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第6章
第2話(1)
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「皆さん、とても喜んでくださいました」
夜、ゲストルームに戻ったリュークはあらためてシリルに報告した。日中は昼休憩の後に午後の作業が控えていたことと、他の従業員たちの手前、詳細を語ることを遠慮したためだった。
交替でシャワーを浴びて部屋着に着替え、それぞれのベッドに向かい合って座る。
「指揮を執っていらしたのがブラッドリー中将という方で、あなたにくれぐれもよろしく伝えてほしいとのことでした」
「そうか、ブラッドリーが来てるのか」
警護にあたるメンバーは、近衛部隊のあいだでシフトを組んで随時入れ替わる。今回の差し入れのタイミングでは、ちょうどシリルにとっても馴染みのある、ダニエル・ブラッドリー中将が任に就いていたらしい。
彼もまた、かつてはローレンシア陸軍王室第2師団長を務めた人物であり、第1師団の長であったオクデラともども、現在は近衛府に異動になっていた。
ブラッドリーほどの立場の人間が、わざわざ出向いてくることもあるまいとは思う。だが、休暇の期間がさだめられておらず、シリル自身が思いつくまま訪ねる先を決めているため、警護する側としては不測の事態に備え、人選の面でも充分配慮しているのであろう。
「差し入れももちろんだが、おそらく、おまえ自身が届けたことも喜ぶ要因のひとつだったろうな」
シリルの言葉に、クリスタル・ブルーの双眸が不思議そうに瞬いた。
「私、ですか?」
「そうだ。オクデラ同様、ブラッドリーも5年前の救出劇の際、手を貸してくれた。まあ、それを言うなら、王室師団全体が該当するんだが、とりわけ力になってくれたのがオクデラとブラッドリーのふたりということになる」
「そうだったのですね。なにも存じ上げず、きちんとご挨拶できないまま戻ってきてしまいました」
「いまはふたりとも近衛府にいる。この先何度でも、会う機会はあるだろう」
途端に、シリルを見つめる表情がわずかに変化した。
「あの、シリル」
「どうした、急にあらたまって」
「あ、いえ、その……」
言いかけた言葉を呑みこんで、美貌のヒューマノイドは躊躇うそぶりを見せた。だが、ややあってから、意を決したように口を開いた。
「『休暇』が終わったら、王城に戻られるのでしょうか?」
王都を出てから、一度も触れたことのない話題だった。だが折りにつけ、リュークの中では気にかかっていたに違いない。
シリルは穏やかに頷いた。
「そうだな。ベルンシュタインは期限をさだめず、この先の自由を保障してくれた。だが、だからといってその言葉に甘えすぎては、あいつの負担も増える」
「そう、ですね……」
「なんだ? このままずっと、ふたりであちこち気儘に旅してまわりたいか?」
問われて、リュークは困惑したように小さくかぶりを振った。
「あ、いいえ。そんなことは……」
「王様業を廃業して、また以前のような運び屋に戻ってもいいんだがな。ただそうするには、俺は少し有名になりすぎてる。おそらく仕事を募集しても、だれも依頼してこないだろう」
シリルの冗談に、リュークはますます困ったように表情を曇らせた。
夜、ゲストルームに戻ったリュークはあらためてシリルに報告した。日中は昼休憩の後に午後の作業が控えていたことと、他の従業員たちの手前、詳細を語ることを遠慮したためだった。
交替でシャワーを浴びて部屋着に着替え、それぞれのベッドに向かい合って座る。
「指揮を執っていらしたのがブラッドリー中将という方で、あなたにくれぐれもよろしく伝えてほしいとのことでした」
「そうか、ブラッドリーが来てるのか」
警護にあたるメンバーは、近衛部隊のあいだでシフトを組んで随時入れ替わる。今回の差し入れのタイミングでは、ちょうどシリルにとっても馴染みのある、ダニエル・ブラッドリー中将が任に就いていたらしい。
彼もまた、かつてはローレンシア陸軍王室第2師団長を務めた人物であり、第1師団の長であったオクデラともども、現在は近衛府に異動になっていた。
ブラッドリーほどの立場の人間が、わざわざ出向いてくることもあるまいとは思う。だが、休暇の期間がさだめられておらず、シリル自身が思いつくまま訪ねる先を決めているため、警護する側としては不測の事態に備え、人選の面でも充分配慮しているのであろう。
「差し入れももちろんだが、おそらく、おまえ自身が届けたことも喜ぶ要因のひとつだったろうな」
シリルの言葉に、クリスタル・ブルーの双眸が不思議そうに瞬いた。
「私、ですか?」
「そうだ。オクデラ同様、ブラッドリーも5年前の救出劇の際、手を貸してくれた。まあ、それを言うなら、王室師団全体が該当するんだが、とりわけ力になってくれたのがオクデラとブラッドリーのふたりということになる」
「そうだったのですね。なにも存じ上げず、きちんとご挨拶できないまま戻ってきてしまいました」
「いまはふたりとも近衛府にいる。この先何度でも、会う機会はあるだろう」
途端に、シリルを見つめる表情がわずかに変化した。
「あの、シリル」
「どうした、急にあらたまって」
「あ、いえ、その……」
言いかけた言葉を呑みこんで、美貌のヒューマノイドは躊躇うそぶりを見せた。だが、ややあってから、意を決したように口を開いた。
「『休暇』が終わったら、王城に戻られるのでしょうか?」
王都を出てから、一度も触れたことのない話題だった。だが折りにつけ、リュークの中では気にかかっていたに違いない。
シリルは穏やかに頷いた。
「そうだな。ベルンシュタインは期限をさだめず、この先の自由を保障してくれた。だが、だからといってその言葉に甘えすぎては、あいつの負担も増える」
「そう、ですね……」
「なんだ? このままずっと、ふたりであちこち気儘に旅してまわりたいか?」
問われて、リュークは困惑したように小さくかぶりを振った。
「あ、いいえ。そんなことは……」
「王様業を廃業して、また以前のような運び屋に戻ってもいいんだがな。ただそうするには、俺は少し有名になりすぎてる。おそらく仕事を募集しても、だれも依頼してこないだろう」
シリルの冗談に、リュークはますます困ったように表情を曇らせた。
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