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子供(ガキ)
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学校をサボった。
いつものようにギリギリまで寝て、家を出たのだけどわたしの足は学校には向かわず、ふらふらと横道にそれ、曲がったことのない方向に曲がり、あんまり見覚えのない景色へと向かう。
「あー……」
どこだかわからない。
ま、ケータイの地図で帰れるんだけど。
「充電切れてる」
うっかりしていた。
どこの住宅街なんだろう。店とかぜんぜんない方向に向かおうとして、住んでる人しか使わないタイプの道に入り込んでしまったらしい。
わりと方向音痴なのに。
うろうろと歩き回ったけど、よくわからなくなって、疲れたので目に付いた小さな公園のベンチに座り込む。もうあれだ。ケーサツとかに声をかけられる感じで助けてもらおう。
さもなきゃおっさんに声をかけて援交だ。
お小遣いもらって、処女捨てて、家まで送ってもらえば一石三鳥、男の味を知ったわたしはおにいなんかどうでも良くなって、幸せなビッチになるのだ。タケシを飼って、目の前でミコシーと絡んでいるところを見せてやろう。
ふふん。
「……」
おっさん、見当たらない。
土曜日の朝から歩いてるのはおじいおばあばかりだった。健康長寿を目指して熱心に歩いているから、女子高生なんかに声をかけたりもしない。若い人間のことなんてどうでもいい。高齢化社会が極まってる。
自分が死ぬまで幸せならオッケー。
「おにい」
なにしてるんだろ。わたし。
ケーサツも巡回には来なかった。わたしはおっさんを探すのにも飽きて、ベンチからすべり台に移動して滑らずに寝る。薄い白い雲に、飛行機雲が延びていた。精子って感じだ。
「ヒロヒロ」
今日は学校に行って会うべきだった?
なんか文芸部での出来事が夢みたいに思えてくる。もしかして夢なのかも。うん、あんなおっきいの入る訳ないし、部長さんのアゴだって外れちゃうし、そうに違いない。ありえないよ。
「……」
ヤられちゃえば良かった。
そうしたら悩むことなんてなにもなかった。おにいを押し倒して、泣かせて、犯して終わった。処女がいけない。膜ってのはたぶん頭の中にある。モヤモヤして、突き抜けられない思考にぶちあたるのが処女膜なんだ。
「おねえちゃん」
「わたし、妹だからー」
「おねえちゃん」
「だから、妹だって」
声のした方、すべり台の上を見ると、小さい男の子が首を傾げてわたしを見下ろしてた。おねえちゃんって呼んでたのは、そっか。
「すべれないんだけど」
「そのまますべりなよ。頭蹴っ飛ばす気で」
「あぶないよ?」
「あっはっは、そんなちっちゃい身体でおねえちゃんがどうなると、でっ!? も!」
勢いよく滑ってきた男の子の足がわたしの頭に当たって、思いっきり砂場に吹っ飛んだ。たっぷり砂を噛みながら起きあがる。
「なんで滑ったの!?」
「おねえちゃん、すべれっていったよ?」
男の子はケロリとして言う。
「んん」
なかなかどうして大物じゃない。
わたしはすべり台から立ち退いた。
「フォーヴ・チェンジ!」
男の子はすべり台の上に登るとなにかを叫んで、駆け下りてからスライディングするように滑った。あれは確かに勢いがつく。なだらかで、ほとんど刺激なんてなさそうな遊具なのに、ちゃんと自分で楽しめるようにしてる。
「ギギー!」
男の子はまた叫んだ。
「ねー? なにそれー」
「ギャッホ、ギャッホ」
わたしの言葉に、男の子は片手をつきだして、なにかを掴むような仕草をした。あれだ、映画で見たことある。NYのクモのヤツだ。
「スパイダー……」
「ホワイトモンキーだよ」
男の子は首を振った。
「ホワイトモンキー?」
白サル? くっそダサい。
「そんなの流行ってるの?」
わたしは尋ねる。
「はやってないよ。ぜんぜんはやってない。だからテレビもおわっちゃうよ。ママもみちゃだめだっていうよ。きょういくにわるいって」
男の子は早口で言って、すべり台を逆に駆け上がった。このナチュラルなマナー違反、確かに教育に悪そうだ。白いサルだもん。
「ゲッゲッゲ」
男の子はサルの鳴き真似みたいな声を出す。
「ホワイトモンキーは喋らないの?」
「しゃべらないよ」
またすべり台を駆け下りて滑って、最後には砂場にぴょんとジャンプしながら、男の子は言った。機敏で物怖じしなさそうなのに、なんでこの子はひとりなんだろう。
「しゃべれないよ」
「喋れないんだ? ホワイトモンキー」
「チェンジするとしゃべれないよ。だからいつもたいへんなことになるんだよ。こまったひとをたすけたのにきらわれたりするよ。ぎゃくにこうげきされたりして、たいへんだよ」
「変なの」
最近のヒーローってそうなのかな。
おにいが小さい頃に見てたのはもっとカッコいい感じだったような記憶がある。わたしがそれの真似して、おにいが敵をやってた。すぐに必殺技を撃ったら「そうじゃない」とか怒られた。
早く撃つとトドメにならないらしい。
必殺技なのに。
「おねえちゃん。がっこういかないの?」
「え?」
いきなり核心ついてくるな。
「ぼくもいかないよ」
「あー、おねえちゃんもいかない」
なるほど、いかない同士。
「いっしょにあそぶ?」
「そーしよっか?」
わたしを口説こうとは将来有望な子だ。
「ぼく、まさき」
「わたし、リツ」
自己紹介をして、わたしたちは遊んだ。
鬼ごっことか、かくれんぼとか、おにいと小さい頃によくやったような遊び、わりといい勝負だった。まさきは公園を熟知していたから、記憶より身体が大きくなっててうまくやれないわたしよりぜんぜん強い。
しかも元気いっぱいだ。
「ちょ、待って。休ませて」
ふたりの鬼ごっこは持久走と変わらない。
「リツ、よわい」
まさきはつまんなそうに言う。
「よ、よわくないから! 鬼ごっこって、いかに上手く追いかけられないように立ち回るかだから! かくれんぼ、もっかいかくれんぼ!」
子供に飽きられるのはちょっと悔しい。
「かくれんぼもっとよわいし」
「……」
確かに、自分でも感じていた。この小さい公園内でわたしが隠れられる場所は限られすぎている。どうしてもどこか隠れきれない。大人の女になってしまったのね。リツ。隠し切れないセクシーがセクシャル。
「ぼく、かえる」
「帰る!?」
子供のつぶやきにわたしは傷ついた。
「帰っちゃうの? まさき。モテ期のおねえちゃんを捕まえて、一生後悔するよ? 十年後に土下座したって知らないよ?」
「リツ、いみわかんない」
哀れみの目、わたしにはそう見えた。
「そーですか!」
カチンときた。わたしはパッとかけだして、まさきを捕まえると周囲に人の目がないことを確認してそのまま女子トイレに連れ込む。
「……」
「どーよ?」
個室の鍵を閉め、わたしは勝ち誇る。
「ぼく、トイレいきたくないよ」
トイレに座らされたまさきは不安そうだ。
「じゃー、いきたくなるまで見ててあげよっか」
わたしは言う。
「いみわかんない」
「……」
確かに。
これからどうしようって言うんだろう。
勢いで連れ込んでしまったが、この先のことをなんにも考えていない。ド・サドおねえちゃんに変貌してあんまり人生を狂わせるようなトラウマを与えるのもどうかと思う。
「まさき、おっぱいさわりたくない?」
サービスだ。
「リツ、ばか?」
口を慎め、このクソガキ。
わたしのおっぱいを触りたくてみんなおかしくなってるんだぞ。おにいは女装するし、ミコシーは同性愛オープンにするし、タケシは豚野郎だし、ヒロヒロはアレがアレしちゃう。
「さわらせてあげよーか?」
「いい。こどもじゃないから」
「いや、子供だよ」
「こどもじゃない」
「ママのおっぱい吸ってたでしょ? 一昨日ぐらいまで、昨日? 今朝かもしれない。家に帰って吸うから? 帰りたいの?」
「……」
まさきは口をへの字に曲げた。
怒ったらしい。男の子としてのプライドが傷ついたみたいだ。ゾクゾクしてきた。反抗的なのも面白い。ここはいい思い出を残してあげよう。
「わたし、さわってほしーな」
わたしはシャツのボタンをはずして、胸元を露出させる。素直にエッチになれないなら、こうだ。さすがに目の前に出てきたら。
「なんかへん」
まさきはつぶやいた。
「変って!」
「ちっさいよ。リツ。ほんとにおんな?」
おい、このクソガキ。
いつものようにギリギリまで寝て、家を出たのだけどわたしの足は学校には向かわず、ふらふらと横道にそれ、曲がったことのない方向に曲がり、あんまり見覚えのない景色へと向かう。
「あー……」
どこだかわからない。
ま、ケータイの地図で帰れるんだけど。
「充電切れてる」
うっかりしていた。
どこの住宅街なんだろう。店とかぜんぜんない方向に向かおうとして、住んでる人しか使わないタイプの道に入り込んでしまったらしい。
わりと方向音痴なのに。
うろうろと歩き回ったけど、よくわからなくなって、疲れたので目に付いた小さな公園のベンチに座り込む。もうあれだ。ケーサツとかに声をかけられる感じで助けてもらおう。
さもなきゃおっさんに声をかけて援交だ。
お小遣いもらって、処女捨てて、家まで送ってもらえば一石三鳥、男の味を知ったわたしはおにいなんかどうでも良くなって、幸せなビッチになるのだ。タケシを飼って、目の前でミコシーと絡んでいるところを見せてやろう。
ふふん。
「……」
おっさん、見当たらない。
土曜日の朝から歩いてるのはおじいおばあばかりだった。健康長寿を目指して熱心に歩いているから、女子高生なんかに声をかけたりもしない。若い人間のことなんてどうでもいい。高齢化社会が極まってる。
自分が死ぬまで幸せならオッケー。
「おにい」
なにしてるんだろ。わたし。
ケーサツも巡回には来なかった。わたしはおっさんを探すのにも飽きて、ベンチからすべり台に移動して滑らずに寝る。薄い白い雲に、飛行機雲が延びていた。精子って感じだ。
「ヒロヒロ」
今日は学校に行って会うべきだった?
なんか文芸部での出来事が夢みたいに思えてくる。もしかして夢なのかも。うん、あんなおっきいの入る訳ないし、部長さんのアゴだって外れちゃうし、そうに違いない。ありえないよ。
「……」
ヤられちゃえば良かった。
そうしたら悩むことなんてなにもなかった。おにいを押し倒して、泣かせて、犯して終わった。処女がいけない。膜ってのはたぶん頭の中にある。モヤモヤして、突き抜けられない思考にぶちあたるのが処女膜なんだ。
「おねえちゃん」
「わたし、妹だからー」
「おねえちゃん」
「だから、妹だって」
声のした方、すべり台の上を見ると、小さい男の子が首を傾げてわたしを見下ろしてた。おねえちゃんって呼んでたのは、そっか。
「すべれないんだけど」
「そのまますべりなよ。頭蹴っ飛ばす気で」
「あぶないよ?」
「あっはっは、そんなちっちゃい身体でおねえちゃんがどうなると、でっ!? も!」
勢いよく滑ってきた男の子の足がわたしの頭に当たって、思いっきり砂場に吹っ飛んだ。たっぷり砂を噛みながら起きあがる。
「なんで滑ったの!?」
「おねえちゃん、すべれっていったよ?」
男の子はケロリとして言う。
「んん」
なかなかどうして大物じゃない。
わたしはすべり台から立ち退いた。
「フォーヴ・チェンジ!」
男の子はすべり台の上に登るとなにかを叫んで、駆け下りてからスライディングするように滑った。あれは確かに勢いがつく。なだらかで、ほとんど刺激なんてなさそうな遊具なのに、ちゃんと自分で楽しめるようにしてる。
「ギギー!」
男の子はまた叫んだ。
「ねー? なにそれー」
「ギャッホ、ギャッホ」
わたしの言葉に、男の子は片手をつきだして、なにかを掴むような仕草をした。あれだ、映画で見たことある。NYのクモのヤツだ。
「スパイダー……」
「ホワイトモンキーだよ」
男の子は首を振った。
「ホワイトモンキー?」
白サル? くっそダサい。
「そんなの流行ってるの?」
わたしは尋ねる。
「はやってないよ。ぜんぜんはやってない。だからテレビもおわっちゃうよ。ママもみちゃだめだっていうよ。きょういくにわるいって」
男の子は早口で言って、すべり台を逆に駆け上がった。このナチュラルなマナー違反、確かに教育に悪そうだ。白いサルだもん。
「ゲッゲッゲ」
男の子はサルの鳴き真似みたいな声を出す。
「ホワイトモンキーは喋らないの?」
「しゃべらないよ」
またすべり台を駆け下りて滑って、最後には砂場にぴょんとジャンプしながら、男の子は言った。機敏で物怖じしなさそうなのに、なんでこの子はひとりなんだろう。
「しゃべれないよ」
「喋れないんだ? ホワイトモンキー」
「チェンジするとしゃべれないよ。だからいつもたいへんなことになるんだよ。こまったひとをたすけたのにきらわれたりするよ。ぎゃくにこうげきされたりして、たいへんだよ」
「変なの」
最近のヒーローってそうなのかな。
おにいが小さい頃に見てたのはもっとカッコいい感じだったような記憶がある。わたしがそれの真似して、おにいが敵をやってた。すぐに必殺技を撃ったら「そうじゃない」とか怒られた。
早く撃つとトドメにならないらしい。
必殺技なのに。
「おねえちゃん。がっこういかないの?」
「え?」
いきなり核心ついてくるな。
「ぼくもいかないよ」
「あー、おねえちゃんもいかない」
なるほど、いかない同士。
「いっしょにあそぶ?」
「そーしよっか?」
わたしを口説こうとは将来有望な子だ。
「ぼく、まさき」
「わたし、リツ」
自己紹介をして、わたしたちは遊んだ。
鬼ごっことか、かくれんぼとか、おにいと小さい頃によくやったような遊び、わりといい勝負だった。まさきは公園を熟知していたから、記憶より身体が大きくなっててうまくやれないわたしよりぜんぜん強い。
しかも元気いっぱいだ。
「ちょ、待って。休ませて」
ふたりの鬼ごっこは持久走と変わらない。
「リツ、よわい」
まさきはつまんなそうに言う。
「よ、よわくないから! 鬼ごっこって、いかに上手く追いかけられないように立ち回るかだから! かくれんぼ、もっかいかくれんぼ!」
子供に飽きられるのはちょっと悔しい。
「かくれんぼもっとよわいし」
「……」
確かに、自分でも感じていた。この小さい公園内でわたしが隠れられる場所は限られすぎている。どうしてもどこか隠れきれない。大人の女になってしまったのね。リツ。隠し切れないセクシーがセクシャル。
「ぼく、かえる」
「帰る!?」
子供のつぶやきにわたしは傷ついた。
「帰っちゃうの? まさき。モテ期のおねえちゃんを捕まえて、一生後悔するよ? 十年後に土下座したって知らないよ?」
「リツ、いみわかんない」
哀れみの目、わたしにはそう見えた。
「そーですか!」
カチンときた。わたしはパッとかけだして、まさきを捕まえると周囲に人の目がないことを確認してそのまま女子トイレに連れ込む。
「……」
「どーよ?」
個室の鍵を閉め、わたしは勝ち誇る。
「ぼく、トイレいきたくないよ」
トイレに座らされたまさきは不安そうだ。
「じゃー、いきたくなるまで見ててあげよっか」
わたしは言う。
「いみわかんない」
「……」
確かに。
これからどうしようって言うんだろう。
勢いで連れ込んでしまったが、この先のことをなんにも考えていない。ド・サドおねえちゃんに変貌してあんまり人生を狂わせるようなトラウマを与えるのもどうかと思う。
「まさき、おっぱいさわりたくない?」
サービスだ。
「リツ、ばか?」
口を慎め、このクソガキ。
わたしのおっぱいを触りたくてみんなおかしくなってるんだぞ。おにいは女装するし、ミコシーは同性愛オープンにするし、タケシは豚野郎だし、ヒロヒロはアレがアレしちゃう。
「さわらせてあげよーか?」
「いい。こどもじゃないから」
「いや、子供だよ」
「こどもじゃない」
「ママのおっぱい吸ってたでしょ? 一昨日ぐらいまで、昨日? 今朝かもしれない。家に帰って吸うから? 帰りたいの?」
「……」
まさきは口をへの字に曲げた。
怒ったらしい。男の子としてのプライドが傷ついたみたいだ。ゾクゾクしてきた。反抗的なのも面白い。ここはいい思い出を残してあげよう。
「わたし、さわってほしーな」
わたしはシャツのボタンをはずして、胸元を露出させる。素直にエッチになれないなら、こうだ。さすがに目の前に出てきたら。
「なんかへん」
まさきはつぶやいた。
「変って!」
「ちっさいよ。リツ。ほんとにおんな?」
おい、このクソガキ。
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