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第51話 その後

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 ローラ姫は、クリスタルソロス城にある王族用応接室にいた。
 椅子に座り、バザルークの話を聞いていたが、あまりの内容にその場から立ち上がり、声を高めた。

「バザルーク、その話は本当なの?」

「はい。姫を生き返らせたのはゴブマールさんです」

「私はアークだと聞かされていたわ」

「それは、アークの作り話です」

「間違いないのね」

「はい。私もそれなりの覚悟を持って真実を話しております」

「そうよね。よく話してくれたわ」

「姫だけでなく、私もゴブマールさんに命を助けてもらっているのです。このままでは、あまりにもゴブマールさんが……」

「その通りだわ」
 ローラ姫は目をしっかりと見開くと、バザルークに命じた。
「すぐにアークをここに連れてきてください。今すぐにです」

 その言葉でバザルークは応接室をあとにした。

 部屋で一人となったローラ姫は、思わず両手で顔を覆った。

(私は、とんでもない勘違いをしていたのだわ。このままでは、償いきれない過ちを犯してしまうところでした)

 しばらくして、バザルークがアークを連れて戻ってきた。
 アークは、余裕たっぷりに笑みを浮かべている。
 なにしろアークは、今や魔王を討伐した英雄なのだから。

(ああ、なんということでしょうか)

「アーク、あなたに聞きたいことがあります」

「なんでしょうかローラ姫」

「あなたは、魔王から私の命を救ったと聞いています。それは本当なのですか?」

「はい。魔王とリヴァイアサンをこの手で倒し、姫の命を救ったのは間違いなくこの私です」

 自信満々に話すアークの姿を見ていると、何か怖いものを感じてくる。

「アーク、あなたの話は、私が聞いているものとはかなり違います」

「姫、あの場にいた者は限られています。魔王を倒し、姫の命を救える者といえば、勇者である私しかいないはずです」

「いい加減な話はやめてください。すべてはここにいるバザルークから聞いています。リヴァイアサンを倒したのはゴブマールさんです。そして、不思議な魔法で粉々になった私を蘇らせると亡くなってしまったのです。おそらくゴブマールさんは、自分の命と引き換えに私を救ってくれたのよ」

「姫こそ、いい加減な話を信じないでください。バザルークと私、姫はどちらを信じるというのですか」

 ローラ姫はゆっくりと、しかしはっきりした口調で言った。
「私はバザルークの話を信じます」

「姫、ゴブマールは魔王だったのですよ。冒険者カードにもそう記載されています」

「ゴブマールさんが魔王の力を持っていたからこそ、あの恐ろしいリヴァイアサンを葬ることができたのです」

「とんでもありません。リヴァイアサンを葬ったのは、私です」

 そう言い切ったアークに、今まで黙っていたバザルークが口を開いた。
「アーク、もう作り話はやめにしよう。ゴブマールさんが所持していた冒険者カードには、しっかりとリヴァイアサンを倒した記録が残っているんだ」

「ふん。バザルーク、お前は俺の成功が妬ましくて、そんな虚言を吐いているのか」

「アーク、俺とお前は、ドラゴンの森で、ゴブマールさんを見捨てて逃げてきているんだ。魔王を倒すアイテムなど何も持っていないお前が、どうやって魔王を倒したというんだ」

「……」

 ローラ姫は強い目でアークを睨みつけた。
「あなたは、民衆の前でゴブマールさんの亡き骸を焼いたと聞いています。それは本当なのですか?」

「ええ。魔王はもういないと、町の人々に伝える必要がありましたから」

「この町を救ってくれたゴブマールさんを、よくも平気で、さらし者にして焼けたものね」

「姫、何度も言いますが、ゴブマールは魔王だったのです。まずは、魔王が死んで平和が訪れたことを皆で祝おうではありませんか」

「もういいです」
 ローラ姫は大きなため息をついた。
「アーク、私はあなたの顔を二度と見たくはありません。今この瞬間より、王宮護衛隊隊長を解任することにします」

「ふん、でしたらこれからはS級冒険者として生きていくだけです」

「それは無理だ」
 バザルークが声をあげた。
「もう俺は冒険者ギルドにすべてを話している。過去にアークが仲間を騙し討にしてきたことをすべて告白してきた。俺もお前も、もう冒険者になることなどできないのだよ」

「そうよ。バザルークは、真実を告白してくれたのよ。自分の罪も認めながらね」

「くっ」

「これからアークには裁判を受けてもらうことになるわ。そして、自分の犯した罪をしっかりと償ってもらいますから」

「ふん、バカバカしい。勇者である俺がどうして裁判など受ける必要があるのだ。俺は勇者だぞ。勇者に勝る者がこの世にいると思うのか」
 そう言いながらアークは、腰につけた剣を抜いた。
「バザルーク、そこをどけ。こんな茶番には付き合っていられない」

 しかし、バザルークがその場から動くことはなかった。代わりに、バザルークも自分の剣を抜いたのだった。

「勇者の俺に、お前が勝てるとでもいうのか?」

 アークはそう言うと、剣を振り上げバザルークに突進した。
 しかし、バザルークは華麗にアークの剣を避けると、一太刀でアークの脇腹を斬りつけた。
 一瞬にして勝負はついた。
 アークはうめきながら床に倒れてしまった。

「姫、この程度の実力しかない勇者が、魔王に勝てるわけがありません」

「その通りだわ。裁判までアークは捕らえておいたほうがよさそうですね」

 すぐさまバザルークは、別室で控えていた王宮護衛隊員たちに、アークを牢屋へと連れて行くように命じたのだった。

 応接室で一人になったローラ姫は、窓際に置かれた鏡の前に立った。
 ふうーと息を吐き、こう自分に言い聞かせた。

(まだゴブマールさんとの約束が一つ残っているわ。これから金貸しクローの悪事を暴かないと)

 ローラ姫は鏡に映る自分の顔を確認し、今こうして生きていられることに感謝した。

(すべて、ゴブマールさんのおかげです。ありがとうございます)

 そして、自慢のをそっと触り、整えたのだった。
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