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感傷
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宿に戻り巣箱の様子を報告する頃にはもう夕食だ。
一日バラバラに仕事をしたものをここで報告してまとめる。
まとめたものはミレーナさんがフクロウを使ってアメジスの街に報告するのだという。疲れ切って猫背気味のミレーナさんが不憫だ。
あっという間の一日であったがまだまだやることは多い。
だが今日は朗報があったのだ、騎士団のみんながお風呂の準備をしてくれていた。この世界でお風呂というのは結構贅沢なものだ。蜂は匂いに敏感であるので養蜂業をしてるナナヤ村は大衆浴場があって、そこで汗の匂いを落としていた。一家に一つなんて高すぎて設置できないからな。だいたいお風呂に入れるだけの水を準備するにも大変だ。近くに川があるとはいえ何往復することやら……。
そういった事情があるためにこの村にはお風呂は重要な施設。にもかかわらずここに建っていた屋敷にはお風呂がなかったのだ。まぁ建てたのは工作兵の人なのでここは兵舎をもとに設計され、男性の兵士は体を蒸らした布で拭く程度しかしないとでも思ってたんだろうな。
そりゃあ建てた当初はこんな事態になるなんて思ってなかったのかもしれないがお風呂の一つぐらいあってもいいんじゃないだろうか?
そういえば蜂は俺の体臭には特に反応してなかったな。やっぱり虫と人とで興奮する匂いが違うんだろうな。
ナナヤ村復興のためには蜂と敵対しないよう早い段階で体臭問題、つまりお風呂が必要であったがためにミレーナさんに相談するとすぐさま了承された。
ただ一つ問題があるとするのなら男が俺1人なので男湯と女湯を分けるなんて手間をしていないことだ。まぁ邸の一室を改装したのだからちょっと大きな家ブロみたいなものだがな。
ゆくゆくはできるようになるのだろうが今はそんな手間をかけるぐらいなら他にすることがあると混浴状態である。
まぁそれは時間をずらすだけでどうとでもなる。
俺が一番風呂を使っていいとのことでお風呂に入っているとやはりというべきか魅了にかかっているメンバーがみんな入ってくる。
必死に耐えようとは思ったがさっさと済ました方が楽だと思い直して行為に至ったわけです。
背中を流すといいながら抱きついてくるミーシャねぇに前を流すとクローディアさん。
2人を引き剥がして絡まってくるムースさんとロロアさん。
露骨な4人の行動にリーラとレイラの姉妹が負けじと抱きついて来てもう理性なんて保てませんよ。
浴場に漂う匂いで欲情なんてつまらないダジャレを思いつき苦笑する。
お風呂から上がった時には疲れを取るどころか余計に疲れていたほどだった。
しかも上がったところで女騎士の皆さんに長風呂だったけど何したのかと問い詰められてもう散々だ。
少し1人になりたくなった俺は逃げるように外の風に当たっている。ふと村のみんなの墓のことを思い出す。
夜ではあるものの色々あってまだちゃんと手を合わせていなかった。
午前中騎士の女性が言ってた村人の墓に向かうことにして松明を取りに戻る。
薄暗い中松明を片手に蜂の巣箱の近くにあるお墓へと向かう。
墓の近くには七色クローバーの畑があるのでその花を摘んでくる。
前世にあるシロツメグサのような花が咲いてるがその花が多種多様な色を持っていてすごく綺麗なのだ。
墓参りには不適切かもしれないがこの村に住んでた皆んなは親しみのあるこの花を供えるのが一番であろう。こんもりと持った土の前に花を添えると涙があるれてくる。
盗賊によって村を焼かれみんな殺された。
俺はただただ前世の記憶が流れて来たことに混乱していて状況もわからずにいただけだった。
あの瞬間は父さんと母さんのことが頭になかったのだ。生気がなく床に横たわる姿を見てやっと思い出すなんてなんて親不孝ものなんだ。
「ごめんなさい……」
無意識に呟いた言葉にさらに涙が溢れる。
助けに来てくれたと思った童顔の女性は父さんと母さんを殺した盗賊だった。
「ごめんなざい……」
そんな人に手を引かれ助かるとさえ思った自分に腹がたつ。
「うぐっ…」
捕まった後もブービットさんが殺されるのを何も言わずにただただ見ていた。
「ふ、ぅあ………あ!!」
不意に背後から抱きしめられる。
「こんな時間に墓参りですの?我慢しなくてもいいんですのよ。」
この喋り方はミレーナさん!?
「辛いことがあったんですもの。」
「ふぐっ、俺は…俺……お、俺は、なに、何も、でき、できなかっだ。」
「抵抗しても殺されたかもしれませんわ。」
「馬車の……馬車の中で…抵、抗も、せず、お、犯さ、うぐっ言わ、言われるが……言われるがままにぃぃぃうぐっ、村の……と………途中、途中から、たの、楽しく、なって自分、じびん、じぶんから、して、いたんじゃ…と……と…」
「夢魔の魅了のせいですのよ。あなたはちゃんと理性と戦っていましたわ。」
「ふぐっ…うぅ……みんな、みんなのこと、見てるとぉ……気持ちが、きも、気持ちが、変な、感じに、なってしま、ですぅぅぅ。が、我慢、してる、に……」
「いいんですのよ。我慢しなくっても。私たちに甘えてくださいな。」
ミレーナさんが優しく包み込んでくれるようでどこか気持ちが楽になっていく。
あぁもう我慢しなくていいのか。そう思ったらミレーナさんのいい匂いが……
ミレーナさんの方に向き直り抱きつくと落ち着くまで背中をさすってくれる。
あぁこの人は俺にこびりつく夢魔の匂いには唯一抵抗してたんだったな。
あぁそういえばこの人だけじゃないのか?こうして俺のことを見てくれてるのは??
抱きつく力が自然と強くなる。
「あっ!」
ミレーナさんから声が漏れる。
いけない!!この人にはそういうのダメだ!!
ダメだダメだと思うほど力が強くなる。
「少し、少し力を緩めてくださいな。」
「ぅぅ、ミレーナさん…」
顔を上げて目を見つめると少し頬が赤いミレーナさんがいる。
顔が自然と近づく……後少し、後少しで!
「いけませんわ。ここではいけませんわ。お墓の前ですの。」
「あ…そう、ですね……」
ミレーナさんから言われて気がついた。
なんてことだ!俺は夢魔の魅了にまだ抗えないというのか!!
「風邪を引きますわ。戻りましょう。」
そっと肩を抱いてくれるミレーナさんの優しさが嬉しい。
村のみんなのお墓を後にして部屋へと向かうが今日はもうちょっとミレーナさんと一緒にいたい気分だ。
「ミレーナさん…もうちょっと……一緒にいたいです。」
「んふ、いいですわよ。では私の部屋に行きますか?」
ミレーナさんに肩を抱かれたままミレーナさんの部屋へと入ると一瞬ミレーナさんが笑ったような気がした。
これも魅了の所為こんな幻覚まで見せるのかと嫌気がさす。
ベットの上で座るとミレーナさんが棚の方へと向かった。
「冷えた時にはお茶でも飲みましょう。」
柑橘系の香りのする紅茶を出してくれたので2人並んでお茶を飲む。
ティーカップを傾ける様がすごく色っぽい。
いつになったらこの魅了効果が治るんだと嫌気がさしつつ一気にお茶を飲み干す。
「ふぅ…」
そろそろ迷惑になりそうなので退席しようとベットから立ち上がるとミレーナさんが俺の手を握る。
「今日はここでお休みになったらどうですの?戻ったらまた…ですわよ??」
あぁそうだ。確かに戻ったら押し倒されるだろうな。
みんなまだまだ魅了効果に争いきれていないのだ。特に今日は別行動をとっていた時間も長いのでかなりひどいことになりそうだ。風呂であぁだったことを考えるとゾッとする。それに今の気持ちでは……
「じゃあ。みんなが寝た頃に戻ります。」
「そう…ですわね……では横になった方がよろしいですわ。」
そう言ってベットに招いてくれるがミレーナさんのいい匂いがベットから湧き上がる。
昨日の今日でこんなに匂いが!!
そう思ったが俺のことをちゃんと見てくれてる人は今の所この人ぐらい、無粋な感情を無理やり押さえつける。
お言葉に甘えてベットに入るとミレーナさんが添い寝してくれる。
もう頭がクラクラしてくる。
頭を撫でて微笑んでくれる顔を見ると鼻と鼻がつきそうなほど近い。
ハッと気がつくとミレーナさんを押し倒していた。紅潮した顔がなんとも艶かしい。
ダメだと思っているのに体は言うことを聞かない。
「ごめんなさい。」
俺がそう呟くとミレーナさんは俺の頭を撫でながら首を横に振る。
「いいんですわ。それに謝られながら抱かれたくありませんわ。愛があるならいいんですの。」
その言葉を聞いた俺はもう自制が効かなかった。
いったいどれほどの時間が経ったかはわからない。ミレーナさんがもう眠っている?意識がない?ほどには時間が経っている。それでもこの悶々とした気持ちが収まらない。このまま一緒にいるのはまずいと思った俺は自室へと戻ることにした。
部屋に戻るとムワッと女の匂いが鼻腔をくすぐる。
待ってましたとばかりに手を引きベットへと押し倒されたがもう誰がどこを触っているのかわからない。
痺れる頭に朦朧とする。
朝になり着替えていると昨日どこにいってたのかとみんなから問い詰められてしまった。マリーもすでにその輪の中に自然と溶け込んでしまっているのが不思議ではあるのだが「お墓」そう答えるだけで皆黙り込んだ。嘘は言ってない。確かにお墓には行ってたんだ。
でもなんだこの罪悪感は?
食堂に向かうとミレーナさんがつやつやとした顔で迎えてくれた。
どう見ても昨日より肌ツヤが良く元気そうだ。昨日までは仕事が多くて疲れきっていたように見えたのだが……
まさかこれって房中術の……まさかな。
本に書いてあった房中術は男性を元気にする術のはずだし房中術は『(精は)決して漏らさず』が鉄則だ。
あれ?でも精って元気のことでもあるから女性に元気を与えてるとも取れなく……
「おはようございます。」
そうこう考えてるとミレーナさんが挨拶をしてくる。
「あ、おはようございます。」
「んふ~。おはようミレーナ。今日はよく眠れたのか?なんだか顔色がいいな。ふん。」
「えぇ。それは心も体もすっきりといたしましたわ。今までになく体調が良いようですの。」
「んふ~。風呂を作った甲斐はあったようだな。ふん。」
「え、えぇ私頑張りましたので。」
なんだこの感じ……気まずい………
二、三言葉を交わすと吸血鬼姉妹のリューネとシルファがやってくる。リューネは俺とミレーナさんの耳元に「隣の部屋ってぇ、私達なんですけどぉ??」と意味深な……バレてる!!
「序列順ですか?じゃあ次は私達??」
シルファの言葉に顔を引きつらせるミレーナさんだが動揺しているのがよくわかる。
「そうですわね。自ら率先して行動を取らないと隊員に示しがつきませんわ。」なんて訳のわからない言葉を発しているのだ。マリーは何が何だかわからないようで小首を傾げている。
「私ぃまだぁ心の準備ってぇできてないですよぉ~。は・じ・め・て!なんですぅ。なぁんちゃって!あははは」
「まだ村の復興の準備も進んでないですよ?」
なんちゅう爆弾を投下するんだこの子たち!!
そう思った時にはマリーとミレーナさんの顔が赤とも青ともいえない色になって視線を彷徨わせる。
「あれぇ?言い過ぎたかなぁ??」
「だから私は本当にやるか聞いたんだよ?」
「だってぇ吸血鬼はぁ夜こそ本来の活動時間なのにぃ、隣の部屋であんなことされると目が冴えちゃうんだもん!!」
双子がリューネがミレーナをジト目で見ながらそう言い放つ。
シルファはマリーを見ながら「隊長も声大きいよね?」なんて言う。
もう何が何だか……
「んふ~。ではこうしよう。これからは順番にトウヤの部屋で寝る!んふ~。もう私も発情期は終わったから自室で寝る。それでいいか?フンス!!」
へ?それはそれで俺の意見を無視してるような??
「おぉ!でもぉ発情期の子はぁ順番待ちぃ?待てるのかなぁ~~?マリア隊長ぉ?」
「う!!んふぅ。それは時期もある程度わかるから考慮してだな。ふぅ~」
「吸血鬼は新月で不安で人肌恋しく、満月は興奮してしまうから二回?」
おおう。この吸血鬼姉妹なんかえぐい!攻めるときは徹底してるな!!
「それで行くと原人種はいつでもできるよね?」
「それ種族関係なくない?」
「エルフは性欲少ないんじゃ?」
そばで聞いていた隊員が口々にそう言い始める。
よく見るとマスクしてる組だ。昨日のミレーナさんの発言の後からマスクをしない者も多い中それでも仕事中はとマスクをしていた者(今も食事前なのにマスクをしている)が皆俺のことを無視して話を進めている。
マスクをしていないものは戸惑った感じでキョロキョロとしているところを見るとこれって?
ちょっと待って!これってマスクの所為?
なんで?
は!!この世界に匂いの成分99%カットとかそんなマスクある訳ないじゃん!!
むしろマスクに匂いが移って……
正解を導き出した時には既に手遅れのようでマスク組はちょっと興奮し始めてる。
「マスク外して!!夢魔の匂いが移ってるんだ!!」
俺がそう叫ぶとマスク組の発言に動揺していた者全員が動き出す。
マスクを剥ぐと皆呆然としつつも今のことを思い出す。
「「「「トウヤごめん!!」」」」
マスクをしていた者が揃って謝ってくる。
「いや、それもこれも匂いの所為だし…ちょっとづつ薄れてるはずだからもうマスクしてる方が危ないかも……」
「え、えぇそうですわね。ではこれからはマスク無しにいたしましょう。」
「んふ~。そうだな……ふん。では今後悶々とするならトウヤにお願いすることにしよう。ふんす。」
なんともいえない雰囲気の中決まったルールだがこれってここに来た時点でマスクによる魅了が全員に行き渡ってしまってることを意味するんだよな?
確か二ヶ月は匂いが取れないと言う話だったが二ヶ月もあればもう手遅れなんじゃないかと思えて来た。
領主?にとってはこれが目的なんだと思うと無性に腹がたつがそれは日本文化の記憶がある俺だからなんだろう。
領主にとってはと言うか国?にとってはここの蜂蜜がなくなることの方が大問題ってことなんだよな?
昨日一緒に行動してた護衛騎士の名前は確かネスティさん曰くここの薬用蜂蜜は最上級ポーションの材料で世界中見てもこの国と一部地域で自然に取れる高級蜂蜜でないと作れないと聞いた。
ここの蜂蜜がないと少なくともこの国の中、いや隣国でも最上級ポーションが作れなくなるとのことだ。
人権無視してでも欲しい代物だと言うのは理解できるが全く納得できない。
最高級ポーションはちぎれた腕でも生えると言う噂だが、普段の使い方はそうではなく病気の時によく使われる。
普通のポーションでは外傷にしか効果はないが最上級のポーションともなれば一部の病気に効果があるそうだ。
病名は肺の病と一括りにされているがどうも蜂蜜の漢方としての効能にしか聞こえてこない。
安い蜂蜜でも効果はありそうだが最上級ポーションを構成してるなんらかの薬草との相乗効果なんだろう。
そう考えると鍼灸でも対処できそうな気もしてくるがどんな症状なのか見たこともなく、治療に行く義理もないからどうでもいいか。
一日バラバラに仕事をしたものをここで報告してまとめる。
まとめたものはミレーナさんがフクロウを使ってアメジスの街に報告するのだという。疲れ切って猫背気味のミレーナさんが不憫だ。
あっという間の一日であったがまだまだやることは多い。
だが今日は朗報があったのだ、騎士団のみんながお風呂の準備をしてくれていた。この世界でお風呂というのは結構贅沢なものだ。蜂は匂いに敏感であるので養蜂業をしてるナナヤ村は大衆浴場があって、そこで汗の匂いを落としていた。一家に一つなんて高すぎて設置できないからな。だいたいお風呂に入れるだけの水を準備するにも大変だ。近くに川があるとはいえ何往復することやら……。
そういった事情があるためにこの村にはお風呂は重要な施設。にもかかわらずここに建っていた屋敷にはお風呂がなかったのだ。まぁ建てたのは工作兵の人なのでここは兵舎をもとに設計され、男性の兵士は体を蒸らした布で拭く程度しかしないとでも思ってたんだろうな。
そりゃあ建てた当初はこんな事態になるなんて思ってなかったのかもしれないがお風呂の一つぐらいあってもいいんじゃないだろうか?
そういえば蜂は俺の体臭には特に反応してなかったな。やっぱり虫と人とで興奮する匂いが違うんだろうな。
ナナヤ村復興のためには蜂と敵対しないよう早い段階で体臭問題、つまりお風呂が必要であったがためにミレーナさんに相談するとすぐさま了承された。
ただ一つ問題があるとするのなら男が俺1人なので男湯と女湯を分けるなんて手間をしていないことだ。まぁ邸の一室を改装したのだからちょっと大きな家ブロみたいなものだがな。
ゆくゆくはできるようになるのだろうが今はそんな手間をかけるぐらいなら他にすることがあると混浴状態である。
まぁそれは時間をずらすだけでどうとでもなる。
俺が一番風呂を使っていいとのことでお風呂に入っているとやはりというべきか魅了にかかっているメンバーがみんな入ってくる。
必死に耐えようとは思ったがさっさと済ました方が楽だと思い直して行為に至ったわけです。
背中を流すといいながら抱きついてくるミーシャねぇに前を流すとクローディアさん。
2人を引き剥がして絡まってくるムースさんとロロアさん。
露骨な4人の行動にリーラとレイラの姉妹が負けじと抱きついて来てもう理性なんて保てませんよ。
浴場に漂う匂いで欲情なんてつまらないダジャレを思いつき苦笑する。
お風呂から上がった時には疲れを取るどころか余計に疲れていたほどだった。
しかも上がったところで女騎士の皆さんに長風呂だったけど何したのかと問い詰められてもう散々だ。
少し1人になりたくなった俺は逃げるように外の風に当たっている。ふと村のみんなの墓のことを思い出す。
夜ではあるものの色々あってまだちゃんと手を合わせていなかった。
午前中騎士の女性が言ってた村人の墓に向かうことにして松明を取りに戻る。
薄暗い中松明を片手に蜂の巣箱の近くにあるお墓へと向かう。
墓の近くには七色クローバーの畑があるのでその花を摘んでくる。
前世にあるシロツメグサのような花が咲いてるがその花が多種多様な色を持っていてすごく綺麗なのだ。
墓参りには不適切かもしれないがこの村に住んでた皆んなは親しみのあるこの花を供えるのが一番であろう。こんもりと持った土の前に花を添えると涙があるれてくる。
盗賊によって村を焼かれみんな殺された。
俺はただただ前世の記憶が流れて来たことに混乱していて状況もわからずにいただけだった。
あの瞬間は父さんと母さんのことが頭になかったのだ。生気がなく床に横たわる姿を見てやっと思い出すなんてなんて親不孝ものなんだ。
「ごめんなさい……」
無意識に呟いた言葉にさらに涙が溢れる。
助けに来てくれたと思った童顔の女性は父さんと母さんを殺した盗賊だった。
「ごめんなざい……」
そんな人に手を引かれ助かるとさえ思った自分に腹がたつ。
「うぐっ…」
捕まった後もブービットさんが殺されるのを何も言わずにただただ見ていた。
「ふ、ぅあ………あ!!」
不意に背後から抱きしめられる。
「こんな時間に墓参りですの?我慢しなくてもいいんですのよ。」
この喋り方はミレーナさん!?
「辛いことがあったんですもの。」
「ふぐっ、俺は…俺……お、俺は、なに、何も、でき、できなかっだ。」
「抵抗しても殺されたかもしれませんわ。」
「馬車の……馬車の中で…抵、抗も、せず、お、犯さ、うぐっ言わ、言われるが……言われるがままにぃぃぃうぐっ、村の……と………途中、途中から、たの、楽しく、なって自分、じびん、じぶんから、して、いたんじゃ…と……と…」
「夢魔の魅了のせいですのよ。あなたはちゃんと理性と戦っていましたわ。」
「ふぐっ…うぅ……みんな、みんなのこと、見てるとぉ……気持ちが、きも、気持ちが、変な、感じに、なってしま、ですぅぅぅ。が、我慢、してる、に……」
「いいんですのよ。我慢しなくっても。私たちに甘えてくださいな。」
ミレーナさんが優しく包み込んでくれるようでどこか気持ちが楽になっていく。
あぁもう我慢しなくていいのか。そう思ったらミレーナさんのいい匂いが……
ミレーナさんの方に向き直り抱きつくと落ち着くまで背中をさすってくれる。
あぁこの人は俺にこびりつく夢魔の匂いには唯一抵抗してたんだったな。
あぁそういえばこの人だけじゃないのか?こうして俺のことを見てくれてるのは??
抱きつく力が自然と強くなる。
「あっ!」
ミレーナさんから声が漏れる。
いけない!!この人にはそういうのダメだ!!
ダメだダメだと思うほど力が強くなる。
「少し、少し力を緩めてくださいな。」
「ぅぅ、ミレーナさん…」
顔を上げて目を見つめると少し頬が赤いミレーナさんがいる。
顔が自然と近づく……後少し、後少しで!
「いけませんわ。ここではいけませんわ。お墓の前ですの。」
「あ…そう、ですね……」
ミレーナさんから言われて気がついた。
なんてことだ!俺は夢魔の魅了にまだ抗えないというのか!!
「風邪を引きますわ。戻りましょう。」
そっと肩を抱いてくれるミレーナさんの優しさが嬉しい。
村のみんなのお墓を後にして部屋へと向かうが今日はもうちょっとミレーナさんと一緒にいたい気分だ。
「ミレーナさん…もうちょっと……一緒にいたいです。」
「んふ、いいですわよ。では私の部屋に行きますか?」
ミレーナさんに肩を抱かれたままミレーナさんの部屋へと入ると一瞬ミレーナさんが笑ったような気がした。
これも魅了の所為こんな幻覚まで見せるのかと嫌気がさす。
ベットの上で座るとミレーナさんが棚の方へと向かった。
「冷えた時にはお茶でも飲みましょう。」
柑橘系の香りのする紅茶を出してくれたので2人並んでお茶を飲む。
ティーカップを傾ける様がすごく色っぽい。
いつになったらこの魅了効果が治るんだと嫌気がさしつつ一気にお茶を飲み干す。
「ふぅ…」
そろそろ迷惑になりそうなので退席しようとベットから立ち上がるとミレーナさんが俺の手を握る。
「今日はここでお休みになったらどうですの?戻ったらまた…ですわよ??」
あぁそうだ。確かに戻ったら押し倒されるだろうな。
みんなまだまだ魅了効果に争いきれていないのだ。特に今日は別行動をとっていた時間も長いのでかなりひどいことになりそうだ。風呂であぁだったことを考えるとゾッとする。それに今の気持ちでは……
「じゃあ。みんなが寝た頃に戻ります。」
「そう…ですわね……では横になった方がよろしいですわ。」
そう言ってベットに招いてくれるがミレーナさんのいい匂いがベットから湧き上がる。
昨日の今日でこんなに匂いが!!
そう思ったが俺のことをちゃんと見てくれてる人は今の所この人ぐらい、無粋な感情を無理やり押さえつける。
お言葉に甘えてベットに入るとミレーナさんが添い寝してくれる。
もう頭がクラクラしてくる。
頭を撫でて微笑んでくれる顔を見ると鼻と鼻がつきそうなほど近い。
ハッと気がつくとミレーナさんを押し倒していた。紅潮した顔がなんとも艶かしい。
ダメだと思っているのに体は言うことを聞かない。
「ごめんなさい。」
俺がそう呟くとミレーナさんは俺の頭を撫でながら首を横に振る。
「いいんですわ。それに謝られながら抱かれたくありませんわ。愛があるならいいんですの。」
その言葉を聞いた俺はもう自制が効かなかった。
いったいどれほどの時間が経ったかはわからない。ミレーナさんがもう眠っている?意識がない?ほどには時間が経っている。それでもこの悶々とした気持ちが収まらない。このまま一緒にいるのはまずいと思った俺は自室へと戻ることにした。
部屋に戻るとムワッと女の匂いが鼻腔をくすぐる。
待ってましたとばかりに手を引きベットへと押し倒されたがもう誰がどこを触っているのかわからない。
痺れる頭に朦朧とする。
朝になり着替えていると昨日どこにいってたのかとみんなから問い詰められてしまった。マリーもすでにその輪の中に自然と溶け込んでしまっているのが不思議ではあるのだが「お墓」そう答えるだけで皆黙り込んだ。嘘は言ってない。確かにお墓には行ってたんだ。
でもなんだこの罪悪感は?
食堂に向かうとミレーナさんがつやつやとした顔で迎えてくれた。
どう見ても昨日より肌ツヤが良く元気そうだ。昨日までは仕事が多くて疲れきっていたように見えたのだが……
まさかこれって房中術の……まさかな。
本に書いてあった房中術は男性を元気にする術のはずだし房中術は『(精は)決して漏らさず』が鉄則だ。
あれ?でも精って元気のことでもあるから女性に元気を与えてるとも取れなく……
「おはようございます。」
そうこう考えてるとミレーナさんが挨拶をしてくる。
「あ、おはようございます。」
「んふ~。おはようミレーナ。今日はよく眠れたのか?なんだか顔色がいいな。ふん。」
「えぇ。それは心も体もすっきりといたしましたわ。今までになく体調が良いようですの。」
「んふ~。風呂を作った甲斐はあったようだな。ふん。」
「え、えぇ私頑張りましたので。」
なんだこの感じ……気まずい………
二、三言葉を交わすと吸血鬼姉妹のリューネとシルファがやってくる。リューネは俺とミレーナさんの耳元に「隣の部屋ってぇ、私達なんですけどぉ??」と意味深な……バレてる!!
「序列順ですか?じゃあ次は私達??」
シルファの言葉に顔を引きつらせるミレーナさんだが動揺しているのがよくわかる。
「そうですわね。自ら率先して行動を取らないと隊員に示しがつきませんわ。」なんて訳のわからない言葉を発しているのだ。マリーは何が何だかわからないようで小首を傾げている。
「私ぃまだぁ心の準備ってぇできてないですよぉ~。は・じ・め・て!なんですぅ。なぁんちゃって!あははは」
「まだ村の復興の準備も進んでないですよ?」
なんちゅう爆弾を投下するんだこの子たち!!
そう思った時にはマリーとミレーナさんの顔が赤とも青ともいえない色になって視線を彷徨わせる。
「あれぇ?言い過ぎたかなぁ??」
「だから私は本当にやるか聞いたんだよ?」
「だってぇ吸血鬼はぁ夜こそ本来の活動時間なのにぃ、隣の部屋であんなことされると目が冴えちゃうんだもん!!」
双子がリューネがミレーナをジト目で見ながらそう言い放つ。
シルファはマリーを見ながら「隊長も声大きいよね?」なんて言う。
もう何が何だか……
「んふ~。ではこうしよう。これからは順番にトウヤの部屋で寝る!んふ~。もう私も発情期は終わったから自室で寝る。それでいいか?フンス!!」
へ?それはそれで俺の意見を無視してるような??
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「う!!んふぅ。それは時期もある程度わかるから考慮してだな。ふぅ~」
「吸血鬼は新月で不安で人肌恋しく、満月は興奮してしまうから二回?」
おおう。この吸血鬼姉妹なんかえぐい!攻めるときは徹底してるな!!
「それで行くと原人種はいつでもできるよね?」
「それ種族関係なくない?」
「エルフは性欲少ないんじゃ?」
そばで聞いていた隊員が口々にそう言い始める。
よく見るとマスクしてる組だ。昨日のミレーナさんの発言の後からマスクをしない者も多い中それでも仕事中はとマスクをしていた者(今も食事前なのにマスクをしている)が皆俺のことを無視して話を進めている。
マスクをしていないものは戸惑った感じでキョロキョロとしているところを見るとこれって?
ちょっと待って!これってマスクの所為?
なんで?
は!!この世界に匂いの成分99%カットとかそんなマスクある訳ないじゃん!!
むしろマスクに匂いが移って……
正解を導き出した時には既に手遅れのようでマスク組はちょっと興奮し始めてる。
「マスク外して!!夢魔の匂いが移ってるんだ!!」
俺がそう叫ぶとマスク組の発言に動揺していた者全員が動き出す。
マスクを剥ぐと皆呆然としつつも今のことを思い出す。
「「「「トウヤごめん!!」」」」
マスクをしていた者が揃って謝ってくる。
「いや、それもこれも匂いの所為だし…ちょっとづつ薄れてるはずだからもうマスクしてる方が危ないかも……」
「え、えぇそうですわね。ではこれからはマスク無しにいたしましょう。」
「んふ~。そうだな……ふん。では今後悶々とするならトウヤにお願いすることにしよう。ふんす。」
なんともいえない雰囲気の中決まったルールだがこれってここに来た時点でマスクによる魅了が全員に行き渡ってしまってることを意味するんだよな?
確か二ヶ月は匂いが取れないと言う話だったが二ヶ月もあればもう手遅れなんじゃないかと思えて来た。
領主?にとってはこれが目的なんだと思うと無性に腹がたつがそれは日本文化の記憶がある俺だからなんだろう。
領主にとってはと言うか国?にとってはここの蜂蜜がなくなることの方が大問題ってことなんだよな?
昨日一緒に行動してた護衛騎士の名前は確かネスティさん曰くここの薬用蜂蜜は最上級ポーションの材料で世界中見てもこの国と一部地域で自然に取れる高級蜂蜜でないと作れないと聞いた。
ここの蜂蜜がないと少なくともこの国の中、いや隣国でも最上級ポーションが作れなくなるとのことだ。
人権無視してでも欲しい代物だと言うのは理解できるが全く納得できない。
最高級ポーションはちぎれた腕でも生えると言う噂だが、普段の使い方はそうではなく病気の時によく使われる。
普通のポーションでは外傷にしか効果はないが最上級のポーションともなれば一部の病気に効果があるそうだ。
病名は肺の病と一括りにされているがどうも蜂蜜の漢方としての効能にしか聞こえてこない。
安い蜂蜜でも効果はありそうだが最上級ポーションを構成してるなんらかの薬草との相乗効果なんだろう。
そう考えると鍼灸でも対処できそうな気もしてくるがどんな症状なのか見たこともなく、治療に行く義理もないからどうでもいいか。
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ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
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本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
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