見たくないという風に顔を逸らし続ける奴は無視して、フェリシア嬢と手分けして探し始めた。
だいぶ探した後、手を止め、まだ探しているフェリシア嬢の方へ顔を向ける。
「どうでしょう? ありそうですか?」
「……あっ! これです! 中身は……良かった。全部ある」
箱はどうやら鍵を開けるために仕掛けの解除が必要だったようで、確認した中身が全て無事だったことに、フェリシア嬢もほっと一息ついた。
おそらく順番的にはそろそろだと思われる中に紛れており、もし、あと数時間でも遅ければこの箱は燃えてなくなってしまっていただろう。
「間一髪でしたね」
「えぇ。本当に、ありがとうございました!」
「いいえ。見つかって良かったです。……ということで、お前はお役御免。見つけなかったんだから、契約も不履行のため破棄だ」
「それは……分かった、分かったよ。今回は見逃してあげる。次はないってことで。じゃね」
奴はひらひらと手を振り、ふっと姿を消した。
次もなにもあるわけがない。しかも、今回は見逃してあげるなど、上から目線で来おってからに。
腹に据えかねて魔王の腹心一人相手しても問題ないなら、次に会った時に天界の丘に磔コース待ったなしでやってやりたい。
……シンか。シンだな。帰ったらシンに相談してみよう。どこか神々や天使達が行き交う神聖な場はないか、と。
「……と、いうわけなので、もう悪魔を召喚したりなどしないようになさってください」
「はい。ごめんなさい」
フェリシア嬢には念のため釘をさしておく。元々利発そうな少女なので、もう次はないと信じてもいいだろう。今回のことでも、助けにならなかった悪魔はやはり信用ならないと思えたはずだ。
それ、と。
「つかぬことをお伺いしますが、あのベアトリスというご令嬢は?」
「私のクラスメイトなんです。殿下と私の仲をよく思っていないみたいで」
「あの口ぶりだと、自分が婚約者の立場になったかのようにおっしゃっていましたが」
「ベアトリス様には既に同じ公爵家の婚約者の方がいらっしゃるのですが。殿下にその、恋をなさったようで」
「……あぁ」
恋、恋、ね。
これまたどこぞの某国の元王太子殿下とそのお相手を思い出す。各国の高官や自国の貴族達が一堂に会する場で婚約破棄宣言をぶちかましてしまった彼ら。その後の消息は聞けていないが、そこまでの大恋愛をした彼らの事。きっとお相手の家に婿入りした後も上手くやっていくだろう。後は隣国のことだし、知らん。
そういえば、あの時出会った我が心の友、ステラシアは元気だろうか。あの腹黒そうな第二王子、もとい新しい王太子殿下の相手で疲弊していないか非常に心配だ。むしろ心配しかない。
あの時しか会っていないからまだ分からないけれど、あの王太子殿下は執着されたらヤバい系統の御方だと思う。ステラシアは逃げる気満々でいるけど、正直な話、それは無理だろう。彼がのこのこと獲物を逃がしてやるとも思えない。
この世界に来て初めてできた心友のことに思いを馳せていると、フェリシア嬢が深々と頭を下げてきた。
「では、私はこれで」
「……お部屋までお持ちしましょうか? 私なら、魔力で重さを軽減できますし」
「いえ! そこまでしていただくわけには……あっ!」
あー、ほら、言わんこっちゃない。
鍵を開けたままだったのか、弾みで中身が外にぶちまけられた。
慌てて拾い集めるフェリシア嬢だが、箱の見た目に反して中身は結構な数が入っていたらしい。そうすぐに拾い終えることができないでいた。
「本でしたか」
「こ、これはっ!」
近くに落ちた一冊が上を向いて開かれている。
それを拾う際に、中身が見えてしまった。
必死で隠そうとするフェリシア嬢の運が悪かったというかなんというか、その、いたしているページだった。しかも、元の世界では頭文字にBとLがつく類のもので。
「……なるほど」
「あ、あのっ! この本のことは殿下にはっ!」
「もちろん。お伝えしませんので、ご安心ください。それ以外の誰にも。趣味で楽しむ分にはそれぞれの自由ですから」
「……本当に、ありがとうございます」
これくらいならまだ例の某兄の本棚で見たことがある。さすがに奥の方に隠されるようにしておいてあったが。
念のために言っておくと、私が貸していた本を返してもらう時に見えたもので、別に漁ったわけではない。それに、妹としては、そちらよりも次兄が隠そうともせず持っていたR18シリーズの方がやばい。全力で隠していただきたかった。
それにしても、なるほど。これは確かに王太子殿下には知られたくないだろうし、たとえ悪魔を召喚してでも見つけたくなる気持ちも分からなくはない。召喚した悪魔が論外だっただけで。あのベアトリス嬢という恋敵がいるならなおさらだ。
「やはり、お持ちしますよ。途中でまた同じような目に遭わないという保障はありませんし」
「うぅっ。すみません」
ここまで知ってしまったらもはや何の遠慮もいらないというのに、まだ申し訳なさそうにするフェリシア嬢。
リュミナリアの王太子殿下はご自分はザ・普通だが、女性の見る目はあったようだ。そう思う程度には、私はこの伯爵家のご令嬢を好ましく思えた。
先程のベアトリス嬢のように傲慢のきらいのある少女であればどうしようかと思っていたが、フェリシア嬢には思慮分別もありそうだし、少々己を卑下するきらいがあるが、それはまぁ他で補える。
本当は火消しを命じられていたローランドが成就させてやりたいと思うのも無理はないかもしれない。
軽減魔術をかけた箱を笑顔を浮かべつつ持ってやり、一緒に彼女の部屋まで向かった。
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